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2017.08.10

【第10回】DMO先進事例に学ぶ
ケース6:一般社団法人そらの郷(地域連携DMO)


●官民連携でめざす、世界に通用する観光地域づくり

徳島県西部(にし阿波)の美馬市・三好市・つるぎ町・東みよし町を活動エリアとするそらの郷は、「にし阿波~剣山・吉野川観光圏」の観光地域づくりプラットフォームとして2011年に設立され、2016年2月に日本版DMO候補法人として登録されました。

●観光圏として始まったそらの郷の取り組み

 にし阿波は、西日本第二の高峰である剣山や吉野川に代表される自然資源、歴史文化資源、伝説や伝承、さらに独特の食文化、伝統芸能に彩られた、県内屈指の観光地域です。
 このエリアでは、大歩危・祖谷地域の5軒のホテル・旅館により2000年に結成された「大歩危・祖谷いってみる会」が、行政とも連携して地域全体を売り込む活動を行い、国内外からの誘客に成果をあげてきました。また2007年には、農山村の家庭と交流しありのままの暮らしを体験する、体験型教育旅行の受け入れ組織として「そらの郷山里物語協議会」が設立され、中学校、高校の修学旅行の受け入れを拡大してきました。
 こうした中、2008年に、にし阿波が観光圏として認定を受け、2013年には新基準による観光圏にも認定されました。
 にし阿波では「そらの郷山里物語協議会」を母体として2011年に設立された「一般社団法人そらの郷」に、幅広い業種の中核人材「観光地域づくりマネージャー」が所属して、観光地域づくりの戦略策定やマネジメント、旅行商品の開発販売や国内外からの誘客活動などを担うことになりました。大歩危・祖谷いってみる会を中心とした民間と行政が一体となり、さらに日本政府観光局や四国ツーリズム創造機構などとも連携して、積極的なインバウンド誘致を図っています。東洋文化研究者アレックス・カー氏の著作や海外の旅行ガイドブックで紹介された一定の認知度の上に、対象市場を分析し相性の良い国・地域を選び、情報発信や商品造成を働きかける戦略的なプロモーションを展開してきました。
 またそらの郷では、剣山や吉野川の恵みが育んだ独特の歴史文化、伝説伝承、暮らしをテーマに、急傾斜の山腹に畑や居宅が点在する山村集落をガイドとともに訪れるツアーや、早朝V字渓谷に広がる雲海(八合霧)を鑑賞するタクシープランの開発、販売を行うほか、多言語表記の看板やパンフレット整備など、官民あげてさまざまな受け入れ環境整備を進めてきました。
 この結果、エリアの昨年の外国人宿泊者数は2万3681人で、5年前の10倍以上になりました。国別では東アジアが多く、欧米豪からの小規模富裕層ツアーも増加しています。事務局長の丸岡進さんは「ブランド力の向上が感じられます」と話します。

急峻な山腹に居宅や畑が展開する独特の集落景観
急峻な山腹に居宅や畑が展開する独特の集落景観

●日本版DMOから世界水準DMOに向けて

 全国レベルでの観光圏の広域連携も進んでおり、13観光圏が自発的なアライアンス体制を組んで共同事業を実施しています。その中で共通ブランド「UNDISCOVERED JAPANまだ見ぬ日本」として世界へ情報発信する取り組みのまとめ役を、にし阿波が担当しています。
 また、2016年11月地域の食、農業、特徴ある景観等の観光資源を核としてインバウンド誘致を図る「食と農の景勝地」に、にし阿波地域が選ばれました。さらに、今年3月には「日本農業遺産」に「にし阿波の傾斜地農耕システム」が選ばれました。

傾斜地のまま耕す伝統の農法
傾斜地のまま耕す伝統の農法

さまざまな制度により、にし阿波ならではの自然景観、高地傾斜地集落の暮らしと生活文化が、日本の顔となる地域独自の価値として認められたことは「地域にとって大きな喜びでした」と丸岡さんは話します。一方で、にし阿波は厳しい人口減少、高齢化の先進地でもあり、観光を生かした「住んでよし訪れてよし」の地域づくりは、必要不可欠な取り組みです。
 にし阿波~剣山・吉野川観光圏は今年度が最終年であり、総括と、新たなステージを目指す節目の年です。観光圏を構成する民間事業者、2市2町、県などは、来年度以降も現行の枠組みを維持し、官民連携した観光地域づくりを推進する予定です。 「その中核となるそらの郷は、国内外の来訪客から選ばれる次世代のブランド観光地域となるよう、世界に通用する観光地域づくりを引き続き進めていきます。そのことは、日本版DMO候補法人の段階から一歩先に進んだ「日本型DMO」、そして「世界水準のDMO」として認められることにつながると信じています。取り組みはまだまだ道半ば、やるべきことは山積していますが、これまでの成果を生かして、さらに高いステージにチャレンジしていきます」と丸岡さんは話します。
観光地となっている「祖谷のかずら橋」にも、地域の自然資源を有効活用する背景がある
観光地となっている「祖谷のかずら橋」にも、地域の自然資源を有効活用する背景がある

●新たな担い手との連携による新たな展開の芽生え

 にし阿波の高地集落では、急傾斜の山肌に住居があり、平坦な段々畑を作ることなく斜面のままで農業を行っています。畑で見られる「コエグロ」は、ススキを束ね、乾燥させるために積み、巻いて固定したもの。これを畑に敷くと、土壌の流出や雑草を防いで微生物が育まれ、またススキが肥料となって作物の成長を助けます。このように、高度に植物資源を循環させる農業を行い自然と共生する暮らしが、にし阿波の2市2町の至るところで見られます。また観光地域づくりにも、暮らしや文化を守り継承していく姿勢が反映されています。
コエグロのある風景
コエグロのある風景

 こうした地域の価値を伝えるためには、高いレベルのガイドが必要ですが、人口減少の中、地域の中だけでは担い手が足りません。そこで、地域おこし協力隊をはじめ都市部からの移住者や起業家などに期待が集まります。彼らとの連携により今後、新たな展開が生まれる可能性があります。
 地域で生まれ育ち地域を誇りに思う住民と、新たな担い手。そのコラボ。次のステージに向けて、芽生えや動きが始まろうとしています。
地域住民と若い世代が連携
地域住民と若い世代が連携

 そらの郷の観光地域づくりは、歴史や文化、伝統的な暮らしに基づいたものであるのが特長です。
 また、取り組みにあたって、かかわりのある多様な人と柔軟に連携しながら進めています。

そらの郷山里物語 http://nishi-awa.jp/soranosato