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2017.07.06

【第9回】DMO先進事例に学ぶ
ケース5:一般社団法人八ヶ岳ツーリズムマネジメント(地域連携DMO)


日本版DMO候補法人の登録数は、現在では140以上となっています。しかし、なかなかDMOとしての本格的な取り組みを始められない地域もあるようです。さまざまなDMOの先進的な活動を学ぶことは、それぞれの地域で次にどんな取り組みをすると良いのか、そのヒントやイメージをつかむ上で役立つと言えます。今回は、地域の合意形成を大切に進める八ヶ岳ツーリズムマネジメントにお話をうかがいました。

●心を一つに、観光を武器にした地域づくり

 山梨県北杜市、富士見町、長野県原村は2010年に「八ヶ岳観光圏」に認定されました。2013年に観光圏の登録要件が変わり、「観光地域づくりマネージャー」のいる「観光地域づくりプラットフォーム」があることが要件の一つになりました。これに従って設立されたのが(一社)八ヶ岳ツーリズムマネジメント(以下八ヶ岳TM)です。観光地域づくりプラットフォームは地域におけるワンストップ窓口となり、予約や手配の一元化を行うほか、プログラムなどの情報を一元的に伝えることでエリアブランドを発信します。「市民や事業者がプレーヤーとしてやりたいことをやり、われわれはコーディネーター、ディレクターとして執行管理をします」と代表理事の小林昭治さんは話します。八ヶ岳TMはDMOの役割も実質的に果たしており、昨年日本版DMO候補法人に登録されました。

小林昭治さん
小林昭治さん

●ブランドコンセプトを浸透させる

 八ヶ岳TMのブランドコンセプトは「1000mの天空リゾート八ヶ岳~澄みきった自分に還る場所~」です。観光施設や自治体を始めとする地域の人々のほか、東京の旅行代理店、大学教授なども交えたディスカッションを1年以上も重ねて生み出されたものです。昔から歴史や価値観を共有してきた3市町村からなる八ヶ岳観光圏のエリアには1000mの標高差があり、「八ヶ岳ブルー」と呼ばれる空の下にある「立体空間」、そして縄文時代から人々が住む「安住の地」であることが八ヶ岳独自の価値だと示しています。これができてからは「これにもとづき、これを体感できるようなプログラムを創出するようにしています。これがないとばらばらになってしまいます」と小林さん。
ブランドコンセプトのポスター
ブランドコンセプトのポスター

 ブランドコンセプトを来訪者、そして地域住民に感じてもらうために行われたことの一つが「標高サイン」の掲示です。エリア内のさまざまな施設、店舗に空白のサインを配布し、その場所の標高をデジタル風に記入してもらいます。現在ではコンビニエンスストアなども含め、掲示が2000か所以上に広がっています。「地域の方も、自分がどこに住んでいるのかがわかりますし、訪れた方もおもしろいところだねと言ってくださっています。お金をかけるのではなく、知恵を絞って仕組みをつくることが大切です」
店舗に貼られた標高サイン
店舗に貼られた標高サイン

 事業の採否についてもこのブランド形成に資するかどうかが判断基準となり、これまでに「天空博覧会」「寒いけどお得フェア」「スターオーシャン八ヶ岳」などの取り組みが生まれてきました。そして、新たに取り組んでいるのが「八ヶ岳DMS」。エリアの加盟店がシステムを通じて自店の情報発信やマーケティング、加盟店同士の交流などができるものです。エリアサポーターを設け、24回のワークショップを開くなどしてこの普及に努めています。
スノートレッキング
スノートレッキング

ナビゲーターが案内する星空観察ショー
ナビゲーターが案内する星空観察ショー

●分野を越えた協力で地域の合意形成

 八ヶ岳TMの特徴の一つは地域の合意形成にあります。どんな取り組みが行われているのか、なぜそれをしているのかを地域の人々が理解し、一緒になって参加するということです。八ヶ岳観光圏ではクレド(行動理念)として「地域住民の合意形成と意識啓発~真の住んでよし、訪れてよしを目指して~」を掲げています。八ヶ岳TMでは月に1回の「ブランド確立戦略会議」をはじめとして、定期的に関係者が集まる会議や打ち合わせを重ねてきました。またさまざまな事業は、8人の観光地域づくりマネージャーが分野ごとに企画やマネジメントを担当し、市町村担当者や地域の事業者とともに進めてきました。
ブランド確立戦略会議
ブランド確立戦略会議

 こうした中で小林さんは、北杜市のふるさと創生会議や実践型雇用創造協議会など、地域のさまざまな団体に請われて参加するようになりました。会合でツーリズムマネジメントとしての見解などを積極的に発言するほか、雇用の創出など団体の事業に協力したり、情報を事業者に伝達したりもしています。自治体との連携も強くなり、新入職員研修で小林さんが話したり、3市町村が連携した事業について、各首長に小林さんが説明したりしています。「地域に横串を刺すのが役割です」と小林さんは話します。
 密な連携と、前述したブランドコンセプトによる意識啓発により、地域が一つの方向を向き始めています。

●「観光は地域づくりのため」の考えを貫く
 こうした分野の垣根を超えた活動の背景には、観光で地域づくりをするという考えが貫かれています。
 「再訪してもらえるのは、地域の内部環境が整っているからです。つまり「住んでよし」の地域をつくることが「訪れてよし」につながってくるのです。単にブランドとかDMOとかいうのではなく、何のためにやっているのか、何が必要かをきちんと考えることが大事です。例えば、地域の人口減少という課題に対して、交流人口を含めた人口を増やすというような、地域づくりの視点を持つことが重要です」
 こうした考えが一つの形になったのが、2015年の、八ヶ岳観光圏エリアの3市町村での定住自立圏形成です。これまで観光圏として3市町村が連携してきたからこそ、人口定住を促進する取り組みでも連携することができました。
「観光を武器に地域づくりをしているのです。地域づくりをやっていくことが一番です」
高原でセグウェイ
高原でセグウェイ

 八ヶ岳TMの活動からは「何のために、何を目指して」活動しているのか考え、掲げ続けることにより、一貫したブランド形成が行われ、観光につながっていることがわかります。こうした取り組みを共有し、論議する研究会の設立も予定しているそうです。