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 シンポジウム講演録

2013.01.22

観光地域づくりイノベーション関西における着地型観光と地域づくりの未来


平成25年1月22日(火)、大阪大学中之島センター「佐治敬三メモリアルホール」にて、「観光地域づくりによるイノベーション 関西における着地型観光と地域づくりの未来」を開催いたしました。
(主催:社団法人日本観光振興協会、観光地域づくりプラットフォーム推進機構(以下、観光PF機構)、歴史街道推進協議会)
着地型観光に関心の高い関西らしく、約180名もの皆さまのご参加をいただきました。

▼主催者挨拶:日本観光振興協会/見並陽一理事長 

日本観光振興協会は、一昨年4月1日、日本観光協会と日本ツーリズム産業団体連合会(TIJ)とが統合して生まれた。地域が主体となった新しい観光を、お客さまが使いやすいようコーディネートして、確実にお客さまに届けることを、地域や産業側と一体となって進めている。
我々のミッションは3つ。1つ目は、お客さまが自由に旅行できる環境をつくること。2つ目は、地域の環境が保全されつつ地域に活力をもたらす、お客さまの満足度の高いツアーの促進。3つ目は観光産業の持続的な成長を考えていくこと。本日のシンポジウムにはそれら全てが要約されている。観光に変革を起こすには、地域が連携し「面」としての魅力を楽しんでもらう観光をつくること。そのためには、しっかりとした推進組織=観光PFが必要。我々は、若者が希望と誇りの持てる観光を地域や産業界と共につくっていきたい。

▼プログラム

■主催 社団法人日本観光振興協会/観光地域づくりプラットフォーム推進機構/歴史街道推進協議会
■日時 平成25年1月22日(水)13:15~17:30  
■場所 大阪大学中之島センター「佐治敬三メモリアルホール」 大阪市北区中之島4-3-53
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■次第

13:15 開会の挨拶
見並 陽一(社団法人日本観光振興協会理事長)

13:25 基調講演
清水 愼一(立教大学観光学部特任教授/観光PF機構会長)

13:45 解説
『観光地域づくりプラットフォームの解説』 
大社 充 (観光PF機構代表理事/NPO法人グローバルキャンパス理事長)

13:45 事例報告
『近畿圏における先進事例の紹介』 
井戸 智樹(歴史街道推進協議会ネットワーク推進部長) 
内山裕紀子(くまの体験企画代表) 
滑田 教夫(有限会社京都旅企画代表) 
四方八洲男(NPO法人北近畿みらい理事長) 
多田 稔子(田辺市熊野ツーリズムビューロー会長)

16:15 パネル討議
『観光地域づくりによるイノベーションと持続可能な地域づくり 
~自立した観光地域づくりプラットフォームをめざして~』
(パネリスト)
畦地 履正(株式会社四万十ドラマ代表取締役)
井手 修身(イデアパートナーズ株式会社代表取締役)
久米 信行(墨田区文化観光協会理事)
鶴田浩一郎(NPO法人ハットウ・オンパク代表理事)
(コーディネーター)
大社 充 (NPO法人グローバルキャンパス理事長/観光PF機構代表理事)

18:00 閉 会
清水 愼一(立教大学観光学部特任教授/観光PF機構会長)

 

【基調講演】
清水愼一 立教大学観光学部特任教授/観光PF機構会長

商店街、飲食店、農家など多様な担い手による「住んでよし、訪れてよし」の観光地域づくりを進めていくためには、既存の縦割組織、観光協会だけでなく、横断的な推進組織=観光地域づくりプラットフォーム(観光PF)が必要である。
観光PFは、地域が主体となって自らアクションを起こすために、地域のさまざまな団体の活動を統合し、つなぎ補完して相乗効果を出し、お客さまにはワンストップサービスで対応する機能を持った組織。こうした観光PFが10年ぐらい前から各地で生まれてきた。次年度からは、観光庁が進める「観光圏」にも、観光PFが要件となった。
観光PF機構としては、着地型観光を実現し、地域の未来をそこに見出す各地の観光PFの設立、推進、その人材育成を、日本観光振興協会と共に進めていきたいと思っている。

 

【解説】
『観光地域づくりプラットフォームの解説』観光PF推進機構/大社充代表理事 

観光PFが注目され、生まれてきた背景は次の4点。(1)地域の観光振興のいきづまり(かつては地域の観光振興の主役は旅行会社。団体需要が減ってきた)、(2)旅行形態とマーケットの変化(地域が集客する必要が生まれ、地域資源を使った体験メニューを量産するも交流人口拡大につながっていない。その理由は、地域全体をマネジメントして地域の観光振興系計画を推進する体制がない)、(3)観光とまちづくりの融合(住民参加の観光まちづくりに変化。行政機構も観光部局を産業部局にはめ込むようなところも出てきた)、(4)着地型観光のしくみづくり(発地側がつくる「行こうよ」型から、地域が主体となって来訪者を呼び込む「うちのまちにおいでよ」型に)。
観光PF機構は、従来は観光カリスマ中心の属人的組織、個人依存型の取組みを、持続性のある取りくみに変えていく組織づくり、人材育成の支援を行っていきたい。

 

【事例報告】近畿圏における先進事例の紹介
井戸 智樹 歴史街道推進協議会ネットワーク推進部長

着地型観光の背景には、①消費者の変化、②地域自らが情報発信(IT活用)、③政府、自治体の変化、④観光協会当財政問題 の4つの大きな変化があげられるだろう。すぐに大成功する事例は少数だろうが、着地型へのニーズは今後も高まり続けると思う。
歴史街道は1991年の発足。日本の歴史をタイムトリップできるメインルートを設定し、200団体が加盟。歴史街道モデル事業を推進し、内外への情報発信や海外との連携事業も行ってきた。苦労したのはやはり資金集め。今後の課題として、①歴史街道のメインルートがデスティネーションになりうるか?(現在の担い手は6拠点を結ぶ交通会社からの出向者チーム)。②面としての関西振興、③関西の観光地の再編(北近畿・琵琶湖、中央部、紀伊半島に南北3分割し事業展開)などがある。さまざまな事業を行ってきた結果、観光PFとして推進すべき事業は、①スケールメリット・全体意思の発揮、②役割分担・横串を刺す、③交流・コラボノウハウの共有の促進 の3分野なのではないか。事業→信用→資金の善循環をどう維持していくのか、広域団体も含め変わらなければならないと思っている。

内山 裕紀子 くまの体験企画代表

三重県南部、東紀州で着地型のエコツアーを行っている民間企業。世界遺産認定の1年前から団体ツアーのバスが来始めたが、日帰りで街中には入ってこない。弁当は地域外からバスに積んでくる。熊野古道が世界遺産になっても地元には関係ない。世界遺産に期待した地元の人たちは落胆、シャッター街も増え、空気も沈んだ。また、熊野古道を持つ自治体が各々に情報発信をしているため、旅行者には登山ルートが非常にわかりにくかった。地元の若い人が地域に残れるよう、少しでも地域課題を解決したい一新で起業した。
常に、感動とは何か、人生観が変わる旅とは何かを考えて商品づくりをしている。儲からないがやっていけるし、何よりもとても楽しい。参加者の9割から反応があり、満足度が高いことを自負。エコツーリズムは、旅人がとことんはまるプログラムだ。地に足のついた人の心に響く旅を目指し、仕事として成り立つガイドの養成をしたい。

滑田 教夫 有限会社京都旅企画代表

2001年、経産省と京都市主催の「京都起業家学校」の1期生として学び、起業した。
まず、よそ者に冷たいイメージがあり、観光客が行かない祇園(北側)を中心とした「歩いておくれやす祇園」マップを作成。4社からスタートしたが、現在10社が参加。旅行者のニーズと地域の資源を結び、コーディネートするのが私たちの役割だ。
伝統芸能などの名人に直接教えてもらうホンマモン体験のメニューでは、元来無口で人嫌いの職人さんたちを説得して、子ども(修学旅行)向けの体験が実現(15業種が参加)。名人技を見ると子供たちは感動する。伝統芸能、文化の体験・観賞は教育旅行ニーズが多い。
昨年は4万3千人を突破、最大1日約1000人が利用。NPOや観光協会をネットワークして、京都旅企画が広域のワンストップ窓口になって予約、決済まで行う京都丹後における教育旅行受け入れ体制が、新たにスタートしたばかりだ。

四方 八洲男 NPO法人北近畿みらい理事長

設立3年目。綾部市長を辞めてすぐに立ち上げた。動機は、市長時代、行政がつくる広域連携組織が機能不全に陥っていたことへの問題意識。もう1つは、限界集落への取組み。限界集落を「水源の郷」と命名し、日本で最初に水源の郷振興の条例を制定した。現在、163の市町村が加盟、全国協議会を結成した(5年時限)。①地域のコミュニティ(自治会組織)がある、②自治会のリーダーがいる、③都市と農村の交流を行っている、④小さな経済(特産物、仕事)がある の4要素があれば限界集落も生きていけるという確信を深めている。着地型観光は儲からないが、1つずつ積みあげいくしかない。
北近畿みらい塾を7回開催。400人の受講生を迎え、京都在住留学生の田舎体験も行った(4回)。平成25年度は、300~500人、京都北部に留学生を連れてくることを実現。
行政も民間も広域でワンストップのサービスができる組織、特に人材が極めて必要だ。

多田 稔子 田辺市熊野ツーリズムビューロー会長

2005年5月に5市町村が合併し、和歌山県の5分の1が田辺市に。田辺市全域のプロモーションを、しかも民の力でと市長にとかけあい生まれたのが今の組織だ。
2010年5月に旅行業を取得し、会社を設立した。持続可能をキーワードに、ブームよりルーツ、インパクトよりローインパクト(乱開発より、保全・保存)、マスより個人を基本方針に、世界に開かれた上質な観光地を目指すことで、インバウンドの推進が1つのターゲットだと見えてきた。中でも力を入れてきたのが、受け地のレベルアップ。旅館に出向いて外国人観光客を受け入れのワークショップを行い、必要なツールを自作してきたことで、外国語ができなくても受け入れが可能になった。現在、115カ所と契約、約40カ国から来訪。着地型観光は、ハイリスク、ロー(ノー)リターンでビジネスとして成立しにくいが、これからも地域全体をプロデュースするカンパニーをめざしていきたい。


【パネル討議】観光地域づくりによるイノベーションと持続可能な地域づくり~自立した観光地域づくりプラットフォームをめざして~


着地型観光などを手段に持続可能な形で観光地域づくりを進めていくには、観光PFはどうあるべきか?観光PF機構の4人の理事をパネリストに迎え、討論しました。

久米 信行 一般社団法人墨田区観光協会理事 

当初から「儲かる組織」、「民間人起用」という合意事項のもと、5年で補助金ゼロ目標を設定し、2009年に一般社団法人墨田区観光協会ができた。非観光業の3民間人を発起人理事としてスタートし、普段接点のない人たちが同席し意見を言い合う場をつくった。その結果、徐々に、理事の中から自らまち歩きを始めたり、自腹で観光協会のプログラムに参加する人たちが出てきた。業務を推進する各課のリーダーには民間企業出身のスペシャリストを選んだ。鍵となるのは、うるさ型の人を仲間に入れること。悪平等の全体主義を脱し、先進企業から応援し、シニア、マニア、ジュニアを生涯の顧客にする事業開発をしていく。


井手修身 イデアパートナーズ株式会社 代表取締役 

宿の再生、観光コンサルティングをしてきたが、自立した観光PF経営を示したいとNPO法人イデア九州・アジアを設立。街中において展開できる着地商品として、700円でつまみとドリンクの飲み歩きで回遊させる「バルウォーク」を実施。151店舗が参加、現在、6000人を集客、3万食を提供。この体験が支持されているのは、見知らぬ人とのコミュニケーションという「コト価値」が提供されているから。行政の補助金はもらわず、2千数百万円の売上。独自にHPやSNSを使ってバルファンをつくっていった。昨年から、九州、沖縄、山口など12カ所で技術移転を開始。福岡の集客プラットフォームの1つになってきたか。


畦地履正 株式会社四万十ドラマ代表取締役 

四万十町は人口3千人。高速道路が四万十町まで伸びたのを機に、道路を使った集客事業を構想中。道の駅「四万十とおわ」を始めた時、一日の交通台数は千台未満、軽4トラックしか走らないようなところに集客は無理と言われたが、マイナスをプラスに変えた。今回も、四万十から宇和島へ行く国道(381号線)を「県境がNICE」をキャッチフレーズにしてつなぎ、ブランド化。沿線の道の駅を連携させ、「381商品」、県境産野菜、スイーツを開発。また、全日本県境サミット、県境ビジネスプランコンテストも行う。インターンシップも受け入れ、起業化支援セミナーで田舎ならではの商品開発、販売を教える予定。


鶴田浩一郎 NPO法人ハットウ・オンパク代表理事 

オンパクはまちづくり系観光PF。市民、地域づくり団体、第1次~6次産業従事者、女性、大学生も参加。こうしたヤル気のある人たちをどう集めるかがカギ。企業の場合、3年で結果を出すことが求められるが、観光を再構築するには10年かかる。オンパクで成果が見えるまでに5年かかった。行政の担当や首長は替わるため、ブレナイ民間が地域の中に必要だ。オンパクは、地域資源を使いテーマ性のある約150の参加交流型のプログラムを開発、約1カ月のテストマーケティングを経て商品化。安定した集客率を誇る。その予約システムまで含めたノウハウを全国40カ所で技術移転している。今月、タイ北部でもスタート。



討論の主な意見

≪観光PFの組織、事業論≫
●地域の関係者を集めてコーディネートするだけの官製の観光PFの議論でなく、地域の課題解決のための事業を確実に行い成果を出す組織、という観点が必要ではないか(井手)。
●観光PFの設立時と軌道に乗った時とでは周囲との関係性が変わっていく。地域はコミュニティ度が高いので、設立から3年ぐらいは地元関係者の意見に耳を傾け、コミュニティ内に敵をつくらないこと。成果が出てきたら、組織の成長スピード上げていく(鶴田)。
●観光PFにはきちんとした事業が必要。現在の多くの観光協会には、「売る商品」がなく、だから営業もしない。顧客が明らかでないという点が従来の観光行政の課題。墨田区の場合、顧客を決めたことで収益性が上がっている(大社)。
●民間からみると、多くの観光地域づくり組織はマーケティングが遅れている。売ることに対する中途半端さを感じる(井手)。
●ハットウ・オンパクは地元事業者を育成し、商品づくりを支援する中間支援組織。オンパク事業自体は非収益部門で赤字。他で稼ぎオンパク事業に回している(鶴田)。
●ハットウ・オンパクの場合、着地型商品=赤字商品なのではなく、組織としての役割があるという点を、他の観光地域づくり関係者に理解してほしい(井手)。


≪観光PFのインキュベーション機能≫
●観光は呼び水。最初は渋々工場見学させていた伝統工芸士たちが、それが喜ばれるとわかると自ら店を改装するなど科学反応が起こっていった。我々の究極の目標は、観光収入を増やすより、墨田区に住んで子育てしたいオシャレな人たちに来てもらうこと(久米)。
●スモールビジネスの中から尖ったビジネスが生まれていく。マニアマーケットは深く、リピートする。温泉はリピーターが圧倒的に多い(鶴田)。
●巷では四万十ドラマ現象などと言われているが、私たちは尖った小さなビジネスをいくつも積み重ねて、近い将来10億円産業にしたいと考えている。一昨年のインターンシップ参加者の中から20人が町に移住、担い手も確保しつつある(畦地)。

主な質疑応答

「情報が氾濫する中で、どのように発信を? 発信法も変えなければならないか?」
●マスメディアに頼らない。Facebookを活用し、究極のクチコミ発信を。着地型ツアー参加者にその場で感動を発信してもらうのが一番いい(久米)。
●これからは、「一人称マーケティング」。「私」が、「私」の友だちをそこに連れていきたいと思うか、「いいね」と言えるかどうかの集積。バルウォーク福岡はFacebook、ツイッターからの申し込みが半数。これからの情報発信は、SNSの活用が重要になる(井手)。