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2022.3.31

【第28回】DMO先進事例に学ぶ
ケース24:一般社団法人大雪カムイミンタラDMO
(地域連携DMO)

カムイスキーリンクスのスキー風景
カムイスキーリンクスのスキー風景

 大雪カムイミンタラDMOのルーツは古く、大雪山を中心とした広域観光の振興を行っていくなかで昭和23年に発足した「大雪山国立公園観光連盟」を母体としています。
 この区域(旭川市、鷹栖町、東神楽町、当麻町、比布町、愛別町、上川町、東川町)は、夏季に比べて観光客が少ない冬季観光の促進に課題を抱えており、ニセコを中心に冬季の外国人旅行者が増加していたことや、先日閉幕した北京オリンピック・パラリンピックの開催による中国市場でのウィンタースポーツニーズの高まりが見込まれるなか、1市7町の観光振興を共同で行う組織として、平成29年に本DMOは設立されています。

■都市型スノーリゾートの形成を目指して
 大雪カムイミンタラDMOでは、平成30年度より旭川市のスキー場であるカムイスキーリンクスの指定管理を請け負っています。カムイスキーリンクスは道北一の規模を誇るスキー場で、旭川市から無償貸与をうけ、その売り上げをエリア全体の観光振興事業へ活用しています。その収益により会員制度を設けていないなかで自主財源の割合は60%となっており、また各種事業において連携する事業者の数は年々増加傾向にあります。
 組織体制としては、自治体からの出向者が中心となっていますが、長年培ってきた行政のネットワークを生かし、事業者の間に立つことにより、1市7町での共同事業のとりまとめ役を担っています。事業者の方からは、大雪カムイミンタラDMOができた事により、動きやすくなったとの評価を頂いているとのことです。DMOの事務所には、事業者からタイアップを受けたマウンテンバイクやラフティングの用具が並べられており、魅力的なアウトドアアクティビティを生み出す核となっていることがうかがえます。

大雪カムイミンタラDMOの事務所エントランスに並ぶマウンテンバイク
大雪カムイミンタラDMOの事務所エントランスに並ぶマウンテンバイク

 また、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、カムイスキーリンクスの収入が減少傾向にある中、大雪カムイミンタラDMOでは、アソビューや宝島旅行社と連携して体験コンテンツを数多く作っています。「これらを個々のニーズによって組立てられるセミオーダー的なプランを提供できるようにしたい。それによりこの地域のポテンシャルを活かした都市型のスノーリゾートの形成を目指している。コロナ禍においてもぶれないで、提供できるものを丁寧に増やしていきたい。」と板谷一希事務局長は語ります。

大雪カムイミンタラDMO圏域図
大雪カムイミンタラDMO圏域図

■ICTパークの新たな挑戦
 令和3年2月に、映画館をeスポーツの場にリノベーションしたICTパークが旭川市に誕生しました。最新の通信技術「ローカル5G」を利用した高速通信の活用・実証実験の拠点として旭川市が整備したもので、民間活力の導入による発展を期待され、事業者とのネットワークを有する大雪カムイミンタラDMOがその運営を担っています。高校生以下は無料で使用できるゲーミングPCを10台常設したトレーニングジム、大型ビジョンを備え、いつでもeスポーツ大会の開催・配信が可能なイベント会場やプログラミングを学べる研修ルーム等が整備されており、次世代の人材の育成、ナイトエコノミーの促進、中心市街地活性化に寄与することを目指しています。取材した当日も数名の高校生がゲーミングPCに向かっていました。
 前例のない新たな取り組みであり、試行錯誤のなかで進めているとのことですが、最近では東京や札幌からの教育旅行の問い合わせも来るようになっています。eスポーツ大会の誘致やプログラミング研修の開催など、新たなDMOの収益事業として自主財源の確保にむけて取り組むとともに、ICT技術を用いて圏域の観光を体感してもらう場としても活用することにより、ICTパークをフックとした来訪、周遊観光の促進も目指しています。

ICTパーク・トレーニングルーム
ICTパーク・トレーニングルーム

■KGIの設定とこれからの人づくり、組織づくり
 ICTの新たな取り組みを始めた大雪カムイミンタラDMOでは、デジタルマーケティングとして、人流の把握も令和4年度から始めることとしています。「社会変化に臨機応変に対応していくには、年単位のデータに加え、リアルタイムのデータを共有することが必要であり、このエリアのみならず、より広いエリアで把握でき、他の地域と比較できるデータを得ることでより効果的な施策立案、事業展開につなげたい。今後はデジタルマーケティングを積極的に取り入れていきたい。」と板谷事務局長は語ります。
 また、大雪カムイミンタラDMOは2年前から、登録DMOに求められるKPIに加え、住民満足度と経済波及効果をKGI(Key Goal Indicator「重要目標達成指標」)として設定しています。DMOとしての目標を明確に定めることでぶれない事業推進につなげることがその狙いです。住民満足度は1市7町の自治体の窓口を活用してアンケートを実施し、満足度に寄与する要因まで分析することとしています。経済波及効果については、連携協定を結んでいる道銀地域総合研究所のアドバイスをもとに算出しています。
 大雪カムイミンタラDMOでは、KPI、KGIの数値算出や分析、インバウンド対応としての多言語化などの実務は、DMOで採用した正職員を中心に行うこととしています。自治体や北海道銀行からの出向者やアソビューなど外部専門人材のノウハウを正職員に継承していくことで、人材の育成、組織力向上を図っています。
 ガイド不足が課題となっているインバウンドにおいては、QRコードを読み取ることでWEBサイトから多言語案内できるシステムを整備し対応していますが、その翻訳、システムの構築も自ら行っています。また最近は冬季のタイからの旅行者が増えていたことから、初めて雪に触れる旅行者に対応するスキーコンシェルジュ養成の講座も語学のできる職員を中心に行っています。さらには、以前は企業出向者が担っていた旅行業務取扱管理者についても、令和3年11月に新たに若手の職員を採用しています。
 いずれはDMOに求められるCMO、CFOも正職員で担っていくことを目指し、人づくり、組織づくりを進めています。

大雪カムイミンタラDMO実施体制
大雪カムイミンタラDMO実施体制

■半官半民のDMOの器を生かした観光地域づくり
 大雪カムイミンタラDMOは重点支援DMOに指定されていますが、板谷事務局長は、「このエリアのアドベンチャートラベルなどへの期待値の高さから指定されたもので、実績はまだまだであり、観光についてのノウハウも蓄積された地域ではない。人材面、組織面の課題もあり、大雪エリアの魅力を十分に生かし切れていない。ただ、大雪エリアの可能性は高く評価されていることを大切にし、多くの関係者の皆さんと協力するなかで将来的にも持続可能な地域を作りあげていかなければならない。行政だけではできない、事業者だけではできない、半官半民の組織であるからこそできるというDMOの器の利点を生かした観光地域づくりを進めていきたい。」と今後の展望を語ってくれました。

板谷一希事務局長
板谷一希事務局長

(DMO推進担当者からの一言)
 大雪カムイミンタラDMOは、大雪山国立公園観光連盟を母体に設立されていることもあり、構成市町の連携体制がしっかりと形成されています。その上で、半官半民組織であるDMOとして事業者との連携を強める役割を担っています。カムイスキーリンクスの指定管理は、コロナ禍で減少しているものの一定の収益をもたらしており、さらにICTパークの取り組みは、内外からな新たな集客拠点として、収益力の向上が期待できます。実務の中での職員の人材育成の取り組みは、DMOとしての自走力を高め、持続的な観光地域づくりにつながっていくものとなります。

(DMOプロフィール)〈令和4年3月31日現在〉
地域連携DMO
一般社団法人大雪カムイミンタラDMO
・設立 2017年10月
・所在地 北海道旭川市
・マネジメント区域 旭川市、鷹栖町、東神楽町、当麻町、比布町、愛別町、上川町、東川町
・代表 今津寛介(旭川市長) 専務理事 大鷹明
・事務局長 板谷一希
・職員数 22名(出向者 6名) 
 カムイスキーリンクス運営担当 9名
 ICTパーク運営担当 3名
・連携する地方公共団体および役割
  旭川市観光スポーツ交流部観光課、上川町産業経済課、
  東川町産業振興課、鷹栖町産業振興課、東神楽町産業振興課、
  当麻町まちづくり推進課、比布町産業振興課、愛別町産業振興課
・連携する主な事業者
  観光協会、商工会議所・商工会、宿泊事業者、交通事業者、金融機関等