公益社団法人 日本観光振興協会

第7回のDMO研究会は、日本型DMO実践例の第1弾。観光庁の観光圏事業の中でも、地域マネジメントの実践で着実に成果を上げている八ヶ岳観光圏のプラットフォーム・八ヶ岳ツーリズムマネジメント代表理事の小林昭治氏から、八ヶ岳観光圏の広域連携事業についてプレゼンテーションいただきました。その前段には、観光地域づくりプラットフォーム推進機構の清水慎一会長から「観光圏事業と地域マネジメント」について解説いただき、自治体・官民・既存団体の壁を越えて広域で取り組む観光事業にとって、主役であるエリアの住民や観光事業者たちの意識の醸成がいかに重要であるかが強調されました。
※資料等も含めた会議録のダウンロード(PDFファイル)

 
                                                                                                       
(1)解説「観光圏事業と地域マネジメント」清水愼一/観光地域づくりPF推進機構会長
▼観光形態と来訪者の行動範囲の変化を背景に観光圏が誕生

          

近年、観光の形態が、観光施設や宿泊施設中心のものから「まち歩き」のような異業種連携に変化し、観光振興に観光関連事業者だけでなく、農家や商店主も含めたより多様な地域の関係者の協力を得てお客さまと対峙しなければならなくなってきました。また、お客さまの行動範囲は広域になってきており、自治体間連携が重要になってきます。「自治体の、業種の、官民の壁を超えて」観光振興を行う必要が出てきた結果、広域エリアでの周遊滞在を促進していこうと平成20年に観光圏整備法ができました。

    

 
▼失敗の反省から生まれた本来の広域観光を目指す10の観光圏
                   

しかし、平成20年の公募で採択された79件は、あまり成果が上がりませんでした。その結果、5年経過で一度見直し、数々の議論を経て、平成25年度から新たな観光圏事業がスタートしました。新たな観光圏では、「複数の自治体が一緒に、業種や官民を越えて1つにまとまって事業を行い、お客さまへの一元的窓口をつくり(ワンストップサービスを行い)、エリア全体のブランディングを図りながらエリア全体の経済が回るように取り組むこと」を目指しました。
平成25年度は第1次で「雪国」、「八ヶ岳」、「富良野・美瑛」、「佐世保・小値賀」、「阿蘇くじゅう」、「にし阿波~剣山・吉野川」の6つが登録され、第2次で「ニセコ」、「浜名湖」、京都北部の「海の京都」、大分県の「豊の国千年ロマン」の4つが加わり、現在は10の観光圏が機能しています。
    

 
  

変遷する観光の形態に対応するため、新しい多様な連携が重要となる

  

▼「観光地域づくりプラットフォーム」と「観光地域づくりマネージャー」が観光圏の登録要件に
                  

平成25年度の新たな観光圏登録の要件に2つの重要なものが明示されました。1つは「観光地域づくりプラットフォームがあること」。この「観光地域づくりプラットフォーム」は、単なる協議会ではなく、マーケティングとマネジメントの機能を持った組織です。もう1つは、「『観光地域づくりプラットフォーム』で活躍する『観光地域づくりマネージャーがいること』」です。

観光圏事業では、今、長期滞在の実現に向けてゴールデンルートに代わる広域周遊ルートづくりが動き出しています。先日の臨時国会で安倍首相から「地方創生をインバウンドによって成功させたモデル」として紹介された徳島県の三好市は、美馬市、つるぎ町、東みよし町と共に「にし阿波観光圏」をつくっています。徳島県全体の外国人宿泊3万泊のうちの1万泊を三好市が稼ぎ始めており、「にし阿波観光圏」に来訪されるお客さまの半分以上が倉敷、関空経由です。観光圏を1つの核にしながら、他の地域との広域周遊ルートができつつあります。

    

 
▼広域観光推進DMOのモデル、ドイツのロマンチック街道協議会
                  

観光圏のような受け皿が広域周遊ルートでも機能していなければならないのですが、残念ながら、日本の広域周遊ルートで成功している事例はありません。

たとえば、ドイツの「ロマンチック街道」のHPは、ロマンチック街道に関するあらゆる情報が掲載されており、それらが7カ国語で読めます。バス、レンタカー、自転車のレンタル、ホテルやレストラン、サイクリング時の荷物の託送サービスまで日本から予約ができます。それを「ロマンチック街道協議会」がワンストップで行い、マネジメントしています。これがDMOの1つの原型です。日本では、その推進主体である「観光地域づくりプラットフォーム」とそこで活躍する「観光地域づくりマネージャー」が、心からお客さまに対峙してお客さまを動かしていくことが必要だと痛感しながら、既存の観光組織のDMO化等を進めていかなければならないと今あちこちでお話ししているところです。

    

 
  

多様な組織体をとりまとめる観光地域づくりPFが、お客様のニーズに一元的に対応する

  

     


  

(2)プレゼンテーション「八ヶ岳観光圏における広域連携事業の取り組み」
小林昭治/(一社)八ヶ岳ツーリズムマネジメント代表理事

                  

八ヶ岳観光圏(八ヶ岳ツーリズムマネジメント、以下「八ヶ岳TM」)は、平成25年4月に6つの観光圏の1つとして認定されました。自然や歴史、文化を共有している地域が連携しようと八ヶ岳を中心に置き、山梨県の北杜市、長野県の富士見町、原村の1市1町1村で観光圏エリアを形成しています。

    

 
▼「官民、地域間(行政間)、既存団体」という観光圏事業推進の3つの壁
                  

観光圏で広域連携事業を推進するには、「官民、地域間、既存団体との間」の3つの壁があります。民間同士ですが、富士山のような超A級の観光資源がない八ヶ岳では平成16年から「八ヶ岳やとわれ支配人会」という組織をつくって、長野県原村、富士見町、南牧村の野辺山、山梨県北杜市の施設が連携してきました。官民の壁の問題、これが一番大きかったのですが、私はたまたま財団法人に約20年勤め、県庁に1年ほど出向した経験から行政の事情が理解できましたし、一方で、行政には民間の事情とやり方を説明して理解を求めていきましたので、比較的早い段階で官民の連携は取れるようになりました。現在、行政は我々を表に出して上手に後方支援してくれています。行政間は、八ヶ岳の場合、幸いにも近隣と生活文化が似通っているため、壁は早く取れました。既存団体である観光協会や商工会との壁については、それぞれ担うべき役割が違い、まずはやるべき事業を担っていただくことが一番大事だと考え、ワークショップ等の開催の際、知名度がない我々よりも観光協会や商工会主催にするなど連携を推進しています。

    

 
  

「住んでよし」「訪れてよし」の観光地を目指して定められた八ヶ岳観光圏のクレド

  

▼観光地域づくりプラットフォーム「八ヶ岳TM」の誕生
                  

もともと我々は二次交通のバス事業などを行っており、県からの指導もあって法人化の準備をしていました。そこにちょうど「観光圏整備法で法人格を取っては」とのお話があり、一観光地域づくりプラットフォーム=般社団法人八ヶ岳ツーリズムマネジメント(八ヶ岳TM)を立ち上げました。事業を執行管理するために、観光地域づくりマネージャー6名を配置し、それぞれ事業担当を決めて動いています。6名は、全て八ヶ岳TMの社員、もしくは理事です。この下に、八ヶ岳TM理事、宿泊部会等各種部会、またはイベント等の各種実行委員会を設置して、地域全体で実行しています。さらに、月に1度点検の意味を兼ねて、ブランド確立支援事業戦略会議を開いています。

    

 
▼何よりも重要な地域住民の合意形成と意識啓発
                  

地域づくりは、ベクトル・目標が定まらずにやり始めても、どこかで頓挫します。だから、地域住民の合意形成と意識啓発が最も重要になります。自分たちの息子や孫に住まわせ続けたい地域にすること=「住んでよし、訪れてよし」の実現です。しかし、もともとそこに住んでいる人たちは地域の良さになかなか気づきません。それを実感・認識していただくのが意識啓発です。そして、その情報を共有することで合意を形成して初めて観光地域づくりの目的が生まれ、来訪者に心からのおもてなしもできます。そのためには、やはり「連携」です。お客さまに相対する時も、事業者同士が連携して紹介し合えば、地域全体が潤います。だから、住民の合意形成と意識啓発が必要なのです。     

 
▼他地域にない特徴「1,000 mの標高差」という価値
                  

我々のブランドコンセプトは「1,000mの天空リゾート八ヶ岳~澄みきった自分にかえる場所~」。八ヶ岳エリアは、標高400mから1,400mの地域が広がっており、そこに生活圏があります。1,000mの標高差によって、桜の花も紅葉も1カ月半鑑賞することができます。
 日照時間が日本一であるため、諏訪地方から山梨の北杜市は縄文人が多く住んでいた安住の地であり、北杜市は日本のミネラルウォーターの3分の1を生産しています。美術家等の移住、ペンションや別荘も非常に多く、北杜市の長坂町は環境測定の指標にもなっている国蝶オオムラサキの生息数日本一です。これらは八ヶ岳観光圏の住みやすさの証しであり、我々が次世代につなげていきたい財産です。そうした大自然の中でお客さまにはリフレッシュ、リボーン、リセットしていただきたいと思っています。     

 
▼子どもたちから啓蒙、標高サインシートで気づく地域の価値
                  

もう1つの非常に大事な地域住民意識啓発事業が、圏域の小学校4~6年生と中学校1~2年生を対象とした『八ヶ岳おもてなしBook』の制作と配布です。約2,000人の子どもたちが家族5人に話せば1万人、6年で全体にいきわたる計算です。
 また、1,000mの立体空間こそが重要な観光資源であることを認識していただく標高サインを制作し、圏域の約3,000施設に、施設がある地域の標高を入れたサインシートを配布しました。今、1,500の施設が掲げています。地域の人同士やお客さまとの会話のきっかけづくりになり、ブランドづくりの一歩につながっていくと思っています。     

 
▼観光地域づくりマネージャー自ら講師になる経験で人を育てる
                  

観光地域づくりプラットフォームがやるべきこと、向かうべき方向について、まずは行政と観光地域づくりマネージャーが徹底的に学ばなければ、観光地域づくりプラットフォームは機能しませんし、地域づくりもできません。今年からは私を含めて他に2名の観光地域づくりマネージャーが講師となり、住民意識啓発のワークショップを開催しています。こうしたワークショップの講師を観光地域づくりマネージャーが務める機会を増やし、人材育成につなげたいと思っています。     

 
▼HPで圏域の観光情報と予約を一元管理
                  

我々は、自らのポータルサイト「八ヶ岳観光圏公式ホームページ」の中で商品の在庫管理をしています。お客さまはサイトからも予約できますし、このHPに登録している宿泊施設にはIDを渡して、宿泊施設側でも管理ができるようにしています。このサイトの運営費は行政から資金援助いただいておらず、企業の協賛金(バナーリンク)で賄っています。HPのリンクバナーも、画面の上の位置が5万円、サイドは3万円として協賛金を募り、年間約55万円の中から更新費用40万円をねん出して管理しています。観光圏全体のマップ天空博のチラシ、WEBサイトなど情報発信ツールも企画からデザインまでほぼ自分たちで作っています。     

 
▼意欲ある事業者同士の広域連携が生んだ相乗効果
                  

「八ヶ岳新そば祭り」、「寒いほどお得フェア」といったイベントも、もともと行政の補助金に頼らず、民主導の受益者負担で開催してきました。「八ヶ岳新そば祭り」は、以前は清里エリアの5店のみ、「寒いほどお得フェア」は50店で行っていました。八ヶ岳観光圏として広域連携事業で実施すると、「八ヶ岳新そば祭り」は参加35店舗に、「寒いほどお得フェア」は100店舗に増えました。広域になることで、メディアもかなり注目してくれるようになりました。やる気のある元気な事業者が自ら出費してお客さまを呼ぼうと努力をしますから、お客さまの満足度も高く事業効果は上がっています。     

 
▼地域鉄道と地域バス事業者と連携して二次交通の検討も
                  

最後に、二次交通について。この課題は、地域側だけでいくら議論しても先に進まないため、八ヶ岳TMがコーディネートする形で、鉄道会社、バス事業者、行政、県、市町村で構成する二次交通の分科会をつくりました。いま、鉄道会社のICカード利用を二次交通のバスにも導入するか検討しています。また、来年は、東京のインバウンドのお客さまを地方に動かすために東京駅から直行バスを走らせ、そこから二次交通につなげようと山梨交通さんと最終の議論をしています。
何よりもまずは、地域の皆さんの合意形成と意識啓発に特化してやっていく。それが日本の顔となる八ヶ岳ブランドづくりの一番の早道と考えて日々邁進しているところです。
    

 
     

(左)熱心に聞き入る聴講者                   (右)講師の小林氏
  

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