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2024.9.12

【Destinations International】
2024 ANNUAL CONVENTION(年次総会)報告

2024年7月16日から18日の三日間、アメリカ合衆国フロリダ州タンパで、Destinations International(米国を本拠とする世界的なDMOの統括団体。以下DI)の年次総会が開催され、昨年のテキサス州ダラスに続き、参加をした。

 今回、年次総会の前日に地元のDMO、VISIT TAMPA BAYのオフィスを、アメリカ・カナダ以外の国からの参加者(フィンランド・スイス・イギリス・コロンビア・アルメニア・ジョージア・日本・ブラジル・サウジアラビアなど)の希望者が表敬訪問をする機会があった。タンパ市内中心部の高層ビルの27階~29階を占める事務所で、タンパの観光客の属性、DMOの組織構造、財源などがDMOの責任者から説明があった。ターゲットにしている複数の海外市場にDMOが事務所を構えており、また、独自の研修室があるなど、日本のDMOとの財源の規模の違いを見せつけられ圧倒された。


北欧三か国、英独、アイルランド、中南米にも事務所がある。


DMOの事務所に研修室も。

 今回の年次総会では、昨年よりかなりSocial Inclusion(社会的包括性)を意識したものとなったと感じた。日本では、Diversity(多様性)が声高に叫ばれ、ジェンダーギャップなどでも世界水準には遠く及ばないが、北米では、EDI(Equity公平性・Diversity多様性・Inclusion包摂性)、さらにSocial Inclusionへと概念も進化している。自分が所属しているSocial Inclusion Committeeは100人近くになり、最大勢力となっている。また、開幕式や閉幕式などの全体会合では前方に車いす使用者のゾーンが整備され(昨年はなかった)、会場でも車いす使用者を複数みかけた。そして、メインのセッションでも先住民(アメリカ・カナダのいわゆるネイティブアメリカンやイヌイットの人々)の文化による観光コンテンツ造成などが紹介されており、マイノリティに配慮するものが増えた。

先住民族文化を主題にしたツーリズムは非常に重視されている。


地元タンパ市長は、共和党一色のフロリダ州の中でも数少ない民主党の首長で、本人はLGBTQ+を公言する女性。今回の開催も彼女なくしては実現できなかった。

 一方、日本で現在観光産業の目玉である「観光DX」であるが、すでにDMPやCRMは実装済みであるためか、「Digital Transformation(DX)」という言葉は様々なシステムの構築よりも、その運用の仕方、すなわち、地域連携の中での活用の仕方、経済的な受益をはじめとした地域社会における価値創造に力点がおかれているようだ。たとえば、生成AIの使用をめぐり、「使用してみてこれだけ効果が出た」という話に力点が移っており、Expediaのセッションでも「Romie」というシステムが紹介された。この「Romie(ロミー)」はAIアシスタントで、旅行代理店、コンシェルジュ、パーソナルアシスタントの役割を兼ね備え、ユーザーの旅行計画、ショッピング、予約、旅行中の予期せぬ変更まで対応するという。学習型AIで、ユーザーの食事の好みやタイプ、ホテルの種類、アクティビティなど個人の好みを覚える。SMSのグループチャットにRomieをインストールし、コメントをして送信すれば旅行代理店に相談するように行き先やアクティビティの提案を受けられるという。チャット内容を要約して旅行の関連情報をエクスペディアでの予約に反映するスマート検索も可能とのことで、天候の変化や交通機関の乱れなど、ユーザーの旅行プランに影響を与える可能性を監視しており、代替案を準備することもできるという。実際、例えば、飛行機が遅延し、到着時に予約していた昼の体験コンテンツが間に合わなくなれば、代わりの夜の体験コンテンツをサジェスト(提案)してくるようなイメージだ。もはや、スマホの中に優秀なコンシェルジュが24時間いるような感覚である。
すでに実装されており、AIとともに旅する時代が現実のものに。

 今回、年次総会に参加して、日本観光振興協会(JTTA)の存在感は確実に大きくなっていると感じた。2019年にウィスコンシン州マジソンで開催されたDIのAdvocacy Summitが日本観光振興協会からの初参加となったが、以降、D-NEXTの継続的な日本での実施、2022年トロント・2023年ダラス・2024年タンパと連続しての年次総会参加、2023年からはDIの会員にもなったことで、より強固な関係が築けていると感じる。
 今後も、DIを通して、海外の最新情報をいち早く入手し、会員のみなさまをはじめ日本の観光振興に役立つものを積極的に国内に紹介していくことができればと思う。
日の丸も。DIには36か国・757の団体が加入。

【様々なセッションの報告】
◆ボストンの取組
 地元DMOのMEET BOSTONは地元のインフルエンサーを使い、新しい店や知られざる通りなどを紹介。メディアミックスでパワフルなプロモーションをしている。地元メディア・地元事業者を使い、地域への裨益を考慮した取組。


◆サウジアラビア(ALULA)の取組
 近年、急激に観光客への門戸を開き、国をあげてのインバウンド誘客に取り組むサウジアラビアの新興観光都市ALULAは、新しく空港を建設し、欧州を中心に誘客を進める。砂漠の中に、新たにコンテンツを造成していく手法は、「何もない」と嘆くばかりの日本の地方にも参考になると思う。コスモポリタンなアートコンテンツを造成し、エキゾチックな土壌にコンテンポラリーなテイストを加え、「アラブ」のイメージにとらわれない誘客をしている。


◆タヒチの取組
 コロナ禍で大きなダメージを受けたタヒチ。その時の対応から、回復に向かう過程でコミュニティー・住民をベースにした観光開発に舵を切った過程が紹介された。SDGsへの取組も含め、南太平洋に浮かぶ絶海の孤島の仏領海外県が、どのように誘客していくのかは日本の離島の観光振興にもヒントになることが多いと感じる。

世界中から遠いタヒチ。


 コロナ禍を経て訪問者数が回復する中でDMOがきちんとこれから進むべき道を提示。
① 2020-2021 コロナ禍危機での主要プレーヤーとしてリーダーシップをとる
② 2022 コミュニティーとともに観光戦略を考える
③ 2023-2024専門家(SDGsなど)を育て、意識を高め、調査を重ねアクションプランを練る。サステナブルツーリズムへの行程を描いていく。
住民主体。「1旅行者=1住民」の考え。数を追わない。
住民の意識啓発
GSTCへの取組もしっかりしている。
様々な調査を経て、サステナブルツーリズムを目指すタヒチ。


◆Destin-Fort Walton Beach(フロリダ)の取組
 フロリダ州の半島ではなくメインランド側のカリブ海に面したデスティネーション。D-NEXTの結果から、マーケティングなど様々な手法でターゲットを絞り、住民がどう感じているかまで考慮し、すべてが1つの焦点にかっちりとあっている。「住民にとって良いことが旅行者にとっても良いこと」。そして、「子供を様々な海洋体験を通して自然・海に触れさせていく」ことに焦点を当てた、好事例。おそらく、同じフロリダ州内の、人工的なアトラクションで誘客するオーランドやタンパ、大人向けのマイアミと差異化を図っていると推測される。今後要注目のDMO。
住民に自分たちの地域を語らせてキーワードを抽出。ワード分析を住民向けに。

「50パーセントをこえる子供が、囚人よりも屋外で過ごす時間が少ない」という衝撃的なコピーも。


・セントラルフロリダ大学原忠之先生訪問

DMOに関して意見交換。イギリス人のAlan Fyall先生(DMOの専門家)も交えて。原忠之先生はホスピタリティ経営学専門。
南国のリゾートのような環境のセントラルフロリダ大学キャンパス。

原先生(左) Alan Fyall先生
大学内部の様子(セントラルフロリダ大学 ローゼンカレッジ ホスピタリティ経営学部)


【参考】Visit Orlandの建物と、その財源になっているコンベンションセンター
Visit Orlandの入る建物と駐車場

紹介写真でよく写される角度で新館を撮影。
コンベンションセンターは広大で、その中にDMOのデスクも。こちらは旧館。


・アメリカのDMOの抱える課題
 現地DMOの話を直接聞く機会があり、またDMOを専門とする学者にも質問し、アメリカのDMOの課題を聞き取ることができた。通常DIなどはポジティブなことしか発信しない傾向があるので(アメリカの国民性もあり)貴重な情報といえる。
① VISIT TAMPA BAY・Visit Missouriからの聞き取り
 国(連邦)レベルー州レベルー郡・市町村レベルのDMO同士の会議や連絡は頻繁に行っている。キャンペーンやマーケティングを共通で行うために、同じレベルの近隣地域のDMOで共同で連携することはしている。反面、普段の課題解決や地域マネジメント自体の連携はあまりないような印象で、そのあたりの横のつながりは希薄な印象。財源が個々のDMOがしっかりしているからそのあたりの連携の必要性は高くないと推測される。
→日本のDMOの在り方としては、北米のDMOにはない、横の連携を強めていくことで財源の脆弱性をカバーしていけるのではないかと考える。D-NEXTフォーラムの取組などは北米のDMOから興味を持たれた。
② セントラルフロリダ大学 Alan Fyall先生への聞き取り
 とかくポジティブなことばかりが取り上げられるアメリカのDMOだが、直面している課題は何かという質問をした。以下の4つが挙げられた。
(1) テクノロジー、そして急速なテクノロジーの進展速度に特に小さな規模のDMOがついていけていない。
→日本で現在急速に進展する観光DXでも同じようなDMO間の「デジタルデバイド」が生じる可能性。財源に乏しい小規模DMOに対しての、DMPなどの協会の何らかの支援は重要になってくると考えられる。
(2) 持続可能な財源。訪問客数に直接紐づいている税収。
→日本でも急速に宿泊税の導入検討が進んでいるが、今後もしまた新たな感染症や、近隣諸国での軍事衝突などで日本国内外の観光客が急減した場合に、真っ先に財源上ダメージをうけるリスクがある。財源はやはり複数確保しつつ、そのような場合の緊急避難的な公的資金注入の仕組みづくりは日本でも検討していく必要があるのではと考える。
(3) 気候変動・地球温暖化によるDMOの対応。観光コンテンツが影響。
→降雪量の減少や氷河の後退などで域内のコンテンツ自体が変わってしまう。日本で想定されるとしたら、沖縄のサンゴの死滅による景観の損傷、降雪量減少による立山などの雪壁「雪の大谷」の消滅や各地のスキー場の営業不能、また紅葉の時期の大幅な縮小、桜の開花しなくなる地域(九州など)の出現などだろうか。
(4) アメリカの政治動向の影響。
 11月の大統領選の様子からもわかるように、共和党VS民主党のもたらす政治的分断で、DMOの政策にも大きな影響が出る。LGBTQ+の受け入れなどはその最たるもの。財源も結局議員などのステークホルダーの影響を受けやすいので、深刻。日本で、首相が変わる、首長が変わるという事態でも観光がそこまでドラスティックな影響は受けない。それゆえに、北米のDMOは財源確保のためにデータをしっかりとり議員を説得していくための材料とし、ステークホルダーとの意思疎通を重視しているともいえる。