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 シンポジウム講演録

2016.02.12

中部観光地域づくりシンポジウム「地方創生と日本版DMOの展望」を開催


 平成28年2月12日(金)13時より、愛知県名古屋市の名古屋国際センターにおいて、中部地域を対象とした観光地域づくりシンポジウム 「地方創生と日本版DMOの展望」を開催いたしました。
 新たな観光推進体制の概念であり、平成27年11月から登録制度がスタートした日本版DMOに対する行政や観光協会、観光事業者などの関心は 非常に高く、定員160名の会場は満員となりました。
 最初にDMO推進機構代表理事の大社充氏による基調講演「日本版DMOについて」、続いてパネルディスカッション「日本版DMOの地域導入に向けて」が行われました。
 コーディネーターは大社氏が務め、パネリストはいずれも中部地域で先進的な取り組みを行っているNPO法人ORGAN理事長/長良川おんぱくプロデューサーの蒲勇介氏、 一般社団法人下呂温泉観光協会会長の瀧康洋氏、富山県氷見市地方創生政策監の宮本祐輔氏の3名が登壇し、コメンテーターとして公益社団法人日本観光振興協会中部支部長の須田 寛が参加しました。
 最後に日本版DMOの概念や形成・確立に向けた支援メニューなどについて、中部運輸局観光部長の北原政宏氏より説明が行われました。  


▼主催者挨拶 見並陽一(公益社団法人日本観光振興協会理事長)

 日本が観光立国から観光大国を目指すにあたり、地域文化に根差した本当の日本の魅力を世界に発信していくには、地域の魅力を磨き上げ、 商品化する活動を恒常的に行う機能が必要であり、それがDMO(Destination Management/Marketing Organization)と言える。
 当協会は、DMO推進機構の大社氏などとともに約3年前、DMO研究会を設立した。研究から実践に向け、DMO研究会を一歩進めて「DMO推進室」という ワンストップの部署を作り、地域にDMOを根付かせることに邁進していきたい。
 DMO研究会は過去11回開催したが、残念ながら東京のみの開催だった。地方で開催したいという願いが今回叶い、今日の名古屋、来週は仙台での開催を予定している。
 DMOのOは直訳で組織を意味する「オーガニゼーション」とあって、「観光協会や行政の観光部署は不要なのか」といった議論が生まれがちである。 しかしドイツのアルゴイ地域では観光推進機構的な仕組みが、11年後に法人格をとってDMO的な姿になった例もあり、時間をかけて観光振興とまちづくりを 推進していく「機能」と理解した方がいいのではと考えている。
 中部地域は全国的に見ても、昇龍道や長良川おんぱく、下呂温泉などDMO的な取り組みの先進地であり、今後も推進役を担うことに当協会も期待している。

 
▼来賓挨拶  鈴木昭久氏(中部運輸局長) 

 中部地域はものづくりが非常に強い地域だが、ものづくりは明確な体制に基づくわかりやすい産業構造、経済効果がある。 一方、観光は非常に多種多様なプレーヤーが総合的に取り組んで地域を盛り上げていくという意味で、効果が分かりにくい部分がある。
 効果を「見える化」し、地域と民間で1つの目標を共有検証することは非常に重要であり、そうした役割を果たすのが日本版DMOと理解している。 本日は観光行政、観光協会、交通観光事業者や銀行、大学やシンクタンクなど、まさに日本版DMOに関わる多様な方々に参加いただいている。 このシンポジウムが中部各地の日本版DMOの展開に向けて、理解を深める助けになることを祈念している。

 
▼来賓挨拶 加納國雄氏(愛知県振興部観光局長)

 愛知県を訪れた外国人旅行者数は、昨年推計で前年比57.7%増の194万6000人に達し、全国の伸び率を10.6ポイント上回った。 中部地域への外国人客も多く増加している。今後ますます増加が予想されるインバウンドに、地域が連携し戦略的に取り組まなければならない。
 観光は、旅行業や宿泊業はもとより小売業や飲食業、レジャー、産業など、関連する産業の視野が広く、地域の総力を結集して初めて大きな推進力をもつことができる。 地域の力を出し合って戦略的に取り組むに当たり、中核のかじ取り役となるDMOは今後の観光を語る鍵になると注目されている。

 

  ■主 催 公益社団法人日本観光振興協会
  ■後 援 中部運輸局/愛知県/一般社団法人愛知県観光協会/DMO推進機構
  ■協 賛 中部広域観光推進協議会
  ■日 時 平成28年2月12日(金)13:00~16:30
  ■場 所 名古屋国際センター(愛知県名古屋市中村区那古野1-47-1)
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次 第

                                  (敬称略)

 13:00 開会
     主催者挨拶 見並 陽一(公益社団法人日本観光振興協会理事長)
     来賓挨拶  鈴木 昭久(中部運輸局長)
           加納 國雄(愛知県振興部観光局長)

 13:15 基調講演「日本版DMOについて」
     講師:大社 充(DMO推進機構代表理事/事業構想大学院大学客員教授)

 14:15 休憩

 14:25 パネルディスカッション「日本版DMOの地域導入に向けて」
    (パネリスト)
      蒲 勇介(NPO法人ORGAN理事長/長良川おんぱくプロデューサー)
      宮本 祐輔(富山県氷見市役所地方創生政策監)
      瀧 康洋(一般社団法人下呂温泉観光協会会長/株式会社水明館代表取締役社長)
    (コメンテーター)
      須田 寛(公益社団法人日本観光振興協会中部支部長)
    (コーディネーター)
      大社 充(DMO推進機構代表理事/事業構想大学院大学客員教授)

 16:00 「日本版DMOの形成・確立に向けた取組について」
     北原 政宏(中部運輸局観光部長)

 16:30 閉会


▼基調講演「日本版DMOについて」大社 充氏(DMO推進機構代表理事/事業構想大学院大学客員教授)

観光は地域の「分断」から「統合」へ

 地域ではこれまで観光客と地域住民のトラブルやあつれきを避けるため、長年にわたり、観光客用の場所と地域住民の暮らしを 分ける「分断」の手法で観光客を受け入れてきた。
 象徴的なのが、地元の人はまず行かない団体観光客専用のレストランだ。しかし、近年は地域の人が行く店に行きたいという観光客が増え、 分断の壁を越えて観光客が地域に入ってきている。
 地域の魅力や価値が高まることで来訪者やリピーターが増え、ビジネスにも好影響を及ぼすことから、従来から観光客を受け入れてきた宿屋、 土産物屋、飲食店、二次交通、観光関連事業者の5業者が、積極的にまちづくりを行う動きが約10年前から活発化している。
 同時期から、商工会や商工会議所が観光について言及するようになったが、その最大要因は人口減少である。日本の年間平均個人消費額は約120万円だが、 100人減れば1億円以上の地域内消費が失われる。そうした中、地域を継続する手段として観光が注目されている。
 一方、一次産業の事業者も近年、都会の子どもたちに農業や漁業体験を提供するなど、分断されていた地域が統合され、来訪者に対して地域社会を開くように なってきている。従来の観光関連5業種とそれ以外の人達が一緒になって来訪者の受け入れを行い、観光とまちづくりを一体化した動きが全国各地で増えているの が、近年見られる傾向と言える。


観光による経済効果の現状把握を
 地方創生のゴールは地域に新たな雇用を生み出し、暮らしやすく魅力的な町をつくることであり、それに向けてうまく観光を使っていこうということである。
 「地域内調達率」という言葉が観光庁のホームページに載っている。1万人の観光客が平均5000円を使い、土産物がそのうち2000円とすると、2000万円が 土産物購入による総消費金額となる。土産物の原材料費が65%の場合、1300万円が原材料に当たる経済効果となる。
 原材料の地域内調達率が9割だと1000万円以上が地元に落ちるが、1割の場合は1000万円以上のお金が地域外に流出し、観光客が増えても地域が恩恵を受けないケースもあり得る。 このように地域内の経済循環や雇用効果をちゃんと把握した上で、暮らしやすく魅力的な町をつくっていく必要がある。
 しかし、観光と地域経済の現状把握は極めて薄い。世界的によく聞くPer Person Per Day(PPPD)という言葉は1人1日当たりの消費額を意味するが、このようなデータを 把握している地域は極めて少ないのが今のわが国の実態だ。観光による経済波及効果や雇用者数、税収などを明確にする必要がある。

DMOは「着地型観光」の会社ではない
 こうした状況から地域には従来の観光業者と他の産業、市民、地域づくりが連携したプラットフォームが必要だ。その役割を担うのがDMOだが、DMOを着地型観光を 取りまとめたツアーセンターと誤解している人も多い。「それは違う」と今日、この場で強く訂正しておきたい。
 この10年、全国各地でさまざまな着地型商品が生まれたが、地域の経済活性化につながっているかは疑問がある。主体的、選択的に集客を行うノウハウや仕組みの不足が原因なのは明らかだ。
 そこで、欧米の先進諸国で初めて登場したのがDMOという3文字だった。もともと日本になかった「地域をマーケティングする」という概念を取り入れようというのが、DMOの重要なポイントだ。
 そのためには責任の所在を明らかにし、観光地を経営する視点が必要になるが、誰がどのように行うかが問題となる。海外の知見を収集し、わが国の現状も再び総括をし、日本版DMOの形成を 支援していこうと地方創生本部で議論がまとまった。

外部依存から自発的な観光地経営へ
 最終的に地域で行ってほしいのは必要なデータの収集分析をし、それに基づいて戦略を立案し、KPI(注1)を設定して実行する「機能」だ。これまで不足していた調査分析の手法を導入し、 PDCAサイクル(注2)を回していくことである。
 そこで不可欠なのが金融機関の支援である。受け入れ体制の整備と地域産品の商品開発を行いつつ、DMOと地域商社を地域に根づかせていくことが必要であり、それは地域が外部依存型 から自立型の観光集客に転換することを意味する。
 そうした自立的な地域に対し、積極的に公的資金を投入しようというのが地域創生の考え方である。ここが一番重要な点で「補助金や交付金がもらえるからDMOを作ろう」というのは順番が 違う。そこをぜひ正確に理解いただき、自立的な仕組みづくりに各地域で取り組んでいただきたい。

(注1)PDCAサイクル:事業活動における生産管理や品質管理などの管理業務を円滑に進める手法の一つ。計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Act)という4段階の活動を繰り返し 行うことで、継続的にプロセスを改善していく手法
(注2)KPI : 主要業績評価指標。Key Performance Indicators の略で目標達成に向けて業務プロセスが適切に実行されているか、判断するための主要指標。観光地域づくりの分野では延べ宿 泊者数、旅行消費額、来訪者満足度、リビーター率などが重要指標とされる

稼ぐ分、責任も伴うDMOスタッフ
 都道府県関係の観光関連予算の用途を見ると、1位は観光施設の整備と管理委託、2位が補助金、3位が国内PRで、マーケティング関係の支出はほとんどないのが実態だ。
 観光協会は7割が定量的な目標設定をしておらず、観光による地域経済のインパクトを把握していると回答した自治体は2割強にとどまる。地方公共団体における観光部署の 人材の平均在籍年数は2年、政令市では1~2年が8割と極めて人事異動が激しいことがデータとして明確になっている。
 日本の観光協会の正規職員の平均年収は200~300万円未満が最多だが、ナパ・バレーのDMOのマーケティングディレクタークラスの平均年収は17万ドル、約2000万円と推定される。 給料も高い代わり結果責任も問われるのが欧米のDMOであり、日本の観光協会は権限も専門性も少なく、報酬も決して十分とはいえない実態がある。
 諸外国のDMOは戦略的計画作りを担っていることが多い。アメリカの西海岸などは極めて民間主導型だが、日本の観光行政はどの国にもまして政府主導型ということが明らかになっている。 そういったあり方を見直すことも、DMO導入の重要な論点になる。どこまで日本が転換を図れるのかは大きなチャレンジだが、官民連携の在り方としていま一度、議論が必要な論点だと思う。

稼いで資金循環をできるしくみを
 多くの市町村で「観光協会などへの補助金を減らしたい」という声を聞くが、再考すべきは限られた税金をどこに投入すれば一番効果が上がるかである。農業系や商業系に比べ、観光系の 予算は少ない。「観光に税金を投入すれば、これだけ地域に経済効果がある」と明確に証明し、税金投入の増額を主張できるようになってほしい。
 実際、欧米のDMOはそうした主張を行っている。KPIを設定して成果評価を行い、議会内有権者に説明し、投入した税金に対する地域への経済的効果を明らかにすることで、観光は地域にとっ て不可欠な産業であると証明することが求められる。
 地域の事業者は観光客が来たら稼げる。稼ぐと税収が上がり、市町村は新たに観光分野やDMOに投資し、さらに観光客が増えるという旧来型の資金循環サイクルにプラスアルファとして考えら れるのが、ホテル税や入湯税などの法定外目的税の活用である。
 例えば釧路市では、昨年条例を改正して150円の入湯税を250円にアップし、増額分を観光地域づくりに優先的に使える仕組みを作っている。このように税収が直接的にDMOに回る経済循環を 作っていくことも、今後検討が必要である。

 
▼パネルディスカッション「日本版DMOの地域導入に向けて」
 
DMO設立につながる3つの取り組み
大社:パネリスト3名の地域は既にDMOの概念に沿った取り組みを行っている。それぞれ、概要をご紹介いただきたい。
瀧:下呂温泉では東日本大震災後からデータ分析に力を入れた。当時は7割くらい宿泊客が減少したが、旅館組合、市、観光協会、 商工会を集めて全旅館から集めた宿泊客データを元に会議をし、プロモーションを考え直すと5月には前年並みに回復し、こんなに効果が出るのかと非常に驚いた。
 以来、宿泊客データを毎月とり、観光協会の中の誘致宣伝委員会(下呂市・旅館組合・商工会・観光施設・市内観光協会による組織)で月1回会議している。

<パネリスト>瀧 康洋氏
(一般社団法人下呂温泉観光協会会長/
株式会社水明館代表取締役社長)

<パネリスト>蒲 勇氏
(NPO法人ORGAN理事長/
長良川おんぱくプロデューサー)
蒲:私のNPOでは5年前から地域の事業者を巻き込んだ「長良川温泉泊覧会(長良川おんぱく)」を実施している。提供プログラム数は初年度100に対し、今年度は180に達した。 地元や近隣の来訪者が主体だが、開催地域の温泉の宿泊客はこの5年間で約10%伸びている。  目的は地域資源の発掘と育成、長良川流域の地域ブランディング。地域の事業者にとってはテストマーケティングの場でもあり、商品化や起業例もある。
こうした観光まちづくりの取り組みにマネジメントやマーケティング機能を付加し、2017年に「長良川DMO」の設立を目指す。今後は着地型商品の常時提供や 地域産品を売る地域商社の運営を考えている。
宮本:私は元々、民間企業でマーケティングを担当し、半年前から氷見市役所で地方創生の責任者を務めている。氷見市は消滅可能性都市の一つで、定住促進型DMOを 目指しており、20~40代の定住者を年間35人増やすのが最終目標だ。副次効果として観光客増加にも期待している。

<パネリスト>宮本 祐輔氏
(富山県氷見市役所地方創生政策監)

広域連携に必要なバランスとは

<コメンテーター>須田 寛氏
(公益社団法人日本観光振興協会中部支部長)
須田:以前、三重県知事が中国を訪問した時、「中部のいろんな県や市町村がそれぞれ同じことを言い、同じ資料を送ってくる。なぜ一緒にプロモーションしないのか」と言われた。 そこから地域が連携するしくみが必要と感じ、約10年前に中部広域観光推進協議会ができた。
 広域連携を行う場合、統一できるものは統一し、宣伝や誘致活動の重点を決めることが大事。中部は九州や四国などと異なり難しい部分もあるが、 まずは連携の範囲をはっきりさせることが大事だと思う。
大社:今のお話で、広域連携とはどのエリアでやっていくのかという問題提起があった。蒲さんのところはまさに広域連携で、下呂市も4町一村が合併しているが、うまくいきそうか。
蒲:長良川おんぱくは長良川流域すべてを対象にしているが、地域アイデンティティの共有度や観光資源の集積度、歴史の経緯を考えると、DMOはその中の4市で構成するのが 現実的ではと考えている。

<コーディネーター>大社 充氏
(DMO推進機構代表理事/
事業構想大学院大学客員教授)
瀧:下呂市は合併前の町村にそれぞれ観光協会が存在し、会議を一緒にやっている。最初はなかなか足並みが揃わなかったが、10年かけて今年5カ所の地域資源を商品化した。 下呂市と近隣の中津川市や郡上市の連携はうまくいっており、我々がプロモーションする場合は、下呂だけでなく岐阜県の資料を全部持って回っている。
大社:ぜひ広域連携を考える地域にやっていただきたいことが機能分析表の作成だ。関連する自治体や観光協会の部局の職務内容や職員数や予算、KPIを全部書き出し、機能を 「見える化」する。それをもとに重複する機能について議論することで、共通課題の解決につながる。
須田:それぞれの団体に設立経緯があり、簡単に合併や連携するのは難しい。個々の特性を生かしながら活動しつつ、外部に対しては連携して対応するという使い分けができればいいのでは。 連携と個々の活動のバランスをどうとるかが、今後のDMOの鍵を握る気がする。
 
産業連関に着目し「連携マインド」を高める

大社:下呂温泉ではデータ収集をどのように行っているのか。
瀧:宿泊客の交通手段や何県から来ているといった情報を全旅館から市が集め、各月10日までに観光協会に届く。データが出た1週間以内に誘致宣伝委員会で会議をする。 そうした会議では、旅館組合や市の計画などが無駄に重ならないような擦り合わせも行う。
大社:宮本さんは、行政機構に入ってマーケティングの概念が足りないと感じるか。
宮本:数字を使った議論は、観光に限らず市政全般で今までされていなかったように感じる。そういう中でRESAS(注3)の人口と産業連関分析は役に立った。
大社:観光による地域振興に必須なのが産業連関表だ。地域の産業がどのように関連してお金が回っているか、地域内の経済効果が見えてくる。
蒲:「長良川清流の鮎」は世界農業遺産にも認定され、付加価値が高いが、現状では1次産業としての川漁と観光や物販などのつながりが分析されていない。 それを行うのは我々ではないかと考えている。
 広域連携を行う場合、地域資源の核となる鮎を、今後どう魅力的にしていくのかを考えるのに必ず必要な視点だと思う。観光には直接関係ないが、鮎漁を 行う後継者をどう作るかといったことも考えていく必要がある。
大社:観光への取り組みも、昔よりもっと深いところを見なくてはいけなくなった。須田さんは広域連携についてどう考えるか。
須田:観光は人々の幸福を促進する経済活動であり文化活動だが、未だに遊びと考える人も非常に多い。そうした観光の本質を理解した上で、大事なのは、 互いの地域が手をつなごうという連携マインドだ。「DMOマインド」と言えるかもしれない。そういう気持ちが根底にあれば、同じことを言っても相手が受ける 印象は全く違う。連携マインドを持ちつつ、それぞれの地域の個性を強調していくことが望ましい。

(注3) RESAS: まち・ひと・しごと創生本部事務局が提供する地域経済分析システム。地方自治体の取り組みを情報面から支援するため、産業構造や人口動態、 人の流れなどのビッグデータを集約し、可視化している

 
マーケティング人材の調達はどうするか

大社:よく聞くのが、「DMOでマーケティングを誰がやるのか」という質問だ。瀧さんのところはマーケティングの専門人材がいるのか。
瀧:地元採用の人に、観光マーケティングの本を読んで勉強してもらっている。今はそれで間に合っている。
大社:長良川DMOは、人材についてどう考えているか。
蒲:今のNPOは地元の金融機関に勤めている中小企業診断士や、東京と岐阜を行き来す大手コンサル出身の方などにマーケティングの相談をできる関係が作れている。 しかし今後は組織内でそういうことが行えるよう、人材育成をしていきたい。
大社:コンサルタントをやっておられた宮本さんはどう考えるか。
宮本:人材不足を補うにはメイク(作る)とバイ(買う)を時系列で考える必要がある。ノウハウがない初期は外から人材をつれてくることも有効だが、一方、地域で人材を作る努力も必要。まずは地域側が、的確な人材を選べる評価能力を身につけることが第一ではと思う。

 
自主財源と費用対効果を考える

大社:組織の財源についても関心が高い。下呂温泉では入湯税150円で100万人来れば1億5000万円入るが、今はどのように使っているのか。
瀧:1億5000万円のうちの5000万円はインフラ整備などに向けて積立をしている。残り7000万円が各観光協会、3000万円が旅館組合に入り、一応100%観光に使える形になっている。
大社:全国的にも、そのように自由に使えるところは少ない。長良川DMOは財源問題が大きな課題では。
蒲:既に長良川おんぱくで自主財源を約600万円稼ぎ、人件費などを捻出しているが、DMO立ち上げ当初は県と4市から助成をいただく形になる。今後DMOとして財源を稼ぐには、 定期的に長良川流域の観光データを分析し、各事業者が使えるレポート発行とそれに伴う会費収入、自治体からの委託事業などを考えている。
大社:氷見市ではDMOの活動資金についてどう考えているか。
宮本:できるだけ国や県のお金に頼らない方向で手段はないか、検討している。
大社:移住者が1人増えるより観光客が100人増えたほうがいいという話もある。氷見市はやはり移住者重視か。
宮本:観光客が100人増え、交流によって地域の人々がより幸せになったり、イノベーションが生まれるならいいが、地域が大変になるだけでは一概に観光客の増加にイエスとは言えない。
大社:確かに観光客の質も重要と言える。ハワイのDMOであるハワイ・ツーリズム・オーソリティ(HTA)は観光客数の増加より、1日1人あたりの消費額を重視している。イベントにも費用対効果を よく考えており、例えばPGAのゴルフツアーはゴルフに来る人たちの客単価が極めて高く、テレビでハワイの景観がずっと映るので、プロモーション上極めて効果的と分析している。
 このようにアメリカのDMOは極めて合理的な判断をしており、KPIを設定して達成できない場合はスタッフの減給や解雇などもある。日本がここまでできるかどうかは今後のチャレンジだと思うが、 DMOが生まれてからまだ20年弱であり、人口減少という危機を一つのバネとして、日本でも取り組みが進んでいけばと思う。

 
▼解説「日本版DMOの形成・確立に向けた取組について」
北原政宏氏(中部運輸局観光部長)

 日本版DMOの役割は多様な関係者の合意形成、各種データなどの継続的な収集分析、KPIの確立、PDCAサイクルの確立などが挙げられる。 日本版DMOの組織は、交通事業者や商工業、宿泊施設、農林漁業などと連携をしながら内外の人材やノウハウを取り込むとともに、地域に観光客を 呼び込むことを通じて地方創生を進めていくことが重要な役割となる。
 日本版DMOの形成・確立に向けた支援事業として、複数県からなるブロックエリアについては観光庁の補助事業「広域観光周遊ルート形成促進事業」がある。 広域観光周遊ルートは昨年6月に全国で7ルートが認定され、中部では昇龍道が認められている。
 観光圏に認定された複数市町村エリア向けの支援メニューは、観光庁の補助事業「観光地域ブランド確立支援事業」で支援する。中部エリアでは、浜名湖観光圏が認定されている。 市町村レベルの自治体向けには観光庁の「地域資源を活用した観光地魅力創造事業」がある。中部地域では、福井県小浜市などが対象として認められている。
 こうした観光庁の補助事業など、既存の補助金に当てはまらないものに新型交付金を充てる形になる。ほかには経済産業省に関連して、データ収集やシステム開発・設計などを 支援する「地域が稼ぐためのクラウドを活用した知的観光基盤整備事業」というスキームもある。
 中部運輸局はDMO設立に対して最大限支援する意向であり、質問などがあれば事務局の担当部のほうに気軽に問い合わせをいただきたい。

会場風景