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2022.2.17

【観光危機管理・事業継続力強化研究会 モデル地区事業事例のご紹介】
~地域一体で取り組むBCP普及のためのモデル構築事業~ ②

 (~地域一体で取り組むBCP普及のためのモデル構築事業~ ①から続く)

 今回の記事では、モデル地区のひとつである三重県鳥羽市にて、昨年11月に行われた支援人材育成セミナー(1日間)・事業者ワークショップ(2日間)の様子を紹介いたします。

支援人材育成セミナー(2021年11月9日)について



■目的と前提理解
 前回の記事でご紹介しましたとおり、モデルBCP案を使って観光関連事業者のBCP策定を支援する人材の育成を目的として「支援人材育成セミナー」が行われました。
 観光関連事業者におけるBCPについての基本的な概念や、実際に策定することの必要性を学び、観光関連事業者がBCPを策定していくうえでの支援方法を習得することが目的です。
 セミナーには、鳥羽商工会議所や鳥羽市の職員の方々が支援人材として参加され、講師は、観光危機管理・事業継続力強化研究会 スーパーバイザー  観光レジリエンス研究所 代表高松正人様が務められました。
 講師の高松様からは、まず、「観光事業者におけるBCPの理解」に関する講義とともに、今後、支援人材として地域の観光関連事業者のBCP策定を支援・助言していくうえでのポイント解説などがありました。
 高松講師による講義・解説を要点的にご紹介いたします。

高松講師による講義の様子
高松講師による講義の様子

◆観光関連事業者用モデルBCP開発の背景

 出典:内閣府防災 事業継続ガイドライン 第二版
出典:内閣府防災 事業継続ガイドライン 第二版

 そもそもBCPの本質は、“災害時という異常事態に近い状況の中で、短時間で事業継続を図るにはどうすればよいかということを事前に社内で考え、理解し、必要な対策や訓練を施しておくために必要なドキュメントを準備しておくためのもの”ということになります。
 つまり、起こり得る災害や危機を想定して、その対応計画を作っておく備えが必要になってきます。
 これまでのBCPモデル作成においては製造業が意識されており、
・【どんな形でも生産活動を継続すること】
・【中断された事業をいち早く再開すること】
という概念が前提になっていましたが、これを観光産業に置き換えて考えてみると、
・【価格や期待に応えられるレベルのサービス提供し、お客様が安心して快適に利用できる状況をいち早く回復すること】
ということになってきます。
 このような考え方を踏まえて、観光関連事業者における災害時の事業継続・事業回復の実践例として、具体的な4分野(宿泊、観光施設、飲食、交通)のモデルを、中小企業庁のBCPモデルに反映したものが、今回の「観光関連事業者用BCPモデル案」になります。

◆BCPの必要性・観光関連事業の脆弱性
 観光関連事業において、とりわけ宿泊や飲食サービス事業者のBCP策定率は全業種で最低の状況となっています。

出典:平成29年「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」(内閣府)
出典:平成29年「企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」(内閣府)

◆日本における企業のBCP策定の実態やBCP策定の課題・障壁
 大企業に比べて、中小企業や小規模企業は、BCPを策定している割合が低く、業界別でみると、サービス業などは低い傾向があります。

出典:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020年)」
出典:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020年)」

 またBCPを策定していない理由としては、策定の難しさや人材、時間、費用の問題も見られます。

出典:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020年)」
出典:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2020年)」

◆観光関連事業者用モデルBCP案の特徴や構成
① 事業継続計画(BCP)の基本方針 (策定・運用の目的、要点など)
② BCPの策定・運用体制 (運用推進、非常時の発動体制など)
③ 災害・危機の想定 (影響の範囲や希望・強度、対応の優先順位付けなど)
④ 平常時の減災への取り組み 
⑤ 危機対応(お客様の安全確保)の準備 (災害対応ツール・備品リストなど)
⑥ 事業継続への備え(損失額、保険加入、営業方針、必要資源や代替策、 緊急連絡体制など)
⑦ 危機への対応(体制、情報提供・収集、システムやデータのバックアップ、お客様の安全確保や帰宅支援など)
⑧ 施設被害対応
⑨ 資金の調達 (運用資金、被害復旧資金など)
⑩ 雇用維持 (従業員対応(災害対応/出勤不可対応)、給与支払い、教育訓練など)
以上のような解説がありました。

■支援人材の役割と実務について
 今後、参加者の皆さんが支援人材となっていくうえでの役割や実務内容を理解しておきます。
•事業者が、自社のBCP策定を行う際の「道案内人」「助言者」である
•BCPの検討や策定が事業者内の実務担当任せにならないよう、経営者や関係部署に働きかけを促す「橋渡し役」である
•BCPの検討や作成主体および意思決定は事業者であり、支援人材が「代筆者」になって はならない
 以上のことを念頭に置きながら、実際にどのように事業者と協業していくのかを実践的に学ぶために、支援人材役と事業者役に分かれて、地域で起こり得る災害・危機を想定するロールプレイングを行いました。 
ロールプレイングの様子
ロールプレイングの様子


 どのような事業者において、どのような災害・危機の想定がなされたかの事例
想定事業者 想定した災害・危機 留意観点
飲食店 食中毒の発生 自然災害のように建造物等の損害はないが、企業の信用は大きく損失する
宿泊施設 地震による津波
(高さ10メートル以上)
被災支援者の立場として地域に貢献できるのではないか(被災者受入れや災害ボランティア向けのプラン等)
水族館 地震と津波 お客様の安全確認はもちろんだが、飼育動物や特殊設備の保全も重要

■取り組んでみた受講者の感想
・必要な情報を整理したり、あらゆる想定を深く考えることが、難しかった。
・宿泊施設などは、自社施設の営業再開という観点に留まらず、地域として被災支援の拠点になる機能の側面もあることに気づいた。
といった声がありました。
セミナーでの学びや気づきを踏まえて、地域の事業者と行うワークショップに備えました。

(~地域一体で取り組むBCP普及のためのモデル構築事業~ ③に続く)