公益社団法人 日本観光振興協会

DMOなび - 観光地域づくりの新しい潮流に学ぶ -

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シンポジウム講演録

2015.09.24

観光地域づくりシンポジウム in ツーリズムEXPOジャパン
「DMOを核とする観光地域づくり」


去る平成27年9月25日(金)15時15分より東京ビッグサイト東展示棟において、観光地域づくりを学ぶシンポジウム「DMOを核とする観光地域づくり」を開催いたしました。 当日は世界最大級の旅の祭典「ツーリズムEXPOジャパン」の初日であり、新しい観光推進体制の概念であるDMOについて、行政や観光協会、観光事業者等の関心は非常に高く、 定員300名の会場は満員となりました。 まず、観光地域づくりプラットフォーム推進機構(以下「PF推進機構と略す」代表理事の大社充氏により「わが国にDMOが求められる背景」についての解説があり、続いて内閣府地 方創生大臣補佐官の伊藤達也氏、当協会理事長の見並陽一、大社充氏によるトークセッション「観光による地方創生と日本版DMO」が行われました。DMOについての理解を深めると ともに、国内外の事例や国内観光推進組織の調査報告などを通じて、これから取り組むべき課題が整理されました。
※資料等も含めた講演録のダウンロード(PDFファイル)  


▼主催者挨拶:日本観光振興協会/山口範雄 会長 

国家成長戦略の一つとして「観光立国」が、幾つかの柱の中の重要なものになっており産業界および地域において、観光に対する期待が日に日に高まっている。 訪日外国人は今年は1900万人に届くのではないかという勢いで、国内旅行消費も4~6月前年比では18.3%、5兆6000億円という伸びである。 そこで、数多くの国内外の観光客を受け入れ、地域特性をどのように生かし、質の高い観光地域づくりができるか、ということが課題となっているが、 推進母体として観光振興を戦略的に推進する専門性の高い組織あるいは機能として、DMO(Destination Management/Marketing Organization)が世に言われ始めた。 観光の分野ではマネジメントあるいはマーケティングという概念は最近までなかったが、観光立国の実現に向けた国の「アクションプラン2015」や 「まち・ひと・しごとの創生基本計画2015」の中で、日本版DMOの必要性、重要性が明記され、施策を打とうとなっている。
 私ども日本観光振興協会では、2010年から観光人材育成研修を実施し、2012年からは本日お越しの大社さんが代表理事である「観光地域づくりプラットフォーム推進機構」と 連携しDMOの必要性に焦点を当てたシンポジウムやセミナー、研究会を重ねてきた。
 DMOとは観光地経営を合理的に進めるための手段・機能である。多様な関係者間の合意の下、合理性のある観光戦略を策定し実行していくわけだが、そのための仕組みを具体的に 構築していく必要があり、具体論なくして地方創生は進まない。ぜひ、わが地域のこととして、DMOの必要性を認識していただき、理解促進と何よりも理解したことを具体論として 実践に結び付ける第一歩の場となれば幸いである。


▼来賓挨拶:観光庁/蝦名邦晴 次長 

観光政策を語る上で昨今のインバウンドの大変な好調ぶりは目を見張るものがある。おかげさまで既に今年の9月10日に昨年の数字である1340万を超え、 年内は1900万に達するのではないかという勢いであり、2020年に2000万人と言っていた目標値がまさに目の前に迫ってきた。一方この急激な伸びに対応するため、 地域がきちんとした受け入れ体制を整えることが必要となる。また、少子高齢化が益々深刻化するなか、地方創生において観光の持つ力が大変注目を集めている。 インバウンドだけではなく、国内の観光としても交流人口を活発化させることが、地域を盛り上げていくキーになる。
 これまでの観光地の運営、経営は地方自治体や観光協会、宿泊業界、旅行業界、小売業界といった観光関係者が協力しながら誘客を図ってきたが、 インバウンドの好調さをさらに力強く地域に取り込んでいくためには、戦略的な取り組みが必要である。
 DMOでは、観光地計画を策定したり、KPI(*1)という数値目標を設定するが、専門性の高いことでもある。一方、観光は地域間競争でもあり、 地域ごとに資源を磨き各地域はライバルとして闘っていかなければならない。その意味で、地域の様々な方々の知見を大きく結集し、 知恵を出し合い切磋琢磨して、ステップアップしていく取り組みが必要である。地域の方々が一つの方向に向かって結集していかなければ、 大きな推進力は生まれない。そのための中核となるのがまさしくDMOである。  DMOが舵取り役となるために、観光庁、そして伊藤補佐官がいらっしゃる「まち・ひと・しごと創生本部」や、政府、各省の持っているあらゆるツールを活用し、しっかりと地域を支えていく。
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 *1 KPI:Key Performance Indicators の略。「主要業績評価指
   標」。目標達成に向けて業務プロセスが適切に実行されているか
   判断するための主要指標。観光地域づくりの分野では、延べ宿泊
   者数、旅行消費額、来訪者満足度、リビーター率などが重要指標
   とされる

 

  ■主催 公益社団法人日本観光振興協会
  ■後援 内閣府/観光庁/観光地域づくりプラットフォーム推進機構
  ■日時 2015年9月25日(金)15:15~16:15
  ■場所 東京ビッグサイト 東展示棟  東1ホール Aステージ
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  ■プログラム

                                (敬称略)

   15:15 開会
       主催者挨拶 公益社団法人日本観光振興協会 会長 山口 範雄

   15:20 来賓挨拶 国土交通省 観光庁次長 蝦名 邦晴

   15:25 解説「わが国にDMOが求められる背景」
       観光地域づくりプラットフォーム推進機構 代表理事 大社 充

   15:35 トークセッション「観光による地方創生と日本版DMO」
       内閣府地方創生大臣補佐官 伊藤 達也
       観光地域づくりプラットフォーム推進機構 代表理事 大社 充
       公益社団法人日本観光振興協会 理事長 見並 陽一

   16:15 閉会

 


▼解説「わが国にDMOが求められる背景」:観光地域づくりPF推進機構 代表理事 大社 充

観光の持つ二面性
「DMO(Destination Management/Marketing Organization)」は突然登場したわけではなく、何年間もの議論の積み重ねである。
 観光は地域の人にとっていい話ばかりではない。観光客が大勢来れば車は渋滞する、排気ガスはいっぱい、見知らぬ人はウロウロする、 など観光振興が今一つ嬉しくないと思う地域の方もいる。

つまり、地域の中では観光客を呼んで潤う、嬉しいという方と、観光客を呼ばれるとかなわない、 困るという方々が共存している形で、長年来訪者を受け入れてきたという経緯がある。
 こういうトラブルを避けるために、これまで地域は「分断」という方法で観光客を受け入れてきた。観光客の受け入れを担ってきたのは地域の事業者の方々 -宿泊施設、観光施設、飲食店、土産店、そしてタクシーやバスなどの二次交通事業者の方々だが、近年は来訪者の質が変わってきた。お客さまはできること なら分断の壁を乗り越え、地域の魅力、地域ならではのもの、文化に、一歩でも、二歩でも触れたいという思いが強くなってきた。

 

旅行振興から観光による地域振興へ
 こういうニーズに応えるため、下図のマトリックスのAのエリアにいる事業者たちが一生懸命まちづくり、Bのエリアをやるようになった。 1軒の宿、自分たちの施設だけでは来訪者を継続的に集めることはできない、まちの魅力が必要だと考えたのである。 一方、Dは直接観光には関係ない方々、商工会や商工会議所など地元の暮らしの質を高める多様な取り組みをしている方々が、 人口減少を背景として10年くらいの間に観光に取り組むようになった。人口減少により、地域内需要が縮小し店舗が閉店してゆくと地域の生活が 成り立たなくなってしまう。地域を支えるには外からお客さまに来ていただいて地元で消費してもらう、つまり観光である。 まちづくりをうまく機能させていくためも、観光をうまく活用しようと、DからBという動きが生まれた。そしてCは一次産業の事業者や、 特に観光やまちづくりには関係ない方々だが、農業体験や漁業体験などを通じて来訪者を受け入れてきた。 従来、観光関連事業者が中心となって担っていた地域の観光振興が観光以外の産業や住民参加の観光まちづくりというふうに、コンセプトが変わってきたのである。

 

下図では中央波線の左側が観光エリアでお客さまが来てホテルに宿泊し観光施設で消費する。しかし波線の右側、地域住民の暮らしのエリアは極めて疲弊している。 商店街を見ればシャッターが下り、市場にもあまり人がいない。こういったとき、来訪者に町を回遊してもらう仕組みをつくり、地域のさまざまな資源を活用し商品化し、 町中で食べたり買い物してもらう、このような取り組みが必要になっている。まさに住んでよし、訪れてよしの観光まちづくりが必要になってきている。

  

地域に足りないものは何か

 社会環境、市場環境の変化により、観光振興の主役は地域になった。従来の観光事業者のほか、他産業、市民、地域づくりとの連携、 まさにプラットフォームといわれる連携が必要となった。しかし地域に主体的、戦略的な集客のノウハウ、仕組みといったものが不足している。 着地型観光といえども、なかなか集客は難しいという経験からも自ら客を集める仕組みに少しノウハウが足りない。
 そして一番重要な、観光振興のPDCA(*2)サイクルが機能していない。観光には客観的なデータが圧倒的に不足している。 地域を訪れる観光客の属性を知らない。企業や商売している方はちゃんと調べているが、話が「町」となった瞬間にわからない。 その意味で、客観的なデータ不足を補っていく必要がある。また、一生懸命頑張ってきたのに、いまひとつ成果が出ていない、ということがある。 それはどこに問題があるか、改めて見直してみることも必要だ。日本で一番集客できているのは東京ディズニーリゾートで、創業30年、いまだにたくさんのお客さんを集め、 持続可能な形になっている。では、地域はどうであろうか。地域ではさまざまな利害関係者が共存している。市長が右を向けと言っても左を向く人もたくさんいる。 このような中でどうやって持続可能な集客ならびに経済的な効果を生み出していくか。そういった仕組みはあるのだろうかというのが、問題意識の基本にある。
 観光先進諸国に目を向けてみると、Destination Marketing、Destination Managementという概念があり、そういった組織が地域の核として機能していることが分かった。 下図はUNWTO(*3)の定義の一つだが、マーケティング機能を持ち、観光地の対応能力を向上させ、地域の人材育成や商品開発を先導する、リードする組織として存在している。 このような考え方、手法をわが国の地域にも導入できないかと、これがDMOが登場する背景だ。客観的な調査データに基づくデータの共有と分析を基に戦略を立案する、 そしてKPIを設定する、戦略に沿ったプロジェクトを立案して推進する、これを事業評価していく、こういう一連のサイクルを地域の中につくり込んでいくことが必要だということから生まれた議論なのである。

 

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*2 PDCAサイクル:事業活動における生産管理や品質管理などの管理業務を円滑に進める手法
  の一つで、計画(Plan)→実行(Do)→評価(Check)→改善(Act)という4段階の活動を
  繰り返し行うことで継続的にプロセスを改善していく手法。
   ①Plan:目標を設定し、それを達成するための具体的な行動計画を策定する。
   ②Do:策定した計画に沿って業務を実施する。
   ③Check:途中で成果を測定・評価する。(当初目標との比較、成功・失敗の要因の分析)
   ④Action:必要に応じて修正を加える。(プロセスや計画の改善、実施体制の見直しなど)
  一連のサイクルが終わったら、反省点を踏まえて再計画へのプロセスへ入り、次期も新たな
  PDCAサイクルを進める。
*3 UNWTO:UN World Tourism Organization。世界観光機関。観光分野における国際協力
  の促進を目的とする国連専門機関。本部はマドリード。

 

▼トークセッション「観光による地方創生と日本版DMO」:
                         内閣府地方創生大臣補佐官 伊藤 達也
                      観光地域づくりPF推進機構 代表理事 大社 充
                   公益社団法人日本観光振興協会 理事長 見並 陽一

観光にかける期待

大社:創生本部の屋台骨を支える伊藤先生、そしてツーリズムEXPOジャパンの主催団体の見並理事長、お二人にご登壇いただいたが、 はじめに補佐官、全国各地で観光による地方創生の期待が高まっているが、地方創生という観点から観光による地域振興について。
伊藤:アベノミクスの効果が地方に十分届いていない、という問題意識を持っており、観光をアベノミクスの効果を届ける重要な 産業として認識している。つまり、地域振興を図るゲートウェイの存在だ。アベノミクス第2ステージにおいて、日本の強い経済を 実現していく中で観光の存在は極めて重要だ。地域の魅力を磨き、その力で地域の豊かさを実現していく。 しかし、日本の観光の力は、十分に発揮することができてきたとは思えない。今年のランキングで世界でまだ20位、アジアの中でも第8位の存在だ。GDPに対する貢献度はわずか2%だ。 それをもっと、例えば10%のレベルにまで引き上げることができれば、40兆円の新たな経済効果を地域にお届けできる。そうした認識の中で観光を位置付け、観光の推進体制を強化していくことが大切だ。 先ほどのDMOを私どもの大きなテーマとして位置付けている。
大社:見並理事長、今の補佐官のご意見を受けて。
見並:観光産業に従事する者として、大変ありがたいことだ。観光客を増やすこと、観光による地域の魅力をもっと磨き上げることが、地域そのものの魅力をアップすることだ。 観光立国のかけ声の中で、観光振興が単なる地域の観光事業者-お宿さん、土産物屋さん-そういった一部の人だけではなく、地域そのものが元気になる大きな手段であるという認識が、 ようやく共有されてきた。その意味で観光振興と地域の再生、地域の活性化は同時進行していくという概念が生まれてきたと思う。



海外のDMOから学ぶべき点はマーケティングとマネジメント
大社:本日のシンポジウムのテーマはDMOだが、伊藤補佐官はカリフォルニア州のナパ、アメリカのデンバー、ハワイなど、 米国の観光行政やDMOを視察され、CEOとも意見交換されている。日本が学ぶべきと感じた点は。

伊藤:学ぶべきことは、地域の魅力ある資源を稼ぐ力に変え、観光産業を振興することによって豊かさを多くの方々と享受していることだ。 そして、その地域の一体感と戦略を推進する組織として、DMOが司令塔の役割を果たしているということが、一番大きな印象だ。 私事で恐縮だが、30年ほど前、私はナパから1時間ぐらい離れたサクラメントに住んでおり、その頃のナパはそれほど存在感のある町ではなかったが 急激に地域のブランド力を向上させた。そこにDMOという存在がある。そして、このDMOは単なる観光を推進する組織ではなく、地域の中の観光がどれくらいの経済効果があり、 インパクトを与えていくのかということを、「見える化」を通じて住民に示している。客観的なデータに基づいたマーケティングによる戦略を立て、 マネジメントを行うことで安定した財源を確保し、人材育成についても、大きな役割を果たしている。この機能に学ぶべき点が多々ある。


大社:ナパでは、TID(*4)の導入などここ数年で大きな変化があって、成果の上がっている事例といえるだろう。見並理事長はドイツに詳しいので、ドイツのDMOのお話を。

見並:ドイツはお客さまから見た場合に、DMOという姿はあまり見えない。ところが観光推進組織が実際やっていることは先ほどから話にでているマネジメントやマーケティングだ。 よく地域の観光資源を磨き上げるというが、誰がどのように磨くのかと考えると、実は観光資源そのものを別の視点で光を当てていくことだと思う。 ドイツとスイスの国境、ボーデン湖の近くにアルゴイという地域があり、「アルゴイ・チーズ街道協会」という組織がある。

アルゴイ・チーズ街道というのは観光ルートだが、その観光ルートをきちんとメンテナンスしていくような組織が必要だ。 また、アルゴイで生産されるアルゴイ・チーズに、DMO的な組織である「アルゴイ・チーズ街道協会」という組織が、 観光資源という別の視点で魅力を見いだしている。よく産業連関を図る、産業の6次産業化をやらないといけないというが、 誰が推進するか、「誰が」といったときに、このDMOが機能していくのだと思っている。


DMOは観光協会の機能強化
大社:DMOの議論は地域で頑張っておられる観光協会の皆さんからすると、「じゃあ、DMOは別につくるの?」「わたしたちはどうしたらいいの?」とか、 観光協会の皆さんはDMOをどのように捉えて考えていったらいいのか、日本観光振興協会では、どういうふうに考えているのか。

見並:全国の観光協会の方々に会員になっていただいて、一緒になって観光立国を実現しようというのが私ども日本観光振興協会だ。 今の質問に端的に答えれば、DMOは全く別の組織ではなくて、観光協会や観光連盟といった組織がどれだけパワフルになっていくか、どれだけマネジメント力を身につけて、 地域にある一次産業事業者の方や二次産業事業者の方をパートナーとして、地域が元気になるための手段として巻き込んでいけるか、ということだと思う。 広域観光ルートをつくらないといけないとなれば、ドイツでもオーストリアでも、DMOとして最適な効果を出すために連携、合併してパワフルな組織になっていくという変遷を経ていることは事実だ。 DMOという組織は全く別個にあるのではなく、観光協会が本来ずっと続けてきた地域の魅力のプロモーションや、また地域の観光資源を見いだしていくことを、 極めて合理的に、そして科学的に推進していくことなのだろうと思う。


足りないのは自らの目標設定・共有と実現するための事業戦略
大社:観光庁でも国内の調査ならびに海外の調査をしている。国内では、観光協会自治体向けアンケート調査を実施した。 海外ではUNWTO、ならびにDMAI(*5)というアメリカのDMOのネットワーク組織の調査を比較する。事業内容では両方とも最も力を 入れているのはPRやプロモーションだ。とこが、戦略策定やマーケティング調査は日本ではあまり重きが置かれていないといわれている。 先ほど伊藤補佐官のお話にあった地域経済における観光のインパクトを把握しているかというと、把握しているところも極めて少ない。 事業計画における目標設定も、明確に設定していないところが7割、これが日本の現状だ。見並理事長、取組内容も含めて事業内容がちょっと違うといえそうでは。

見並:そのとおりで、一番大事な事業戦略を策定していない。マーケティングやマネジメント機能をもつならば、何より大事なのは自分たちの組織が何を目標としてやっていくのかということだ。 その意味で、先ほどのアルゴイ・チーズ街道協会の目標は明確だ。アルゴイ・チーズ街道とは一つはツーリズムルート、いろいろな切り口はあるが、きちんとしたツーリズムルートだ。 もう一つはそこで生まれるチーズの品質、干し草から取れた牛乳でつくるおいしいチーズ、そのブランドの確立と維持、三つ目は、このアルゴイ地域を持続的に強化するコンセプトだ。 そのために何をやるかということが、きちんと明確になっている。
大社:地域で共有されている。
見並:そこが大事だ。私は、今の観光協会でもDMOに取り組むことができると思う。「アルゴイ・チーズ街道協会」の創設をみると、アルゴイ・チーズ街道という観光街道が1番目のツーリズムルートで PRし始めたのは1996年。ところが協会として組織が立ち上がったのは2007年、まさに10年以上あとだ。私ども観光協会はこれまでPRや魅力の掘り起こしに取り組んできたが、アルゴイ・チーズ街道がマーケティングや マネジメント機能を持った組織に変わるのに10年かかっている。 日本では始まったばかりだがさらに早いスピードでこれと同じような組織へと変わっていくのではないか。 アルゴイというのは、ドイツの一番南の小さな地域だが、この地域の景観を守るためにツーリズムと、美食と、チーズのブランド化を やっていこうというのが目標となっているチーズ街道DMOであり観光協会だ。そういった意味で、日本にも適用可能なモデルではないかと思う。

大社:特にナパでも、地元のワイナリーいわゆる一次産業事業者との連携は非常に重要なポイントになっている。

伊藤:全くそのとおりで、ワインだけでは駄目だ。ナパのDMOのCEOのグレゴリー氏は掛け算が非常に重要なのだと言っていた。 ナパのおいしいワインに地産地消を掛ける。地元の農産物を星付きレストランのシェフがおいしい料理、その食事にあったワインを提供する。 そしてスローライフという憧れのライフスタイルを提供していく。その中で地域の付加価値は上がっていくという、しっかりした戦略がある。 自分たちの魅力にどういう価値があるのか、つまり価値の磨き方の方向性が非常にしっかりしていて、それが単発ではなく、いろいろな要素を組み合わせて掛け算して、 よりその価値を向上させていく。そこに工夫がなされている。もう一つ、ワインをつくるのと同じぐらい情熱をかけて、マーケティングをしている。 ここにもナパのブランド力を強化してきた、みんなが豊かさを感じるまちづくりを進めてきた大きな秘訣(ひけつ)の一つがあるのではないか。

事業戦略策定のためのマーケティング予算が少ない
大社:地方公共団体の観光関連予算の使途を見ると、都道府県単位では1位は観光施設の整備・管理の委託、2位が補助金、3位が国内PR。国内・海外ともにマーケティング予算が極めて少ない状況だ。

見並:これは、課題というより観光立国の実現のため、もしくは地方創生のために、伸びしろだと思っている。 実際、既存の観光資源でプロモーションをするだけではもう駄目だということは皆さん気付いている。 マーケティングとはいっていないが、実際にはマーケティングの議論をスタートしているわけで、そういう意味で、私は伸びしろの数字であると思う。
伊藤:ナパの場合は人口が14万人でDMOは6億円から7億円の予算を持っていて、そのうちの約3分の1をマーケティング予算に充てているということだ。 マーケティングの重要性を十分認識している。その上でKPIを設定し、PDCAサイクルを回し、成果が出るようなマネジメントを実行していることが極めて重要だ。 それはこれから議論になる安定的な財源を確保するためで、ここが大きなポイントだと思う。
大社:ナパのケースでは34%はブランドマーケティングの予算だ。マーケティングだけが成功要因というわけではなく、因果関係は複合的だと思うが、 かなりの予算をかけてマーケティングをおこない成功に導いている。

専門性の高い組織が意思決定にかかわる
大社:次に組織とガバナンスの視点で日本の観光協会、観光行政の仕組みとDMOを検討する。 予算規模は日本と海外では大きな差はないが、地方公共団体に来る観光部署の職員の平均経験年数が2年だった。
伊藤:2年から3年で観光政策を実行できるかというと、なかなか難しい。アメリカの場合は観光政策を担う方々も、プロフェッショナルな人材を集めている。 プロフェッショナルな方々は地域の中で信頼を得て、合意形成を進めていくにあたってもキーになれる。地域の中の信頼をつくり上げ、一体感を持って多くの方々の 理解をいただきながら、観光政策を進めていくため、担当者が専門性と責任を持った取り組みができることが、重要だ。
大社:見並理事長、地域の人材については
見並:最大の問題はここにあると思う。DMOの議論を進めていく、実践していくとき、DMOの果たす大きな役割はその地域の人材をきちんと育成してゆくことだと思う。 それも単なるおもてなしや観光政策ということだけではなく、ものづくりや他の産業でも必要とされているマネジメント力や、マーケティング能力を一気に地域に入れていくために、 ITの活用、IOTの活用というような、IT技術を駆使できる人材の育成や研修が必要だと思う。
大社:これは観光協会の正規職員の平均年収だが、200万円から300万円未満が最多、過半数が400万円未満になっているところが現場の実態だ。 いい人を採ろうとするとそれなりの給与も必要になってくる。アメリカのCEOの年収はかなり高給では。
伊藤:CEOの年収をあまり教えてはくれないが、公開データを見るとCEOの報酬は2000万円から4000万円だ。
大社:つまり、プロ中のプロを引っ張ってきている。
伊藤:そのとおり。それだけに成果を出しているし、成果を出さなければクビになる、その関係が非常にはっきりしてる。 プロのチームを編成して、十分成果が出せるような組織体になれるかということが大切だ。
大社:この一覧表は推進体制比較だ。一番右にあるのが日本、一番左がアメリカの西海岸の幾つかのエリアで、アメリカが全てこうだというわけではない。 中央にあるのがヨーロッパのドイツやスイスの体系。どちらかというと民間主導型のアメリカタイプと、地方自治体主導の日本型の体制で、 日本では結果的に平均在籍期間が約2年間の自治体の方々が意思決定を担っているということだ。見並理事長、このあたりの実態からどうか。

見並:職員の数や賃金・報酬の問題、誰が意思決定をしていくのか、そういったものは皆、リンクしている。 そういった組織が、どのようにやるのかではなくて、何をやるのかということを明確にすれば、当然それを担える人材が生まれてくるし それに対する給与がリンクしてくるが、課題はそういう絵柄にどう転がしていくかということだ。 まさに地方創生のそこが勘所ではないか。日本版DMOをつくり上げていくという国家戦略の中で、今はとにかく三すくみになっている。 私は少し楽観的かもしれないが、それが解決の方向に転がしていけるだろうと思っている。そのために最初に何が必要かというと、人材育成、広域連携、産業間連携である。 こういうことを地域の人がきちんと理解していく広報・啓発活動というのも非常に重要なことではないか。
大社:伊藤補佐官、今の話は。
伊藤:関係者の方と話していると、行政には限界があり、観光については素人だという。だから本当に観光のことを知っている人が責任を持って観光政策を立案し、実行していくことが極めて重要だ。 ただし、公的なお金を使うのであればガバナンスが非常に大切で、アカウンタビリティー、説明結果責任を果たせる仕組みをしっかりつくり上げて、地域の中の信頼を勝ち得ることが非常に大切だ。 だから優秀なCEOは取り合いだ。ただ、関係者に聞いてみるとDMOが本当に機能したのはここ5年ぐらいだということなので、新たな取り組みとして、いかに日本の中で根付かせていくかというのが我々の課題だと思う。
大社:日本では観光協会でも権限は行政にかなりシフトしており、専門性は行政も観光協会も低い。アメリカではDMOがかなりの権限を持ち、専門性もあり、その分、報酬もあるけれども結果に対して責任ももつという構造。 このあたりも含めて体制を考えていかなければいけない。

マーケティングと観光地マネジメントを担うのは誰か
大社:最後に、マーケティングや観光地マネジメントの機能を観光協会等に持たせる、これはどうかと聞くと結構賛成の意見が多い。これはDMOの議論に追い風になると思う。

伊藤:すごくありがたい。ただ、DMOという組織をつくれば全てうまくいくわけではないので、DMOを通じてどういう機能を根付かせていくのか、 それが観光を通じて地域を元気にしていくことにつながるのか、そこがすごく大切だと思う。大社:見並理事長、DMOはつくればいいという話ではない。
見並:全くおっしゃるとおりで、マネジメントの機能を観光協会に持たせることについては、遠い未来の話ではなく、具体的に明日あさっての話なのだと思う。 少なくとも2000万人が外国からみえて、地域に行っていただかないとキャパシティー、需要と供給のバランスが崩れる。 一刻も早く地域にマネジメント能力を持った組織が必要だということになれば、観光協会がその機能を十分担えるようにしていくことが我々の役目だし、 当事者として地域の方々がそれに対して大変力強い意見を持っているというのは、本当にうれしく、力強い。
大社:一方で財源問題という最も重要な課題もあるが、これには今後取り組んでいかなければいけない。最後にお二人それぞれから、 DMOの形成において、これを大事に考えていく必要があるということを、一言ずつ。
見並:人材の育成が何よりだと思う。
伊藤:私も同じで、人材の育成が極めて重要だと思っている。アメリカではDMOの全米組織があり、そこでどういう人材育成をしているか、 そのプログラムは開示されていますから、ぜひ皆さま方にも提供していきたいと考えている。DMOをつくるガイドライン的なものを観光庁さんと協力して提供したいと思う。 またRESAS(リーサス)という地域経済分析システムを通じて、携帯電話の位置情報を皆さま方にも提供しているので、観光を通じた見える化をかなり感じていただくこともできている。 そして、新型交付金という形で観光協会の機能強化、DMOの組織づくりを財政的にも後押ししていきたいと思っている。DMOはどういう機能を果たせるのか、 どうやったら自分たちの地域が観光を通じて元気になれるのかと、そういう思いを持ちながら興味を持って取り組んでいただくことができればと思う。

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*4 TID:Tourism Improvement District (観光産業改善地区)は、アメリカで、観光振
  興に対する地元政府による財政支出の削減・不安定化を背景に、地域の観光プロモーション
  活動等にかかる地域財源の安定的な確保を目的に創られた仕組み。
  詳しくは、「日本版DMO形成・確立に係る手引き」(観光庁、平成27年11月)105pを参照
*5 DMAI:Destination Marketing Association Internationalは、アメリカのDMOを中
  心とする、DMOの世界的な団体。世界のDMOの専門性、有効性、重要性を高めることをミッ
  ションとしている。

 

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