公益社団法人 日本観光振興協会

今年度最終回(第8回)のDMO研究会は、日本型DMO実践例の第2弾として、一般社団法人雪国観光圏代表理事/株式会社いせん代表取締役・合同会社雪国食文化研究所代表社員の井口智裕氏に、「おもてなしの国の観光品質とは~サクラクオリティーを活用した雪国観光圏の取組事例~」をテーマにお話いただきました。国内で初めての観光の品質認証の取り組みへの関心は高く、質疑でも活発な意見が交わされました。
※資料等も含めた会議録のダウンロード(PDFファイル)

井口智裕氏。「越後湯澤HATAGO井仙」を経営しつつ、雪国観光圏事業発足当初からプランナーとして参画。品質認証が地域に及ぼす最たる効果であるブランド力向上を目指す。

 
                                                                           
▼世界で最も雪深い地域が連携している雪国観光圏
          

雪国観光圏は、新潟県の湯沢町を中心に、南魚沼、魚沼、十日町、信濃町、長野県の栄村、群馬県のみなかみの3県7市町村で構成しています。東京から新幹線でわずか64分という距離にある、世界で最も雪の深い地域です。川端康成の小説『雪国』の冒頭の一節「国境の長いトンネルを抜けて」の世界観そのものであることから、そのフレーズをブランドコンセプトに定め、世界に誇る雪国の暮らしや文化の価値の表現に取り組んでいます。

    

 
▼雪国観光圏のビジョン・クレド・運営体制
                   

雪国観光圏の運営理念(ビジョン)は、「100年後も雪国であるために」。このビジョンに応じて、クレド(価値基準)も策定しています。これらは、雪国観光圏が単に集客のための広域連携ではなく、あくまで地域のビジョンを形にしていく役割として存在するという思いがベースにあるからです。
雪国観光圏は、雪国観光圏推進協議会と一般社団法人雪国観光圏の2つの組織体から成っています。前者は観光協会などを中心とする行政組織で、社会資本の整備や地域の中長期計画の策定など行政的な事業を補助金で行っています。後者は民間組織であり、地域のプラットフォーム(観光地域づくりプラットフォーム)として観光庁の観光圏事業の受け皿となっており、民間主導のプロモーションや品質認証などの事業を会費で運営しています。両組織をつなぐために「雪国観光圏戦略会議」を設け、テーマに応じたワーキンググループを運営しています。
これまでに、雪国観光圏フォーラムや各種ワーキンググループ、モニターツアーなどを実施したり、「雪国観光圏スノーカントリートレイル」構想を一昨年立ち上げ、山岳の登山ルートの整備にも取り組んでいます。雪国観光圏のウェブサイトには、各観光協会、市町村のHPが掲載していない圏域のマニアックな観光情報を敢えて取り上げています。着地型旅行商品も一元化して載せており、雪国観光圏のコンセプトに準じたものを「雪旅」というブランドで露出させています。サイト上で予約可能で、旅館等の宿泊予約サイトを経由して商品を予約した場合、経由元の旅館のHPに課金される仕組みになっています。
    

 
  

世界レベルで通用するための「価値」=「雪国たる理由」を発掘し新たな価値を創出

  

▼雪国観光圏の2つの観光品質の認証事業
                  

雪国観光圏が取り組む観光の品質認証の食分野が「A級グルメ」事業です。旅館・飲食店・加工分野の中から、「産地情報を公開しているもの」、「なるべく化学調味料を使わないもの」、「なるべく雪国の伝統的な調理法に準じたものを出しているもの」について、一般社団法人雪国観光圏が1つ星から3つ星に認定してPRしています(運営事務局は、雑誌『自由人』編集部)。
「サクラクオリティー」は、外国人を迎え入れるにあたっての最低限の表示、マナー、受け入れ態勢を整備するために、雪国観光圏のインバウンド事業に取り組む事業者に取得を指導している品質認証事業です。

    

 
▼シンクタンクの協力を得て宿の品質認証実証実験がスタート
                  

ところで、インバウンドと言えばプロモーションが必要だとよく言われます。しかし、私は「宣伝するならば、まずはお客さまを最低限受け入れられる仕組みをつくってから」と観光圏発足当初から言い続けています。そして、まずしなければならないのが、宿泊施設の基準を海外のそれに準じさせることです。

そこで、海外の品質認証を調べてみると、ニュージーランドの「クォールマーク」が非常に進んでいることがわかりました。また、中部圏社会経済研究所(以下、中部社研)が、そのニュージーランドのクォールマークをモデルにした実証実験を行っていたことを知り、さっそくコンタクトを取りました。そして、雪国観光圏を実証実験先に、新たに中部社研さんに予算をつけていただき、観光品質基準の旅館編の見直しとアクティビティー編の策定が実現しました。2010年から民宿・ペンション編の策定、アクティビティー編の実証実験、2013年にはホテル編の策定を行いました

    

 
▼サクラクオリティー導入のメリットと期待される効果」

                  

サクラクオリティーを導入するメリットと期待される効果は次の5点です。①地域全体でお客さまの満足度が向上(課題がわかるため改善を行うことで受け入れ態勢が整う)、②事業者のプロモーションへの負担軽減、③氾濫する口コミサイトからの被害抑制、④ホテル、旅館経営における品質改善の指標(ベンチマーキング)になる、⑤全国初という意味でのパブリッシングの効果です。
観光産業の難しいところは、お客さまの期待値と実際のパフォーマンス(満足度)のベクトルをいかに合わせていくかにあります。そのためにはお客さまの満足度を上げていくのはもちろんですが、お客さまに事前に、できるサービス・できないサービスを明確に見せて、お客さまの選択を助けることです。

    

 
  

地域全体で取り組めば、地域に対する満足度の向上につながる

  

▼ニュージーランドのクォールマーク・システム
                  

2001年、ニュージーランド観光局は、国が60%、ニュージーランド自動車協会が40%出資してクォールマークニュージーランドリミテッドを設立しました。品質認証をする「クォールマーク」と環境に配慮した事業所に対して認証される「クォールマークグリーン」の2種類を運用しています。一番の特徴は、現在約11種類もある宿泊施設のカテゴリーで、各カテゴリー内で星1つから5つにきちんと評価されています。二つ目の特徴は、交通機関、アクティビティー、ビジターサービス(ギフトショップなど)、ビジターインフォメーションセンター、ツアーオペレーターの5つの分野に関しては認証のみ、レイティング(星付け)がないこと。クォールマークは考え方のベースに「経営の品質管理」があるため、施設側のレベルアップが可能です。これから日本が観光立国として世界と戦っていくには、クォールマークを含めたニュージーランドのような国をあげての観光の品質認証の仕組みと受け入れ態勢を目指していくべきではないかなと思っています。

    

 
▼雪国観光圏におけるサクラクオリティーの運用例
                  

品質認証を進める上で最も重要事なのは、「啓蒙→品質認証→プロモーション」の順序で取り組みを進めることです。まずは地域の方々に理解していただき、自主的にサクラクオリティーへの参加を促す。その結果、プロモーションへ。この順序を間違えると、なぜおれの施設を勝手におまえが評価をするのだという話になってしまいます。
サクラクオリティーの参加条件は、民宿2万5,000円、中規模旅館3万6,000円、大型旅館約5万円で、それらを年会費として徴収しています。初年度、2年目は事業者さんに負担していただいたものの、調査自体は中部社研さんの研究事業の一環でかなり格安に済んだおかげで、会費を原資にプロモーションに回すことができました。ただ、実際に現在の会費の金額で品質認証調査を含む運用を行おうとするとなかなか難しいのが実情です
調査員は、2名1組で1日に約2施設を回ります。外国人の視点を確保するために、できれば調査員に地元にいる外国人を1名入れます。まず、調査項目は事前に施設に送り自己評価していただき、それを基に調査員が実際に現地に行き、調査員の調査結果と擦り合わせて最終評価を確定します。雪国観光圏では中部社研さんが星付けを行い、雪国観光圏が認証します。事前に調査のレクチャーを受けて査定項目や内容を知れば、事前に改善ができるという点がこの調査の大きなポイントでもあります。つまり、啓蒙が重要なのです。 ただ、サービス評価を覆面調査形式で評価するとなると莫大なコストが掛かりますので、調査項目は設備に偏っているという課題もあります。
初年度の加盟事業者は約50社、1年後は37社に減ったものの、利用者数は約2.5倍に増えました。加盟事業者が減った理由は、初年度平均利用者数が7人しかいなかったため。2年目は取扱金額・利用者数共に増えました。今年はもっと伸びていると思います。

    

 
▼サクラクオリティーが直面する評価システムの課題
                  

今後は、一度評価システム自体をきちんと整理する必要があるのではないか。サクラクオリティーの議論では「格付け」・「品質認証」・「情報開示」の違いがごっちゃに議論されることが多いのです。格付けはミシュラン等のかランキング、サクラクオリティーは品質認証です。情報開示はファクトシートや宿泊タリフ(料金表)のようなもの。格付けの一番良いところは明示性です。品質認証はそのあたりは少し劣り、格付けほどインパクトがありません。客観的根拠に関しても、格付けの方が担保されやすい。品質認証の場合、認定を受ける事業者の意見によって評価が分かれてしまうことがあり、ここも品質保証の弱点です。情報開示のレベルになると、まったく客観的根拠がありません。運用コストのメリットは、情報開示、品質認証、格付けの順です。
今後の日本の観光品質認証を考えるにおいて、せめてトップ5%とか10%のホテルは品質認証を受け、さらに、日本の顔となるブランドホテルや宿泊施設は格付けを行うというように、3段階ぐらいを組み合わせて考えていくことが必要だろうと私は思います。     

 
  

サクラクオリティにおける情報開示例

  

▼国全体で観光品質をマネジメントする共通のプラットフォームの必要性
              

観光の品質認証事業は、1エリアや1つの県で実施してもインパクトはありません。ニュージーランドのように、国全体で品質を担保していくことをしていかないと、商品力になりません。やはり日本の中での共通のプラットフォームの整備が急がれます。今、全国10観光圏の来年度の共通事業の中で品質認証に取り組んでいただくことを考えています。日本のゴールデンルートに変わる別のルートをつくろうと考えると、今後は観光圏同士の連携が必要になってきます。1つの観光圏から別の観光圏への移動や宿泊を求めるお客さまが快適・安心・安全にご旅行いただくためには、やはり何らかの統一基準が必要になってきますし、宿泊や旅行商品の手配のインフラも整備しなければなりません。    

 
▼観光産業自体を「PDCAサイクル」で回す仕組みに
                  

私は、一昨年の観光庁の観光産業検討会議で、日本の観光産業を世界レベルまでに持っていくには、まず観光産業自体をPDCAのサイクルで回すという仕組みをつくれるかどうかだと何度も提案しました。
 ニュージーランドが素晴らしいのは、お客さまの声によって、11のカテゴリーも、調査項目も、常に変化していることです。評価はお客さまのニーズで変わりますから、当然調査項目も改良していかなければいけません。ただそのためには、やはり国全体でそのマネジメントの仕組みをつくっていく必要を感じている次第です。今、日本には格付けの機関も、調査項目もいろいろあり、プラットフォームやデファクトスタンダード(事実上の標準)が乱立しているような状況です。日本が世界レベルの観光産業を目指していくためには、各機関の連携や戦略的にネットワークを共有化していくことをやっていくべきだと思います。     

 
  

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