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2017.08.15
海外DMO事例を紹介Vol.2
オーストリアチロル州における人材育成の取組
※国土交通省観光庁『平成28年度DMOを担う人材育成プログラム策定・研修事業』報告書より抜粋
①セミナー運営の概要
A アルペンホスト協会の組織概要
アルペンホスト協会はザルツブルクとチロルにある宿泊施設、特に家族経営の小規模な宿泊施設経営をサポートするための団体であり、宿泊施設の品質管理やマーケティングを中心としたセミナーやトレーニングプログラムを提供するためのアカデミーを運営している。
B セミナー事業の開始のきっかけ
アカデミーの運営を通じ、観光業界の人材育成に取り組んだのは、零細ホテルが自分達の力ではプロモーションができず、埋没していくことが多かったため、これを回避しようと試みたのがはじまりである。実際に町中には空室を抱えている宿泊施設があるにも関わらず、旅行者には情報が届かず、泊まれる宿泊施設が見つからないとの消費者側の声があり、WEB上で簡単に自分達の宿泊施設の情報を公開するための技術を教えるのが主なきっかけであった。
![]() アルペンホスト協会 | ![]() 空室状況を示す表札 |
a.セミナー開催資金
1回のセミナーを開催するに当たり、州からの補助金が約2,500ユーロ、地域の各観光協会か
らの負担金約5,000ユーロ、受講者の参加費で資金が主に構成され、講師謝金及びその他開催費
用に充てられる。
受講者の参加費用は地域の観光協会の負担金によって変わってくるが、平均的に50ユーロで
ある。地域の観光協会の負担金が多ければ無料であるが、負担金が少ない時は90ユーロになる
場合もある。
各セミナーにおける講師謝金は1,000ユーロとセミナー開催の全体費用に占める比率が高い。
b.セミナーの本数と講師数
43のセミナーを19人の講師で運営している。講師は実務経験者とコンサルタントと大きくは
2つの部門に分けられ、応募があれば面接を行い、採用を行っている。業界の中ではセミナーに
対する認知度が高く、特に募集を行わなくても志願者が多い。
c.ネットワークの構成
チロル州34地域の中から、32地域の観光協会がパートナーとして参加しており、32の観光協
会にはセミナー専属スタッフを配置している。専属スタッフは地域内で必要とするセミナーを把
握し、アカデミーと調整の上、セミナーの開催をコーディネートする役割を果たしている。
また、32地域の専属スタッフの情報交換会を年に2回開催し、しっかりとしたネットワーク
を構成している。

セミナーの内容においては、より実践に着目したセミナーにするため、実務に役立つことに徹底しており、多くの小規模の宿泊施設や零細ホテルの経営者である高年層が理解できるよう内容の分かりやすさにも徹底している。
セミナーの意義としては、50%はノウハウを伝えること、25%はモチベーションの付与、25%は情報交換及び悩み交換としており、単に知識や技術を教えるのはなく、受講者同士の交流も重視している。
そのため、受講者のセミナー参加後の意見として、「同じ悩みを持っている同僚や関係者がいたのでとても参考になった」や「他の宿泊施設の状況を聞き、価格を10ユーロ上げることに対する勇気を持てるようになった」など、受講者同士の情報交換に対する満足度が高くなっている。
②セミナーの実施状況について
A セミナーの対象
主にホテルの従業員を対象としており、家族経営の零細ホテル等の経営者も対象としている。
B セミナーの実施状況
5年間の合計520回を開催しており、2,340の宿泊施設から5,300人がセミナーに参加している。参加者の属性としては、78%と女性の参加者が多くなっている。また、参加者の55%は従業員が15人までの小規模の宿泊施設からの参加であった。

③セミナーの詳細
A セミナーの構成
セミナーは第1段階はオリエンテーション、第2段階は研修、第3段階はワークショップと3段階で構成されている。
a.第1段階 : 基礎部門を学ぶ段階で半日のセミナー
b.第2段階 : 応用部門を学ぶ段階で1日セミナー
c.第3段階 : 意見交換部門で半日のセミナー
B 具他的なセミナーの内容
セミナーの具体的な内容については以下のとおりである。
a.商品造成及び顧客獲得に関するセミナー
・成功する商品とパッケージのつくりかた
・営業メールでの誘惑が顧客獲得の鍵
・顧客コミュニケーションのプロのツールとしてのメール 等
b.ウェブサイト、インターネット、予約に関するセミナー
・賢いマーケティングで稼働率向上、それでいて低予算
・価格最適化で成功を
・ネット広告の基礎
・オンラインマーケティングとウェブサイトのための画像処理
・顧客獲得競争の原動力としてのGoogle
・マーケティングにおける適切なターゲット層を狙う
・小企業におけるプロとしてのマーケティング
・価格に風を:利益を上げるプロの計算
・プロとしてGoogleを使おう!Maps、Panoramio、YouTube 等
c.宿泊施設と品質管理に関するセミナー
・お客を喜ばせ、驚かせる―新たな常連客獲得の道
・客目線の認識―広告とセールスの成功の鍵
・個性的な魅力を得るにはどうすればよいか
・初心者のための写真実践コース(一日)
・外国文化を学ぶ ―新たな顧客獲得
・チャンスとして短期滞在を(適切に)利用する 等
d.ワークショップ
・ウェブサイト基礎ワークショップ―インターネットに親しむ
・初心者のためのインターネット― 小企業への大きなチャンス
・説得力のあるオンライン広告 等
④考察
A セミナーの内容の工夫
a.小規模の宿泊施設の経営者や従業員の目線に合わせた内容でセミナーの分かりやすさに徹底
していることが大変参考になった。その背景として、ドイツ・バイエルン州で行ったセミ
ナー事業は専門知識を主に扱っていたため、内容が難しく、受講者の獲得が難しくなり事業
がうまく成立しなかったことを参考にしている。
b.各地域の担当者によるしっかりとしたニーズ把握のもと、セミナーのプログラム(内容)が
構成されることから、即戦力となりうる講義内容であると考えられる。
c.受講者同士の情報交換を積極的に促し、セミナーに対する満足度の高さに繋がっていること
が大変参考になった。
d.講師の質を確保・維持するため、アカデミーの関係者も定期的にセミナーに参加しチェック
体制を保っており、高いレベルの講師謝金を設け、講師のモチベーションを高めていること
が大変参考になった。
B セミナーの実施体制
a.32地域のそれぞれの専属スタッフによるネットワークが構成され、その地域のニーズをし
っかり把握し、今現在、必要とされるセミナーを適宜に提供出来ていることが大変参考に
なった。
b.専属スタッフからなる協議会が年に2回開催され、それぞれ地域の現状や課題に関する情
報交換を行っており、広域的な地域全体としての一体感を醸成していることが大変参考に
なった。