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シンポジウム講演録

2016.02.15

東北観光地域づくりシンポジウム「地方創生と日本版DMOの展望」を開催


 平成28年2月15日(月)13時30分より、宮城県仙台市のTKPガーデンシティ仙台において、東北地域を対象とした観光地域づくりシンポジウム「地方創生と日本版DMOの展望」を開催いたしました。
 新たな観光推進体制の概念であり、平成27年11月から登録制度がスタートした日本版DMOに対する行政や観光協会、観光事業者などの関心は非常に高く、 定員192名の会場は満員となりました。
 最初にDMO推進機構代表理事の大社充氏による基調講演「日本版DMOについて」、続いてパネルディスカッション「日本版DMOの地域導入に向けて」が行われました。
 パネリストは東北の広域観光周遊ルート整備を進める東北観光振興機構専務理事・推進本部長の紺野純一氏、地域住民を巻き込んだ観光まちづくりに取り組む青森県弘前市観光振興部長の櫻田宏氏、 これまでの観光地域づくりの活動をベースに日本版DMOの設立を目指す宮城県気仙沼市の森成人氏の3名が登壇しました。コーディネーターは大社氏が務め、コメンテーターとして、公益社団法人 日本観光振興協会理事長の見並陽一が参加しました。  


▼開会挨拶 松木茂(公益社団法人日本観光振興協会東北支部長)

 今日、メディアで観光立国に関するニュースを見聞きしない日がないほど、産業界や地域で観光振興に対する期待が高まっている。 訪日外国人は昨年、前年比147%の1974万人と驚異的な伸びを見せ、消費額も前年比72%増の3.5兆円と急速に拡大している。
 一方、東北に目を転じると震災前と比較して31%減と訪日外国人が唯一減少した地域となり、残念だが「一人負け」の状況にある。 国内外の観光客を受け入れるには地域の特性を生かし質の高い観光地域を作ることが必要だが、特に東北では遅れを挽回し、取り組みを 加速する必要があると考えている。
 その推進母体として、観光地域づくりを戦略的に推進するDMO(Destination Management/Marketing Organization)がクローズアップされている。 一部地域では先進的な取り組みが行われているが、大半がこれから理解を深め、実践していく段階にある。本シンポジウムが東北地域における観光地域づくりのヒントになれば幸いだ。

 
▼来賓挨拶  七尾英弘氏(東北運輸局次長)

 昨年の訪日外国人旅行者数は一昨年の1341万を大幅に上回り、2000万人という目標達成が十分視野に入ってきた。政府は昨年11月、 「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」を官邸に設け、新たな目標設定の検討を行っている。
 一方、東北は頑張らなければいけない状況だが、前向きに捉えれば伸びしろが大きいと言える。観光庁の平成28年度当初予算で東北地方のインバウンド 推進による観光復興事業に32億6500万円、JNTO日本政府観光局も10億円を計上している。これらを追い風に東北地方の風評被害を払拭し、観光を通じて 東北の復興を加速させていきたい。
 今年の東北は北海道新幹線の新青森~新函館北斗間の開通をはじめ、国内外に東北をアピールする絶好の機会が続く。5月には「G7仙台外務大臣・中央銀行総裁会議」 が開催され、夏には仙台空港民営化も控えている。こうした好機を逃すことなく、地域の稼ぐ力を引き出し、地域への誇りと愛着を醸成する日本版DMOを形成確立していきたい。

 
▼来賓挨拶 吉田祐幸氏(宮城県経済商工観光部長)

 宮城県における平成26年の観光客見込数は5742万4000人で、震災前の平成22年の約94%まで回復した。しかし外国人観光客の延べ宿泊者数は10万3000人と 震災前の64%にとどまり、東北全体でも震災前の70%にあたる35万4000人と厳しい状況が続いている。
 そうした中、本日のテーマであるDMOは、観光業者だけではなく関連産業や住民を広く巻き込んだ取り組みとなり、民間の活力による観光地域づくりを 推進するために大変有効な手段である。
 宮城県では気仙沼市を中心とした三陸沿岸地域の日本版DMO構築事業が地方創生交付金の対象となっており、機能強化に向けた取り組みがスタートしている。 また、県内5つの観光関係団体が旅行業の登録を受け、地域資源を活かした商品の企画販売を行うなど、地域を巻き込んだ着地型観光に取り組む機運も高まっている。
 本日のシンポジウムを契機に東北各地域で日本版DMOの導入が進むことを期待し、県としても市町村や関係団体との連携を密にしながら取り組んでいきたい。

 

  ■主 催 公益社団法人日本観光振興協会
  ■後 援 東北運輸局/宮城県/DMO推進機構
  ■協 賛 東北観光推進機構
  ■日 時 平成28年2月15日(月) 13:30~17:00
  ■場 所 TKPガーデンシティ仙台 宮城県仙台市青葉区中央1-3-1 AER(アエル)
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次 第

                                  (敬称略)

  13:30 開会
      開会挨拶  松木  茂(公益社団法人日本観光振興協会東北支部長)
      来賓挨拶  七尾 英弘(東北運輸局次長)
            吉田 祐幸(宮城県経済商工観光部長)

  13:45 基調講演「日本版DMOについて」
      講師:大社 充(DMO推進機構代表理事/事業構想大学院大学客員教授)

  14:45 休憩

  15:00 パネルディスカッション「日本版DMOの地域導入に向けて」
     (パネリスト)
       紺野 純一(東北観光振興機構 専務理事 推進本部長)
       櫻田  宏(青森県弘前市観光振興部長)
       森  成人(宮城県気仙沼市役所)
     (コーディネーター)
       大社 充(DMO推進機構代表理事/事業構想大学院大学客員教授)

        質疑応答

  16:50 閉会挨拶
        中村 浩之(公益社団法人日本観光振興協会常務理事)


▼基調講演「日本版DMOについて」大社 充氏(DMO推進機構代表理事/事業構想大学院大学客員教授)

観光は地域の「分断」から「統合」へ

 地域ではこれまで観光客と地域住民のトラブルやあつれきを避けるため、長年にわたり、観光客用の場所と地域住民の暮らしを分ける 「分断」の手法で観光客を受け入れてきた。
 象徴的なのが、地元の人はまず行かない団体観光客専用のレストランだ。しかし、近年は地域の人が行く店に行きたいという観光客が増え、 分断の壁を越えて観光客が地域に入ってきている。
 地域の魅力や価値が高まることで来訪者やリピーターが増え、ビジネスにも好影響を及ぼすことから、従来から観光客を受け入れてきた宿屋、 土産物屋、飲食店、二次交通、観光関連事業者の5業者が、積極的にまちづくりを行う動きが約10年前から活発化している。
 同時期から、商工会や商工会議所が観光について言及するようになったが、その最大要因は人口減少である。日本の年間平均個人消費額は約120万円だが、 100人減れば1億円以上の地域内消費が失われる。そうした中、地域を継続する手段として観光が注目されている。
 一方、一次産業の事業者も近年、都会の子どもたちに農業や漁業体験を提供するなど、分断されていた地域が統合され、来訪者に対して地域社会を開くように なってきている。従来の観光関連5業種とそれ以外の人達が一緒になって来訪者の受け入れを行い、観光とまちづくりを一体化した動きが全国各地で増えているのが、 近年見られる傾向と言える。


DMOは「着地型観光」の会社ではない
 こうした状況から地域には従来の観光業者と他の産業、市民、地域づくりが連携したプラットフォームが必要になる。 その役割を担うのがDMOだが、DMOを着地型観光を取りまとめたツアーセンターと誤解している人も多い。それは違うと今日、 この場で強く訂正しておきたい。
 もともと日本になかった「地域をマーケティングする」という概念を取り入れようというのが、DMOの重要なポイントだ。 そのためには責任の所在を明らかにし、観光地を経営する視点が必要になるが、誰がどのように行うかが問題となる。
 そこで、欧米の先進諸国で初めて登場したのがDMOという3文字だった。その海外の知見を収集し、わが国の現状も再び総括をし、 日本型DMOの形成を支援していこうと地方創生本部で議論がまとまった。

観光による経済効果の現状把握を
 「地域内調達率」という言葉が観光庁のホームページに載っている。1万人の観光客が平均5000円を使い、土産物がそのうち2000円とすると、 2000万円が土産物購入による総消費金額となる。土産物の原材料費が65%の場合、1300万円が原材料に当たる経済効果となる。
 原材料の地域内調達率が9割だと1000万円以上が地元に落ちるが、1割の場合は1000万円以上のお金が地域外に流出し、観光客が増えても地域が 恩恵を受けないケースもあり得る。このように地域内の経済循環や雇用効果をちゃんと把握したうえでKPIを設定し、暮らしやすく魅力的な町をつくっていく必要がある。
 しかし、観光と地域経済の現状把握は極めて薄い。例えば1人1日当たりの消費額を把握している地域は極めて少ないのが今のわが国の実態だ。 どんな人が何人ぐらい来て、どこでどれぐらいお金を使っているのかなど、観光による経済波及効果や雇用者数、税収などを明確にする必要がある。

外部依存から自発的な観光地経営へ
 最終的に地域で行ってほしいのは必要なデータの収集分析をし、それに基づいて戦略を立案し、KPI(注1)を設定して実行する「機能」だ。 これまで不足していた調査分析の手法を導入し、PDCAサイクル(注2)を回していくことである。
 そこで不可欠なのが金融機関の支援である。受け入れ体制の整備と地域産品の商品開発を金融機関支援の下に行いつつ、DMOと地域商社を地域に 根づかせていくことが必要であり、それは地域が外部依存型から自立型の観光集客に転換することを意味する。
 そうした自立的な地域に対し、積極的に公的な資金を投入しようというのが地域創生の考え方である。ここが一番重要な点で「補助金や交付金がもらえるからDMOを作ろう」 というのは順番が違う。ぜひ正確に理解いただき、自立的な仕組みづくりに各地域で取り組んでいただきたい。

(注1) KPI :Key Performance Indicatorsの略。「主要業績評価指標」。目標達成に向けて業務プロセスが適切に実行されているか、 判断するための主要指標。観光地域づくりの分野では、延べ宿泊者数、旅行消費額、来訪者満足度、リビーター率などが重要指標とされる
(注2) PDCAサイクル:事業活動における生産管理や品質管理などの管理業務を円滑に進める手法の一つ。計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Act) という4段階の活動を繰り返し行うことで、継続的にプロセスを改善していく手法

ナパバレーの例~自主財源の確保
 カリフォルニア州ナパ郡では1990年にビジット・ナパバレーというDMOができたが、ほとんど観光客が増えなかった。
 だが2010年にTID(Tourism Improvement District)を州法に基づいて導入し、大きく変化した。これは宿泊税にプラス2%を上乗せし、 その分をDMOの財源にするという制度で、5000万円もなかった自主財源が4億円近くになった。それによって、専門家を配備しマーケティングに取り組み、 6~7年の短期間で観光客は2桁成長を遂げ、消費金額も増えた。
 日本の観光協会の正規職員の平均年収は200~300万円未満が最多だが、ナパバレーのDMOのマーケティングディレクタークラスの平均年収は約2000万円と 推定される。給料も高い代わり結果責任も問われ、だからこそ専門家が要る。まさにDMOは、そういう仕組みになっている。

ハワイの例~多岐に渡る責任範囲
 ハワイのDMOであるハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)は1998年に設立された。アジア諸国のビーチリゾートの競争力に危機感を覚えたことがきっかけだ。 DMO設立とともにホテル税を引き上げ、約80億円がHTAのデスティネーション・マーケティング予算として配分されている。
 HTAでは極めてシビアにKPIを設定しPDCAを回す機能ができており、観光客数の増加より、1日1人あたりの消費額を重視している。イベントも費用対効果をよく考えており、 PGAのゴルフツアーはゴルフに来る人たちの客単価が極めて高く、テレビでハワイの景観がずっと映るので、プロモーション上極めて効果的と分析している。
 観光客に不測の事態があればヘリコプターも飛ばす安全管理態勢、空港の入国管理官の接客応対に関するトレーニングなど、マネジメントの範囲は多岐に渡る。 このように顧客満足のため、マネジメントとマーケティングをきっちり担うのがDMOという機関である。

 
▼パネルディスカッション「日本版DMOの地域導入に向けて」
 
連携には明確な役割分担が不可欠
大社:最初に、3名のパネリストからそれぞれの取り組みについてプレゼンテーションをお願いしたい。
紺野:東日本大震災以降、JR東日本が東北各県で開催したデスティネーションキャンペーンによって観光素材がかなり磨き上げられた。
 官民組織である東北観光推進機構としては昨年、観光庁の広域観光周遊ルートに認定された「日本の奥の院・東北探訪ルート」を海外プロモーション および観光素材の集約につなげる事業を始めた。11月から市場調査を始め、外国人約60人を対象とした東北探訪ルート上の16地点のモニター事業を行っている。

<パネリスト>紺野 純一氏
(東北観光振興機構
専務理事 推進本部長)
 県庁所在地に新幹線が走っているのは東北だけであり、3月26日には北海道まで乗り入れ、仙台空港の民営化も控えている。これらをハブとして広域ルートを 中心に、東北全体で観光素材を育成する取り組みを連携して進めたい。
櫻田:弘前市では2010年に東北新幹線の新青森駅が開業した際、市と観光コンベンション協会、商工会議所がそれぞれ協議会を立ち上げたが、3者とも活動内容が 同じという結果になった。
 そこで3者の役割分担を行い、津軽地域一丸となった取り組み体制として2012年、新たに立ち上げたのが「弘前感交劇場推進委員会」だ。 「体験、学習、交流」をキーワードとして観光素材の発掘と磨き上げを行うこととなった。

<パネリスト>櫻田 宏氏
(青森県弘前市観光振興部長)
 弘前感交劇場では実務者会議として「やわらかネット」というハブ組織を作っている。テーマによって構成メンバーがアメーバのように自由に形を変え、時には 増殖していく形だ。その中から、まち歩きを中心としたさまざまなコンテンツが生まれた。2013年からは弘前大学との地域連携も始まり、「やわラボ」と称した自由に意見交換する場を設けている。
 連携に重要なのは情報を共有して役割分担を行い、各役割をしっかり果たすことで、それが利益追求できる自立した組織づくりにつながると感じている。
森:気仙沼市で観光をやると宣言したのが震災の年の秋で、震災復興計画の重点事業に観光業を加えたのが始まりだ。翌年に発足した「気仙沼市観光戦略会議」で 市民も一緒に戦略作りを行い、その戦略を具現化していく中核的組織として、2013年7月に「社団法人リアス観光創造プラットフォーム(リアスPF)」ができた。 今まで観光と直接関わりのなかった方々も積極的に巻き込むようになったのが、震災後の気仙沼の特徴だと思う。

<パネリスト>森 成人氏
(宮城県気仙沼市役所)
 その象徴がリーダーは漁具屋でサブリーダーは氷屋という「観光チーム気仙沼」。観光事業者だけでなく水産加工業者や漁師、移住者が集まり、ゼロベースから 港町の産業や暮らしに触れる観光コンテンツ作りを約3年やっている。このほか、20~30代を中心とした地元住民にまち歩きのアイデアを出してもらい地元の魅力を 再発見する取り組みも行っている。
 そのうちに課題も出てきた。リアスPFも観光協会も観光課も商工会議所も同じような観光の情報発信をしており、一方で戦略設計を担うところがないといった「ダブり」と 「漏れ」が生じる点だ。そこで役割分担、マーケティング、新しい商品開発、目標設定の4点を目的に今、DMO構築を進めている。
 DMOの役割を担うのはリアスPFになり、マーケティングや経営企画など新たな機能が付加される。気仙沼を1つの会社に見立て、行政、観光協会、商工会議所、リアスPFの4者の 役割分担を明確にし、4者に市長や商工会議所の会頭などを加えた「気仙沼ボード会」も設置する予定だ。
 
誘客だけでなく地域を元気にする役割も

大社:3名のプレゼンテーションを聞かれて、コメントをいただきたい。

見並:ドイツ南東部のアルゴイ地方の観光プロモーション組織は、最初はアルゴイ・チーズ街道という観光広域ルートの集まりだった。 チーズを作っている酪農家21軒が中心になってスタートして11年かけて、DMO的組織になった。
 このアルゴイ・チーズ街道では、地域に住む人たちが誘客を通じて持続的に元気でいることを重視している。これはDMOがどうあるべ きかを考える重要な視点だと思う。

<コメンテーター>見並 陽一
(公益社団法人日本観光振興協会理事長)
 弘前城の桜は、外国人からも非常に人気が高い絶景の一つに数えられる。理由は散った桜が城の堀を埋め尽くす眺めだ。これは自然に できたものではなく、市長権限でお堀を河川指定することで水の流れを制御しているという。ただ単に誘客する組織ではなく、こういうことをできるのがDMOだと思う。
 今までは既にある観光資源のプロモーションに終わり、いろいろな機能を組み合わせることをしてこなかった。組み合わせると、役割にダブりや抜けも出てくる。 その調整にDMO的機能が必要と言える。そういう意味ではお三方の発表は大変参考になったのではないかと思う。
 
東北地域におけるDMOの可能性
大社:東北の広域観光周遊ルートについても、やはりDMOを作るという話になっているのか。
紺野:そういう視点で考えている。例えば東北観光推進機構と各県が同じようなプロモーションをしていたり、これまでは相当無理や無駄があったと思う。 東北の観光素材を海外に打ち出そうとする場合、よりきめ細かに対応するDMOの視点が必要だと感じる。
 東北には松島や蔵王など有名な観光素材が数多くあるが、従来の観光素材だけでは海外のお客様に満足いただくのは難しい。

<コーディネーター>大社 充氏
(DMO推進機構代表理事/
事業構想大学院大学客員教授)

蔵王キツネ村や田代島の猫などはSNSで発信されマーケットに対する訴求力が非常に強い。
 我々がメルヘン街道を旅行する時、必ずしも全域を回るわけではなく、近くの魅力ある素材と組み合わせることも多い。このように自分の地域も旅行者の目線で 見ていく必要がある。広域周遊観光ルートは一つの大きな柱になり、各地で磨いた観光素材に誘導するといった取り組みにつながるのではないかと思う。

 
DMOに必要なマーケティングデータ~ナパバレーの事例

大社:気仙沼ではDMO構築が進んでいるが、今の疑問や悩みは。
森:マーケティングにはどういうデータが必要なのか、今一番悩んでいる。
大社:ナパバレーで行っているビジター調査では来訪理由、過去1年間で何回来たかというリピート率、交通手段などを来訪者に聞いている。
 あとはナパバレーの中でどの町を訪れたか。どんなアクティビティを体験したか、1日にいくら支出予定かなども聞いている。そうすると、 ワインとレストラン支出の方が宿泊より大きいことが見えてきたりする。
 重要なのがナパバレーの観光業におけるエコノミックインパクトのデータだ。総来訪者数と1日平均の観光客数、観光客の総支出額とその内訳、 観光業における雇用者数と給与総額、観光業がナパ郡に収める税金などをすべて出している。今までこういうデータは、日本の観光地ではあまり出していなかった。
見並:マーケティングデータは経済的利益を生むだけでなく、地域の合意形成の手段としても有効だ。例えば「観光客が来てもゴミが増えるだけ」という住民に、 「この人たちは町の喫茶店でコーヒーを飲んでくれるから喫茶店も商売を続けられるし、あなたも毎日おいしいコーヒーを飲める」といったことが言える。
森:どういうデータを取っているのか、参考になった。とにかく、今観光まちづくりに参画している民間事業者にまず稼いでいただかないと続かない。 そうした人達が稼ぐのに役立つデータをとってPDCAを回し、ベンチマークがいくつかできれば、追随する事業者が出てくるのではと思う。

 
集めたデータをいかに活用するか~遠野の事例

大社:もう一つ、遠野の事例を紹介したい。商工会の予算で観光マーケティングの導入研修を1年間行い、宿泊施設や行政、観光協会、 施設など約20人でマーケティング委員会を作った。その中の2人に統計学の本を1冊読んでもらい社会調査も少し勉強してもらって、 アンケートとインターネット調査を行った。直接予算でも50万円かかっていない。
 調査の結果、遠野は東京など首都圏へのPRを多く行っているが、宿泊・日帰りともに圧倒的に岩手、宮城からが多く、仙台市内の20代が多かった。 ここから20~30代のニーズや満足度を深掘り調査してリピート率を上げることが戦略的に必要という議論になる。
 満足度調査で1位となったのは景観で、マーケティング委員会は地域の満足度を担保しているのは農家の方たちであると理解した。 農地が失われることは遠野で最大の満足度を失うことになり、観光振興と農業は極めて深くつながっていると言える。
 マーケティング委員会は当初、東京を対象にインターネット調査を希望していたが、これらの結果を受けて仙台に変更した。その結果、 仙台市民の4人に1人は遠野を知らず、来訪意向が高い素材がジンギスカンや郷土料理などの食であることも明らかになった。ここから、 仙台マーケットに対しては食をメインとしたプロモーションが必要ということがわかった。
櫻田:弘前ではまだこうしたデータはとっていないが、非常に分かりやすく、進むべき方向性が見えた気がする。
大社:こういうマーケティング調査はそんなにお金がかからず、マニュアルも日観振で作っている。
見波:当協会で「魅力ある観光地づくり」という事業を2カ年やっている。関西や九州からの応募は多いが、残念ながら東北の各市町村からは 少ないので、こうした機会も積極的に活用いただきたい。

 
DMOに必要な人材育成

大社:会場からは人材育成に関する質問が非常に多い。日本観光振興協会が行っている人材育成支援の紹介をいただければ。
見並:来年度からは当協会にDMO推進室という組織を作り、DMO形成に関わる人材育成事業や全国でDMO構築に取り組む方々をつなぎ、 情報を提供するワンストップサービスなどを行う。今回のようなシンポジウムも地域で開催し、皆さんと一緒に課題解決に取り組んできたい。
 先ほどお話しした「魅力ある観光地づくり」事業に参加した地域の一つに下呂温泉がある。モデルケースの取り組みとして資料をまとめているので、 できる限り多くの方にご参考いただきたい。
大社:会場からは、人材育成に地域の大学はどう関わるかという質問もあった。弘前市では地元の大学生が活動しているという話があったが。
櫻田:弘前大学と連携して始めた「やわラボ」は最初、参加学生が少なかったが今はどんどん増えている。観光に関わる仕事を希望する学生も出てきており、 5年10年先に人が育っていくのではと感じる。
 現時点では大学生からアイデアを出してもらう形だが、それらを彼らが実現化し、市などがお金を出せる仕組みに変えていこうと考えている。私たちが 今まで職業と考えていたのとは違う部分でお金を得る仕組みができていくのではないかと思う。
大社:大学生を活動に巻き込むことも大事だが、研究機関としての大学がいかに地域づくりに関わるかも大事なポイント。 人材育成について東京のコンサルタントではなく地元の大学に発注できる態勢なども必要だと思う。
大社:気仙沼も弘前も緩やかな協議会方式だが、DMOに移行する場合はマーケティングのプロも必要になる。この点について、紺野さんはどう考えるか。
紺野:これまで観光に関する数値は、ほぼ入れ込み人数と宿泊人数という2つの切り口しかなく、勘と経験則に頼っていた部分が大きい。マーケティング データを重視するDMOの視点は東北の観光にとって特に重要と認識している。

 
DMOへの税金投入は「投資」である

大社:例えば北海道で観光は農業系の生産高に近い売上額があるが、道庁の観光系予算は農業系に比べて非常に少ない。 それは従来から観光が産業として認められず、投資を回収できることが明らかになっていなかったからだ。
 きちんと自分で稼ぎつつ、投入された税金をちゃんと回収していく組織を作っていくことが重要だが、その辺はハードルが高い。
櫻田さんは行政職員としてどう考えるか。
櫻田:弘前市では地域の民間企業から協賛金をいただいて、イベントや祭りを行っている。さらに宿泊関係者から2%分を税金として多く納めてください とは言いづらいのが本音だ。
大社:地域の事業者は観光客が来たら稼げる。稼ぐと税収が上がり、市町村は新たに観光分野やDMOに投資し、さらに観光客が増えるという旧来型の 資金循環サイクルにプラスアルファとして考えられるのが、宿泊税や入湯税などの法定外目的税の活用だ。税収が直接的にDMOに回る経済循環を作ることも、 今後検討が必要では。
見並:まずマーケティングデータを取ることから始め、観光産業は地域に大きな影響を与えるという理解を広めていくことだと思う。観光協会もきちんと 事業結果を出す組織への転換が求められ、DMOというのは既存の観光協会の機能強化だと私は思う。
紺野:昨年6月、JR東日本の清野会長が当機構の会長に就任後、本格的に東北を面で捉える取り組みが始まった。これまでの東北は局地戦を展開しがちで、 全体的なブランド構築が弱い面がある。今後は連携をキーワードにしながら、どれだけベクトルを一つにできるかが、大きな課題だと思う。
大社:ぜひ広域連携を考える地域にやっていただきたいことが機能分析表の作成だ。関連する自治体や観光協会の部局の職務内容や職員数や予算、 KPIを全部書き出し、機能を「見える化」する。
 それをもとに重複する機能について議論することで、共通課題の解決につながる。損得感情が出てくるので第三者の外部機関に発注した方がいい。 それを元に、自分たちで方向性を議論して決めるといいと思う。
 DMOの先進地であるナパバレーもハワイも「15年前は今の日本とあまり変わらなかった」と言っており、我々も今後15年頑張れば追いつく距離にあると言える。 世界に負けない観光地域づくり、地域の方々がハッピーに暮らせる地域社会を作る支援体制を作っていきたい。

 
▼閉会の挨拶

日本観光振興協会常務理事 中村 浩之

 各地域が主体的に、地域を構成するさまざまな立場の方々と目的を共有し、連携して地域活性化に取り組むことが地方創生だと思う。 データによる「見える化」とデータに基づいた評価分析による目標設定、地域のコンテンツの掘り起こしや磨き上げによるブランディング、 取り組みを評価しPDCAを回していくことがDMOの主な機能である。地域の観光協会や観光連盟が中心となってこの機能を担うことで、 DMOとしての役割を果たしていけるのではと考える。
 日本観光振興協会はDMOを核とした地域づくりを支援しており、これまでDMO研究会やシンポジウムやセミナー開催、研修講師の派遣などを行って来た。 今後も地域とともに、地域の活性化に取り組んでいきたい。

会場風景
 

 

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