室蘭市は、明治5年の開港以来、製鉄・製鋼・造船などの工業技術が発展してきた北海道随一の重工業都市「ものづくりのまち」である。明治25年、北海道炭鉱鉄道が岩見沢-室蘭間に開通すると、室蘭港は石炭の積み出し港として繁栄の一途をたどり、さらにその後、明治40年に現在の(株)日本製鋼所室蘭製作所、明治42年に新日鐵住金(株)室蘭製鐵所の前身が設立されると、「鉄」の企業城下町として大変賑わった。
近代に入ると「産業構造の転換」によって、かつてほどの企業城下町としての賑わいは薄れていったものの、現在でも現役の工場が稼働しており、明治モダニズムを象徴する工場の姿を今に伝えている。
平成21年からは観光協会・商工会議所と連携して室蘭観光推進連絡会議を立ち上げ、ものづくり観光などや近年話題の夜景鑑賞を食や自然景観など様々な観光資源と連携させて滞在時間の増加などを目指している。
室蘭市は、工業港として日本の産業を引っ張ってきたが、1980年代に入ると製鋼・造船業が不況に陥り、産業都市としての活気を失っていった。そのような中、平成10年(1998年)に開通した東日本最大の吊り橋「白鳥大橋」をきっかけに、室蘭地域を自立・再生させるために「NPO法人室蘭地域再生工場」が立ち上がり、産業観光をテーマにしたフォーラムの開催や新日鐵住金・日本製鋼所などの工場見学、夜景ツアーなどを積極的に行っている。
ものづくりのまち、産業都市としての原点を求めるために、市内にある文化財等も大切に保存されてきた。明治時代頃の産業文化財が点在するのは、産業都市ならではの風景であり、この街の歩んできた歴史を物語る材料となる。
室蘭地域では、「ものづくりのまち」の風景とも言うべき「JX日鉱日石エネルギー室蘭製油所」などの各企業が放つ作業灯の輝きである「工場夜景」をはじめとした夜景鑑賞と、「鉄」といった実際の工業産業物を活かした「ものづくり体験」などの取り組みに力を入れている。室蘭の「夜景」は、市民にとって“当たり前”の風景だったが、市の広報誌で夜景特集を掲載したところ、改めて夜景の魅力に気付いたという市民の反響が非常に大きかったことから、夜景への手応えを感じ取った。現在では、地元企業と協力し船で洋上から夜景を眺める「ナイトクルージング」や「室蘭夜景見学バス」などが企画され、大変人気を集めている。
「鉄」に関連した取り組みでは、鉄のまち室蘭市輪西町の「ボルタ工房」で作られている、ボルトやナットなどを半田付けした人形「ボルタ」がある。当初は、鉄に親しむイベントとして開催されている「アイアンフェスタ」で体験溶接として作られた人形だったが、これが大変好評となった。鉄をより親しみやすくキャラクター化することで、観光活用への可能性が広がった。ものづくりのまちならではのイベントや体験教室などは、見るだけでなく実際に触り、体験し、制作するというものづくりの課程を学べる場となっている。
室蘭市の「工場夜景」は、今や全国的に知られるところとなったが、この地域に根付いている歴史や市民の街に対する思いを多くの人へ伝えていくこともまた、観光推進の一つとなっていく。室蘭市観光推進連絡会議(室蘭市・室蘭商工会議所・室蘭観光協会)は、夜景を中心として、ものづくりや食の魅力なども案内できる市民ガイドの育成にも力を入れている。
・室蘭における明治初期からの歴史的な発展経緯を重視し、それらに係わる歴史的産業資源を産業観光の素材としてうまく活用している点が評価される。
・室蘭の中心的な産業であった重厚長大型産業も時代の流れにより大きく変化していくが、「ものづくりのまち」として次世代に引き継いでいくための取り組みが評価される。
・どちらかというとマイナスのイメージを持たれがちな工場を逆転の発想で観光資源としてとらえ、工場夜景ナイトクルージングや工場夜景見学バスの運行などにより多くの観光客が訪れるようになったことが評価される。
・地域資源の特異性・独自性を充分に認識し、しかも地域内の企業や行政と市民、NPOとの連携が良くできている点が評価される。
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