トップページNEWS一覧>記事

 

 NEWS

2017.12.19

【第12回】DMO先進事例に学ぶ
ケース8:一般社団法人宮城インバウンドDMO(地域連携DMO)


既存の枠組みを突破し、スピード感をもって実現。民間企業の力を生かしてインバウンドで地域再生を
一般社団法人宮城インバウンドDMOは、インバウンドを取り扱うベンチャー企業を中心に設立されました。民間のスピード感を生かし、事業を次々と立案、実現しています。

●重視したのはスピード感。「インバウンド」を掲げることで4市9町の連携へ
 宮城インバウンドDMOは2017年3月に設立されました。設立の中心となったのは、代表理事で株式会社VISIT東北代表取締役の齊藤良太さん、同じく代表理事で株式会社侍代表取締役の太見洋介さん、そして宮城インバウンドDMO推進協議会事務局を務める丸森町商工観光課です。

左から齊藤良太さん、太見洋介さん
左から齊藤良太さん、太見洋介さん

 福島県出身の太見さんは地域再生を目指す中で、空き家、労働力人口の減少などの課題解決の早道がインバウンドの中にあるのではないかと考えるようになりました。仙台市出身の齊藤さんはインバウンドでの地方創生を目指す中で、東北地方は誘客もプロモーションも未熟だが、民間企業一社で動くにはリソースが足りない、日本版DMOが現状に火をつけるためのいい仕組みなのではないかと考えていました。東北地方の訪日外国人延べ宿泊者数は、2016年には64万1070人となり震災前の約1.3倍に伸びましたが、全国の宿泊者数は震災前の約2.5倍に増加しており、インバウンド誘致は遅れているのが現状です。
 そんなころ、二人はそれぞれ丸森町商工観光課の職員に出会ってその熱意を感じ、ともに日本版DMO設立に向けて動くことを決意します。こうした経緯から、丸森町が協議会事務局を務めています。
 宮城インバウンドDMOの対象エリアである4市9町は、広域仙南圏の2市7町と、広域仙台圏のうち仙台より南の2市2町、つまり宮城県内の仙台より南のすべての自治体です。齊藤さん、太見さんは丸森町商工観光課の担当者とともにそれらをまわり、DMOが地域の課題を解決する可能性があると説いて回りました。また地元の銀行にセミナーを開催してもらうという形で、齊藤さんらが登壇してDMOについて説明する機会をつくったりもしました。当初は、「ふざけたことを言うな」と言われた地域もありましたが、丁寧に説明して理解を広めていきました。

太見:
まずは国内観光を強化しなければという声が一番多かったです。国内観光を強化すれば外国人観光客も来るようになると、事実に基づいて説明していきました。

 また、インバウンドに特化していることは、各地域の観光協会等の事業との重なりが少ないと理解され、連携への協力が広がる一因にもなったようです。
 ただしお二人は、この4市9町のみのことを考えているわけではありません。外国人観光客は市町村境を意識しないので、DMOの対象範囲を広げたり、他のDMOなどと連携したりして、より広域で考えるべきだとお二人は話します。宮城インバウンドDMOでは、東北地方でインバウンドを扱うベンチャー企業が集まる「東北インアウトバウンド連合」に加盟し、東北地方全体が連携して世界と「戦う」体制をつくっています。
 DMOを設立すると決めてから実際に設立するまでは約半年。このスピード感を重視するためには、民間による組織しかなかったとお二人は話します。ただし行政側でも、ともに設立に尽力した丸森町の職員は「ものすごくスピード感があった。これならうまくいくという形でスタートできた。」と齊藤さんは話します。
 収入面では、エリアの自治体から海外プロモーション、人材育成、コンサルティングなどの事業委託を受けています。さらに、共同代表のお二人がそれぞれ代表を務める侍、VISIT東北からの供託金や、丸森町がとりまとめた自治体からの負担金も得ています。自主事業での収入を増やすことも考えています。

齊藤:
負担金がないとやっていけないのではないかという人もいますが、それならビジネスで稼げばいいのではないかというのが私たちの考え方です。

●熱意ある参加者によるワーキンググループで具体的なアウトプットへ
 宮城インバウンドDMOでは、対象となる4市9町を構成員とする「宮城インバウンドDMO推進協議会」のもとに、交通、宿泊、ツアー造成、キラーコンテンツづくり、プロモーションの5つのカテゴリーでワーキンググループを設けています。ワーキンググループは、地域の課題は何か、それに対して何をすべきかを考え、具体的な行動にまで落とし込んで結果をアウトプットするところまで行う機関です。参加者は、インバウンドに熱意を持ち、動くことのできる企業や自治体職員です。

齊藤:
地域をまわったり、自治体の方と話をしたりしていると、やる気のある人がだんだんわかってくるので、声をかけたりしています。参加したいとFacebookなどで連絡をくれる人もいます。「こういう機会を待っていた」という反応も多いです。

 例えば「交通」を考えるワーキンググループのタクシー班では、約5社が参加し、タクシーの定額ルートづくりに取り組んでいます。

太見:
熱意はあっても、自分の地域の売り上げを守りたいという発言も出ます。ファシリテートを工夫しながらやっています。

 「宿泊」グループの民泊班では、民泊を紹介するウェブサイトの制作に取り組み、民泊を行う人へのインタビューなどを行っています。
 「プロモーション」グループではこの地域のブランドコンセプトづくりに取り組んでいます。蔵王山脈、亘理のはらこ飯などの名物がありますが、そうした一つ一つの地域資源を訴えるのではなく、地域全体の魅力をどう伝えたらよいのか、議論が進んでいます。

●インバウンド教育旅行でストーリーを伝える
 FITでは台湾とタイを主なターゲットとしており、旅行博などに出展してBtoBのセールスを行っています。出展を重ね、地域ごとの効果的なプロモーションのやり方もわかってきたと太見さんは話します。また、外国人への情報提供や受け入れ環境整備も進め、ウェブサイトの多言語化なども行っています。
 そうした中で、宮城インバウンドDMOが力を入れていることの一つが海外からの教育旅行の誘致です。ここで主なターゲットとしているのは学生の関心の高い中国やアメリカで、大学生向けの1~2週間のツアー造成に取り組んでいます。その内容は、民泊をしながら伝統工芸の職人に仕事への考え方や暮らしぶりを学んだり、震災からの復興に取り組む人から話を聞いたりするものです。

中国の学生向け教育旅行のサンプルツアーで、語り部から津波の被災体験を聞く
中国の学生向け教育旅行のサンプルツアーで、語り部から津波の被災体験を聞く

 太見さんが、アフリカからの旅行者を丸森町の藍染職人のところに連れていったときのことを教えてくれました。

太見:
 藍を窯に仕込み、糸や布をつけ、絞り方で染め方が変わるなど、一つ一つのことが気に入っているようでした。
 また、「ストーリー」が好きなようです。藍には毒を消す作用があり、江戸時代には侍が刀で切られたときに、普段から身に付けている藍染をしゃぶっていたなどの話をすると、とても興味を持っていました。

 この地域には炭焼き職人、陶芸家などもおり、こうした事業も楽しいと協力してくれる人も多いです。この地域ならではの魅力を体験できる分野で、日本人の観光客にもアピールできる可能性もあります。

●子どもたちに生きざまを見せる、未来へ向けた人材育成
 宮城インバウンドDMOには現在約7人の職員が在籍し、平均年齢は30歳という若さです。以前お二人と仕事をしたことのある人が多く、地元出身者はおらず全員が「よそもの」。内モンゴル、台湾など外国出身者もいます。
 人材の採用や育成において太見さんが重視していることは「ユニークさ」「熱意」「チャレンジ精神」の三つです。

太見:
 想像力が豊かな人は、あとはその伝え方、プレゼンなど発信力を高める技術を教えると、人を巻き込む力が加速していきます。また、コンプレックスを何とか変えていきたいという思いも熱量の高い行動につながりやすいです。

 お二人は丸森町などの小中高等学校で講演することもあります。仕事の話などは子どもたちの刺激になっているようです。

 また、今年9月からは宮城県からの受託事業「宮城県南地域の観光を支える人材育成研修」として、二つの連続講座を行っています。地域住民、観光関係事業者、商工業関係者、観光協会職員、市町職員等を対象とした「観光地域づくりの意識啓発研修」では、中国や台湾の観光客にまつわる状況を知り、海外へのPR方法を学ぶ講座を。観光施設や宿泊施設における担当者等を対象とした「おもてなし力向上研修」では、実践的な異文化対応などを学ぶ講座を開いています。

研修では齊藤さんも講師を務める
研修では齊藤さんも講師を務める

●収益につなげるには、常に新しいことに敏感に
 「スピード感重視」で取り組み続ける宮城インバウンドDMO。今年秋には、主催・共催するイベントや、さまざまな仕掛けが形となりました。

・Miyagi Inbound Food Fes(10月14~15日) 仙台国際空港での外国人観光客向けの食イベント。
Miyagi Inbound Food Fes

Miyagi Inbound Food Fes

Miyagi Inbound Food Fes
Miyagi Inbound Food Fes

・東北インバウンドサミットin仙台(10月20日) 「シェアリングエコノミーの将来」「外国人観光客誘致派vs国内観光客優先派」「3年先に存続するDMOを創るために今すべきこと」の三つのテーマでディスカッション、ディベートを行いました。
・宮城インバウンドDMO、(株)KADOKAWA、(株)パソナの三者による、酒蔵ツーリズムを活用した地域の観光振興を目指した「宮城県南4市9町を中心とした国内外観光推進協定」を締結(11月1日)
・今年6月のロケハン対応の結果、白石市、川崎町、丸森町でのタイ映画撮影の誘致に成功。11月に撮影が行われました。2018年夏に公開予定

 さらに、5つのワーキンググループの取り組みも次々と形になっていく予定です。

齊藤:
新しい市場に対応することが大切だと思います。例えば民泊については、来年法改正があります。これをにらんで今手を打っているのかどうか。勉強しておいて、いざ改正されたときにはすぐに利益を得ることができるようにするべきです。常に新しいことに敏感になって、いち早く取り組むことが重要です。

太見:
インバウンドを通して、そのまちの観光はもちろん、サービス業や小売業、不動産などさまざまな産業が盛り上がったり、新しいビジネスで雇用が生まれたりすれば本望です。地域外から若い人間が入ってきて新しい風を吹かせることができているのを、この活動を通して実感しています。

(DMO推進室からひとこと)
民間企業のスピードや実行力、既存組織のしがらみにとらわれず進む力が発揮されているのは、ともに動く丸森町の職員にもスピード感や行動力があり、自治体同士の調整などを担って、お互いの信頼関係が培われているからでもあるようです。民間と行政のどちらかだけに任せ切るのではなく、お互いの役割を果たすことが、地域をより大きく動かしていくのではないでしょうか。

一般社団法人宮城インバウンドDMO http://miyagidmo.org/