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 シンポジウム講演録

2017.10.25

ツーリズムEXPOジャパン 国内観光シンポジウム


日時:平成29年9月22日(金)10:00~12:00
会場:東京ビッグサイト 会議棟6階 会議室605・606

テーマ:
DMOは地域の観光を変えるか?
~世界から人が集まるための地域マネジメントとマーケティングを考える~

基調講演(30分)
「美術による地域づくり」
北川フラム氏(株式会社アートフロントギャラリー代表取締役会長、瀬戸内国際芸術祭等総合ディレクター)

 北川フラム氏から、新潟県越後妻有で開催されている『大地の芸術祭』を中心に、美術による地域づくりに関して基調講演を頂いた。
 『大地の芸術祭』は、世界有数の豪雪地、1500年にわたる里山文化の伝承地であり、過疎高齢化の進行地である越後妻有地域を対象に、3年に1度開催される世界最大級の国際芸術祭であり、市町村合併後の2000年から継続的に開催されている。
 アメリカの女性アーティストが、ここがどういう土地か、土地を支えているのはどういう人かという点に着目して、この地域を表現するのに一番適した手法として真夏に現地の河川敷で開催した13台の除雪作業車によるダンスの映像などを例に、美術とは、この土地がどういうところか、この土地で採れるものは何かなどを深く知り、それを表現していくことであり、自然あるいは文明と人間の関係を明らかにする技術であるとの解説があった。
 「第6回(2015年)の芸術祭では、50日間に50万人が参加した。特に、都市部からの自分が関われる田舎を探し始めた人がよく集まる傾向にある。また、アートは、情報ではなく人々が体験することが出来るし、実際に経済効果が出ている。
 では、何故、アートが観光になるのか。それは、アートをきっかけに広域を人が歩くからである。大地の芸術祭を開催するときに一番参考にしたのは、四国88箇所の霊場巡り(通称お遍路さん)である。何故、普段車に乗っている人が歩くのか。それは、汗をかくから、人と会えるから、料理を食べられるからである。ネットのバーチャルではなく、人と人との関わりを持てる旅に出ようという大きなうねりがあるから、今の動きに繋がっている。
 越後妻有では、40を超える空き屋、10を超える廃校など、あるものを活かして、活動をしている。この中で、共同作業が生まれている。現代美術のアーティストがやりたいのは、新しいものを作ることではない。その土地に残っている生活美術がやりたいことである。
 また、「海の復権」をテーマに進めている瀬戸内国際芸術祭では100日間で100万人が集まる。瀬戸内の例でも、不便な島に渡ることによって、旅になる。瀬戸内国際芸術祭の来訪者は、20代及び30代の女性が5割を占め、また、全体の35%が外国人となっている。なお、4割がリピーターとなっているとともに、香川・岡山からの日帰り来訪者も含めた平均宿泊数は2泊を超えた。
 最近では、音楽プロデューサーの小林武史氏も犬島(岡山県)でイベントを開催した。最近は、音楽や芝居に携わる方が、田舎でイベントを開催し始めている。田舎でも本当に見たい人は来てくれるし、地元の方が直接応援してくれるという喜びがあるからだと思う。
 都市には、興奮と刺激と大量の消費はあるが、五感がだんだん鈍くなっている。田舎が人を迎えてくれると、人間は、自分が望まれているところに動こうとする本能があり、それが今の観光に現れてきている。観光で、旅行者だけでなく、地域の人の幸せになるという感幸が生まれてきていると思う。」


■パネルディスカッション
モデレーター
山田雄一 氏(公益財団法人 日本交通公社 観光政策研究部 次長)
パネリスト
大西雅之 氏(NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構 理事長)
多田稔子 氏(一般社団法人 田辺市熊野ツーリズムビューロー 会長)
浅井忠美 氏(株式会社日本政策投資銀行 地域企画部長)
サラ・マシュー氏(トリップアドバイザー株式会社 アジア太平洋地域 デスティネーション・マーケティング・セールスチーム統括部長)

(山田氏)
 「シンポジウムのテーマである「世界から人が集まる」という観点では、基調講演であったように地域が有する様々の特徴的なコンテンツを伝えていくことが重要。
 また、世界的に観光客が増えていく中で、世界中が我が国に来てもらおうと競争している状況。また、FIT化の進展、IT化の進展の中で、地域の魅力をどう伝えていくか、それをどう評価してもらうかが非常に重要。まずは、今のこの状況に応じて、どのような取組が必要かについて、御意見を頂きたい。」

(サラ氏)
 「まずは、自らを見つめ直すことが重要。自らの地域の特徴、組織の状況、世界的な環境変化をしっかり定義づけるともに、特にターゲット設定に関しては絞り込むことが重要。全ての観光客に我が街に来てもらいたいという考えは捨てて取り組むことが必要。
 また、DMOの役割も再定義する必要がある。地域資源の掘り起こしなのか、関係者調整なのか、DMO自身の役割も検討をすることが必要。
 その上で、目的、最終目標、目標を達成するための手段を定めていくべきである。」

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(浅井氏)
 「ターゲットの特徴をよく捉えていくことが重要。弊行の共同調査でも、アジアと欧米豪では、日本旅行において求める内容に差異(アジア:自然・風景、日本食、温泉、欧米豪:文化・歴史、ライフスタイル等)があるとともに、欧米豪の視点はアジアのリピーターにも通じるという結果も得られている。ターゲットを細かく設定した上で、取組を進めていくことが必要。
 また、古民家や地域文化などのあるものを活かすこと、ビジョンを言語化して情報発信行うこと、官民・事業者間の地域内連携を進めていくことが大事である。」
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(山田氏)
 「続いては、実際に地域をまとめ、地域で活動されている多田様と大西様に、マーケティングや地域における受入環境の改善など、特に外国人に関して、具体的にどのような取組をされているのかをお話し頂きたい。」

(多田氏)
 「田辺市熊野ツーリズムビューローは、市町村合併を契機に、統一的にプロモーションをする団体として設立した。DMOの成功事例と言われるが、課題を克服しながら取り組んできた結果であり、ボトムアップ型の団体である。その中で、まずは、基本スタンスを設定し、欧米豪のFITをターゲットに定め、そのために、英語を母国語に持つカナダ人の国際観光推進員をスタッフに招き入れた。その彼の目を通して、地域の魅力のハード(多言語表記等)とソフト(表記の統一、ワークショップの開催による人材育成等)の両面のレベルアップに取り組んだ。そして、現地のレベルアップを図りつつ、情報発信にも積極的に取り組んできた。」
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(大西氏)
 「阿寒湖温泉は、航空法の改正(2000年)以前は、交通の要衝として非常に恵まれた地域で、97万人の宿泊客がいた。しかし、その後、急激に宿泊者が減少し、その危機感から阿寒観光協会まちづくり推進機構を設立した。自分たちの街は自分たちで経営するんだという発想で、今で言うDMO的な気概を持って取り組んできた。
 現在は、さらなるインバウンドの拡大(12万人→25万人)に向けて、世界にアピールする4つの中核プロジェクトを推進しているところ。これにより、アドベンチャーツーリズムによる阿寒湖温泉の世界ブランド化を進めていきたい。」
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(山田氏)
「阿寒では意思疎通がしっかり取れている印象を受ける。釧路市は相当範囲が広いが、その中で同じ方向性を向いて、行政と取り組んでいけている要因は何か?また、入湯税の嵩上げ等による資金の調達・構成については、どのように取り組んでいるのか?」

(大西氏)
 「釧路市は、人口が、18万人から6万人と、人口が1/3に減少する予測が出ている。この危機意識が大きい。また、観光立国ショーケースに認定された影響も非常に大きく、市全体のコンセンサスも取れ、議会もスムースになった。
 一番の悩みは財源が弱いこと。財源づくりは2002年にまちづくりの取組をスタートさせた時から議論してきた。なかなか全員一致にならなったが、最後には、「今の世代はこのままでいいが、次の世代はこのままで世界の観光と戦っていけるのか」という議論をした際に、結論をみた。現在は、5000万を入湯税の上乗せで確保しており、玄関口のフォレストガーデンの整備や巡回バスの運行に活用している。」

(山田氏)
 「田辺市熊野ツーリズムビューローは、観光地域づくりを着実にひとつひとつ組み立てながら取り組まれているが、継続的な取組には組織体が必要不可欠。このような組織体をどのように作ってこられたのか。」

(多田氏)
 「プロモーションが奏効し、熊野の知名度が向上するとともに、『どのように熊野を旅すればいいのか』という声が増えた。そこでようやく、運ぶ仕組みがないのに、無責任なプロモーションをしてきたということに気がついた。そこで、世界のFITのお客様を迎え入れるために着地型の旅行会社を設立するに至った。町の旅行会社に協力を求めたが、ビジネスになりにくいため、自らやることにした。外国からのFITのお客様には、①言葉と②決済の二つの壁があるが、これを取り除くことに注力した。昨年度の売り上げは3億円を超え、地域にとっては新しい経済効果となっている。このように、目の前に現れる課題を解決することにより、現在の組織が徐々に作られてきた。はじめからきちんと計画的に作られたのではなく、成り行きにまかせながらボトムアップで確立してきたといえる。」
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(山田氏)
 「続いて、このように地域を上手に回していくにあたって、気をつけることなどがあれば、教えて頂きたい。」

(浅井氏)
 「回すための収益の仕組みについては、旅行業、イベント業もあるが、現在は独自の収益源は物販業が多い。地域商社的な機能が必要であり、これには高度な経営能力が必要だし、行政の協力無しに独自財源として進めるのは難しいところ。入湯税の上乗せなどの手法で地域手数料を得る取組も一部では進められているが、極めて稀有である。現状、ほとんどの収益源は業務受託(指定管理等)や公的助成、会費などである。DMOの活動は地域をどのように元気にしていくか、官民連携で一緒に儲かることをしていこうということなので、その点から、バランスに留意することが必要だが、一定の公的サポートは絶対に必要だと考えている。
 また、ファイナンスに関しては、一般の銀行としては担保が欲しいが、古民家の例などでは所有者が異なる場合がある。この場合、担保が取れないことから、リスクが取れる機関と連携することで、取組が進捗することもある。行政と金融機関、事業者が連携して取り組むことが大事。」
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(山田氏)
 「最後に、グローバルな視点から、日本の観光振興、DMOの取組へのアドバイスを頂きたい。」

(サラ氏)
 「まず重要なのは、自分たちの状況をしっかり把握し、特定すること。オーストラリアでは、国、地域、地元の各レベルの観光局がそれぞれKPIを設定している。手数料等による収益確保に関しても、それぞれのレベル・役割に応じてKPIを設定して取り組んでいる。
また、地域のブランド化が重要。イタリアのトスカーナ、オーストラリアのクイーンズランドなどはブランド化に成功した地域である。
さらに、観光客のターゲット化が非常に重要。国別や属性別に拘らず、旅行者の目的、意図に着目したターゲット設定が大事である。」
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(山田氏)
 「DMOの活動費をどのように安定的に確保していくのかは、そのDMOの戦略、活動内容を決めることにも繋がってくる問題だと思う。
 また、マーケティングに関しては、しっかりやろうとすると非常に奥深く、新たな資金や人材の確保が必要になるが、そうすることで、DMOの活動自体が深化していくと思う。
 日本のDMOの活動はまだ始まったばかり。連携を取りながら進めていくことを期待したい。」

■パネリスト スライド資料全文

大西雅之 氏(NPO法人阿寒観光協会まちづくり推進機構 理事長)
多田稔子 氏(一般社団法人 田辺市熊野ツーリズムビューロー 会長)
浅井忠美 氏(株式会社日本政策投資銀行 地域企画部長)
サラ・マシュー氏(トリップアドバイザー株式会社 アジア太平洋地域 デスティネーション・マーケティング・セールスチーム統括部長)