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 NEWS

2022.3.31

【D-NEXT】地域の合意形成を支援
「Destination-NEXTを活用した観光地域診断」
⑤新潟DMOにおける調査結果に関するNEXT
FACTOR社との意見交換及びワークショップ2の開催報告

 (公社)新潟県観光協会(以下、「新潟DMO」と記します)はワークショップ1で実施したアンケート調査結果を踏まえ、NEXT FACTOR社(以下、「NF社」と記します)との意見交換を行いました。また、地域内の観光関連事業者様のみならず、他産業の事業者や各市町行政機関を含めた幅広いステークホルダーに対して、ワークショップ1及び紙とオンラインでのアンケート調査結果を共有することを目的としてワークショップ2を実施いたしました。

1.調査結果に関するNF社との意見交換

 NF社が分析した調査結果を確認する為、新潟DMOはNF社・日本観光振興協会の3者で意見交換を目的としたZOOMによるミーティングを12月15日に開催しました。
 まず、NF社のポール氏より、今回の調査結果について、文化的な背景からか、日本人は自分の地域の観光資源について、比較的低い評価をしがちであること、また、今回新しく増えた変数に関しては、まだ広く浸透していない分野の為、低い評価となりがちであることが伝えられました。
 また、新潟DMOからは、2次交通やアクセスについては、低い評価になることはあらかじめ想定できていたことや、財源に関して特に厳しい評価が出ていたことは、参加者の本音が反映されていると感じたこと、また、県全体としてスタッフの研修環境が未整備に感じたことなどの意見が述べられました。NF社は、調査の分析結果については、ワークショップ2にて、今後の改良点を3~4つ程に絞った上で、海外の先進事例も交えながら提示する旨を伝えました。
 次に、ワークショップ2の当日の進行方法について、分析結果の報告は参加者の理解を容易にし、質疑応答の時間を多く確保することを優先した結果、新潟DMOが事前にNF社から報告を受けた分析結果の内容を良く吟味し、新潟DMOの施策に合わせた内容をピックアップし、日本語で自ら発表することとなりました。

2.ワークショップ2の実施概要について

実施日 2022年1月26日10:00~12:00
会場 朱鷺メッセ(新潟市)
参加人数 48名(会場+オンライン)

3.ワークショップ2の全体スケジュールについて

(1)新潟DMOから開会挨拶、D-Nextの概要及び実施に至った経緯の説明
(2)NF社・ポール氏から「Future Study(観光動向研究)」について英語で説明、新潟DMOが逐次通訳
(3)新潟DMOによるアンケート調査結果の報告
   ① 第1部「観光地域としての強み」(Destination Strength)
   ② 休憩
   ③ 第2部「地域における協力関係」 (Community Alignment)
(4)NF社による総評と提言
   ① 全体の振り返りと提言
   ② 海外先進事例の紹介
(5)NF社への質疑応答
(6)DMOより閉会挨拶

4.ワークショップ2の開催にあたって

(1)D-NEXT事業実施の目的
 まず、新潟県観光協会の常務理事を務める早福氏より開会のご挨拶をいただき、今回、D-NEXTを実施して得た結果から、観光地域としての強みを確認し、共通の課題認識による合意形成のもと、今後の新潟の観光事業計画策定に活かしていくことを参加者に説明しました。

(2)「Future Study(観光動向研究)」の紹介

 NF社のPaul氏より、D-NEXTを導入することで、世界の観光トレンドと戦略を分析した「Future Study2021(観光動向研究)」を加味した「シナリオモデル」を導き出し、地域の現状に沿った改良点を見つけることが可能となることを説明いただき、新潟県観光協会が手配した通訳者が逐次通訳する形で進行を行いました。
 「Future Study(観光最新動向研究)」は米国DMO統括団体であるDestinations Internationalと観光地域コンサルタント企業であるNext Factor社が共同で、観光地域のDMOにとって、重要な観光最新動向と戦略について、2014年、2017年、2019年、2021年と調査を実施し、その研究結果をまとめたものとなります。2021年は世界の50か国・706団体に及ぶ地域(DMO)及び観光事業者(IT事業者から観光産業事業者、サプライチェーンまで)へアンケート調査を行い、100の観光トレンドと80の戦略を特定しました。その中でも特に新潟の状況に合わせ今後意識すべき4つのトレンド(例えば、「産業界・地域コミュニティ・行政の連携が地域の競争力やブランドを高める」等)と、4つの戦略(例えば、「地域はデジタルコンテンツの魅力を高めて、その普及に注力すべき」等)を示しました。また、DMOにとって注力すべき役割もかなり変わってきていることにも言及し、例えば、「地域の商品開発」や「データ調査やビジネス関連」、「人材育成」といったものが挙げられました。
 今回のFuture Studyの研究から、NF社は、全ての地域のDMO等において、①地域関係者との連携、②持続可能な開発、③市場に基づいた価値の3点に留意することが、より良い観光地となる為の条件になり得ると定めました。①の具体的な事例として、シンガポールのパッションをテーマにしたブランディングに関わる連携、オークランドの地域におけるDMOの役割の進歩について紹介がありました。また、連携も緩い連携、公式な連携、いくつかの団体が統合された連携の3種類に分類されている点にも言及がありました。②の持続可能な例としては、世界で初めての試みと言える観光業における炭素排出の影響を測定する取り組みを開始したバレンシアDMOを取り上げました。また、ワシントンDCは多様性に関する取り組みを推進し、パナマやコスタリカは農家と都市を結ぶサプライチェーンの構築を始めているとのことです。③については、地域の価値観が新たな競争力となる一例として、カナダ政府観光局による、カナダを訪問することで、様々な自然、文化体験を通し、人間的にも成長できることをアピールした「CANADA MORE THAN TRAVELLING」という取り組みが紹介されました。

(3)D-NEXTを活用したアンケート調査結果の報告
 新潟DMOから、事前にNF社より報告を受けている調査結果および分析について、特筆すべきポイントに絞って紹介し、全体および各地域の報告書については、後日、新潟DMOのHPにて公開する旨が報告されました。
 まず初めに、アンケート回答者数及び回答者の業種の割合について説明があり、回答者数は合計で343件、うちワークショップ1の参加者は65名でした。回答者属性については、多い順に観光関連事業者、行政関係、他事業者、地域関係者でしたが、観光関連・行政・地域のバランスがおおむね3分の1ずつとなり、非常に望ましい構成比となりました。シナリオモデルのポジショニングについて、新潟DMOは発展途上の観光地域であり、地域の連携がやや弱いという、「探検者」という位置づけになりましたが、世界のDMOの約40%がこの象限に分類されるとのことです。
シナリオモデル

 次に、「観光地域としての強み」の調査結果について解説がありました。注目すべき変数を見ると、新潟県は、高速道路や新幹線も整備されており、地域外からのアクセスについては高評価であるが、地域内での移動については2次交通が十分でなく、低評価となっていました。生活者には不便はないものの、生活インフラを持たない訪問者には不便である状況が分かりました。また、上質な食事を提供している点について評価は高いものの、ナイトライフが弱いという結果も指摘されました。イベント・祭りについては、各地の特徴が最も大きく出ており、中越では、花火・芸術祭など大きなイベントも多く、評価が高いものの、通年で人を呼べるイベントがないことが課題として認識されました。尚、健康と安全については、全世界の調査平均よりもかなり高い評価が出ており、コロナ禍において新潟県の強みとなり得る変数だということが分かりました。
 一方、「地域における協力関係」について、多くの回答者が、地域の働き手の確保が重要と考えおり、特に地域の労働力不足、研修プログラムが十分でないことが改めて認識されました。 
 昨今、オリンピックでも注目され、「Future Study(観光動向研究)」においても言及のあった「公平性・多様性・インクルージョン」については、現状は低い評価となりました。新潟県域において、全般的に観光客をお迎えする体制はある程度出来ているものの、その先にある新しいニーズである多様性等への対応に課題があることが認識されました。また、従来型のおもてなしは出来ているが、「地域特有の文化を活かしたユニークなサービス」や「上質な顧客サービスを保証する研修プログラムは不十分」という結果も出ました。「地域における協力関係」については、「Future Study(観光動向研究)」でも地域の競争力を上げるために、より重要になるとの言及がありましたが、市町村間の連携において低い評価が出ており、DMOとしても地域間連携を促していきたいとのコメントがありました。 なお、新潟県全体としての評価は、異なるステークホルダーでも、おおむね現状認識での方向性は一致していることが分かりました。

(4)世界の先進事例と提案について
 NF社からは、今後新潟DMOが「地域の強み」と「地域の連携」を改善するために、取り組むべき課題と、それに関連した世界の先進事例が紹介されましたので、以下にてご確認ください。
① 新潟DMOが「観光の強み」を改善するために取り組むべきことと世界の先進事例

 ●観光資源と体験の開発~例【モントリオール、カナダ】
歴史、文化に関する25個のビデオを作成し、プロジェクションマッピングを実施した。これらを活用することによって、地域に興味を持って頂き、MICEイベントが増えた。
 ●イベントと祭りの整備~例【バーゼル、スイス】
現代アートの展覧会を実施し、好評を得た。その評判がフロリダや香港まで波及した。
 ●地域内交通の整備~例【インディアナ州、USA】
6つの文化的な地域を結ぶ82マイルに及ぶ歩行者、自転車専用のレーンを作り、それらに関連した取り組みの経済効果が2億円となった。
 ●地域外からのさらなるアクセス向上~【バンクーバー・エアアクセスプログラム】
地元のDMOと空港に乗入れている航空会社の連携プログラムを実施
 ●Wifi等の通信環境の整備~【ボストン、USA】
フリーWifiの提供やスマホをチャージできるベンチを各地へ設置した。
   
② 新潟が「地域連携」を改善するために取り組むべきことと世界の先進事例

 ●財源サポート~例【タルサ、USA】
企業からの資金提供によるDMO財源の確保
 ●地域連携~例【ハワイ、USA】
産業界、行政、地域コミュニティの連携
新たなKPIの設定、訪問者満足度、住民意識、訪問者の1日当たり消費額
 ●人材育成~例【シンガポール】
スキルの枠組み、スキルと生涯学習
 ●地域間連携~例【パームスプリングズ、USA】
時期に応じて、お互いにスタッフを融通し合う。
 ●公平性・多様性・インクルージョンの促進~   例【サンディエゴ、USA】
観光業を加速する為に、LGBTQや女性、有色の方へ財政的コーチ、UCサンディエゴ校コース、メンター制度を提供する。

(5)参加者からの質疑応答
Q1.観光地域として、進歩する為には、何から始めるべきか?
A1.「何にフォーカスし、どのようなタイプのデスティネーションとして認識されたいか」という明確なビジョンをもつことが非常に重要。具体的にどんな地域として、認知されたいのか(食事、文化、アウトドア等)を議論し、マネタイズを考え、そのための研修を行うべき。また、ビジョンをどう現実のものにしていくかを示したマスタープランの作成も必要である。
Q2.理解や協力を得るため有効な方法は?
A2.①地元側に対する広報を行うこと。②DMOが他産業のプロジェクトに参画すること。
① は、地域外の人に向けた誘客広報ではなく、地元住民・地元事業者向けにビデオ作製したりPRキャンペーンを行ったりして観光の機運醸成を図るもの。近年の観光で特筆すべき変化である。② は、他産業のプロジェクトにも積極的に参加することでお互いの理解も進み、連携の基盤となる。
Q3.地域のビジョンを策定する手順はどういったものか?
A3.デスティネーションとしてのマスタープランを作り、それを軸とすることが最適 の戦略。そして、マスタープランに則ったプロセスを進めることをサポートし、導き、管理する役割をする「運営委員会」を作ること。
 ビジョン策定については、どこかのまねごとをするのではなく、その地域に根付いている本物のものをベースにすることが重要。訪問者が本当に関心を持つのは、その土地の特別さ、他とは違う所、本物に触れること。 また、マスタープランを作るためには、地元のことを知り尽くしたその地域のエキスパートと外の国際的な組織などに精通しているエキスパートの双方からの視点で検討しなくてはならない。

(6)ワークショップ2会場の様子
会場の様子

会場の様子

■新潟DMOのコメント
・調査全般のデータを見て共通して感じたところは、観光地域に必要な条件のうち、従来型の事項(観光設備やおもてなし等)にはある程度対応しているが、その先の応用・緊急事態・環境の変化に対応すべき事項について、世界の潮流に追いつけていないということが新潟県の現状と感じました。
・D-NEXT実施の結果、行政、DMO、観光協会の課題が可視化され、Future Studyの内容は地域での役割分担にヒントを与えてくれたので、これを活かして、地域で共有できるビジョンにまとめ、効率的な業務分担を行っていきたい。

■ 日本観光振興協会のコメント
・ワークショップでは参加者の方から積極的に質問があり、多くの方々がメモを取りながら、熱心に傾聴している姿が印象的でした。それぞれの地域のステークホルダーの方々に新潟全体と地域間の違いや自身のギャップを認識してもらう良い機会となりました。
・NF社からもアンケート調査結果によって、可視化された新潟DMOや地域の課題に対する的確なケーススタディが多く提供され、参加者は大いに参考になったと思われます。
・世界で500以上の地域でワークショップを開催しているNext Factor社からは、今回の新潟DMOのワークショップは、内容や進行がしっかりしていると高く評価されました。