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 シンポジウム講演録

2012.11.02

「観光地・事業者のマーケティング&プロモーション」セミナー in 北海道


北海道といえば、大自然の中で楽しむアウトドア。自然体験事業者も多く、着地型旅行商品づくりの先駆的地域です。その北海道の地で、事業者および地域が観光地域づくりを進めていく上で必須の、また、現在の観光地域づくりに最も欠けていると言われている分野である「マーケティングとプロモーション」について特化したセミナーを、去る11月2日(金)、北海道運輸局会議室にて開催いたしました(主催:観光地域づくりプラットフォーム推進機構/社団法人日本観光振興協会、共催:北海道ランドオペレーター協議会、後援:北海道運輸局/北海道/社団法人北海道観光振興機構)。 

会場には、事業者・実践者の皆さまを中心に、定員を超えた約60名にお集まりいただきました。講師陣の具体的で熱のこもった実践的なお話に、ご参加の皆さまの真剣さが呼応した、大変充実したセミナーとなりました。


▼プログラム

■主 催  社団法人日本観光振興協会/観光地域づくりプラットフォーム推進機構
■共 催  北海道ランドオペレーター協議会
■後 援  北海道運輸局/北海道/社団法人北海道観光振興機構
■日 時  平成24年11月2日(金)13:15~17:30  
■場 所  北海道運輸局 8階 会議室 北海道札幌市中央区大通10丁目札幌第2合同庁舎
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■次 第

13:15 開 会
主催者挨拶 長嶋  秀孝(社団法人日本観光振興協会常務理事)
来賓挨拶  井上  健二(北海道運輸局企画観光部部長)

13:20 趣旨説明
大社 充 (PF機構代表理事/NPO法人グローバルキャンパス理事長) 

13:30 課題提起
『北海道の観光地域づくりプラットフォームの現状と今後の展望』 
林 克郎(株式会社HKワークス代表取締役/北海道ランドオペレーター協議会代表)

14:00 事例紹介1
『ニセコにおける地域と事業者のマーケティング&プロモーション』 
木下 裕三(株式会社ヤマト代表取締役/元有限会社ニセコアドベンチャーセンターゼネラルマネージャー)

14:45 事例紹介2
『着地型商品のマーケティング&プロモーションを成功させる鍵』 
田村 孝次(株式会社エコビジョンブレインズ代表取締役/推進機構理事)

15:40 パネル討論
【パネル討論テーマ】 
・着地型商品のマーケティングとプロモーションを考える
(パネリスト)
木下裕三(株式会社ヤマト代表取締役/元有限会社ニセコアドベンチャーセンターゼネラルマネージャー)
小林 功(株式会社函館観光コンシェルジュセンター事業部長/推進機構理事)
田村孝次(株式会社エコビジョンブレインズ代表取締役/推進機構理事)
林 克郎(株式会社HKワークス代表取締役/北海道ランドオペレーター協議会代表)
(コーディネーター)
大社 充(NPO法人グローバルキャンパス理事長/推進機構代表理事)

17:30 閉 会


▼主催者挨拶:日本観光振興協会/長嶋秀孝常務理事 

開催にあたり協力・後援いただいた関係各機関への謝意と共に、このセミナーでちょうど設立1年を迎える観光地域づくりプラットフォーム推進機構(以下、PF推進機構)の今後の方針について述べました。


▼来賓挨拶:北海道運輸局企画観光部/井上健二部長 

観光資源も人材も豊富であり、魅力的な着地型プログラムも多いにもかかわらず、十分に活かしきれていないという北海道の弱みの要因の1つがマーケティング&プロモーションであることに言及し、本セミナーへの期待を語っていただきました。


▼開催趣旨・PF推進機構について:大社PF機構代表理事 

全国各地で着地型旅行プログラムがつくられ販売されているが、販売に苦慮している、あるいはビジネス化できないといった現場の声が多いこと、また、着地型観光事業のはしりとも言える全国約4000の自然体験学校のうち自律的経営が出来ている団体が限られるといった現状をもとに、今回のセミナーでは着地型商品を造成・販売し、事業としても成功している事例を通して、「事業者」と「地域」という2つのマーケティング&プロモーションについて議論をしていくことが確認されました。

・個々の事業者のマーケティングとプロモーションはどうあるべきか。
・地域全体をマーケティング&プロモーションする機能を、いかにしてDMOの中に組み込んでいくか。

また、全国にまだ実践例が見当たらない「地域のマーケティング&プロモーションの研究」が、PF推進機構(DMO推進機構)の活動目的の1つになっていることにも改めて触れました。

【問題提起】

まず最初に、㈱HKワークス代表取締役/北海道ランドオペレーター協議会代表の林氏から「北海道の観光地域づくりプラットフォームの現状と今後の展望」と題して、道内の多くの着地型観光事業者が抱える「悩み」を含めた問題提起が行われました。

『北海道の観光地域づくりプラットフォームの現状と今後の展望』 林 克郎 氏 

デンマークと同じ面積という広大な北海道には、地域資源を使った数多くの着地型商品がある一方、その広さゆえ各地域の魅力を伝えきれないといった課題もあります。その問題意識から、道内で着地型旅行事業に携わる有志が連携・協働して課題解決にあたることを目的に設立されたのが、北海道ランドオペレーター協議会(本部/HKワークス)です。まだできて3年ながら、会員数は48(平成22年)から52(平成23年)に増加、着実に活動を広げてきています。

情報を一元化して分かりやすく発信し、大手旅行会社とも役割分担してwin-winのモデルをつくろうと、地元の事業者の相談窓口に乗り商品づくりを支援し、できた商品を観光客に直接、あるいは大手旅行会社に売るといったコーディネートをしています。Webサイト「体験観光の自由市場」も立ち上げ、今後はネット上でも積極的に商品を販売予定。人材育成や収益アップなどの悩みを抱えつつも、会員同士のコラボレーションから、はまなす栽培農家のハマナスバスツアーや、電力不足の昨夏に開催した送電マンと送電線を辿るツアーなど、手ごたえのあるユニークな企画を打ち出しています。

林 克郎
㈱HKワークス代表取締役、北海道ランドオペレーター協議会代表。昭和55年東急観光(現:トップツアー)入社、平成4年からはサッポロビール開発(現・恵比寿ガーデンプレイス)にて「サッポロファクトリー」への市民・観光客誘致セールスを14年間担当。平成18年㈱HKワークス設立、「まだまだあるぞ北海道!北海道の観光を元気にしよう!」をテーマに、少人数でこだわりのツアーを企画。全道各地の仲間とのネットワークを活かして、着地型観光のパイオニアを目指し活動中。


【事例紹介】

続いて、マーケティング&プロモーションの実践で実績を上げているお2人より(㈱ヤマト代表取締役/元有限会社ニセコアドベンチャーセンターゼネラルマネージャーの木下氏、㈱エコビジョンブレインズ代表取締役/PF推進機構理事の田村氏)から実践事例が紹介されました。

『ニセコにおける地域と事業者のマーケティング&プロモーション』 木下裕三 氏 

バブル経済崩壊後、スキーブームが去り衰退していたニセコエリアに変化をもたらしたのは、平成7年、NACのロス・フィンドレー氏がボート1艘から始めたラフティングでした。ラフティングは、ドライスーツの導入により夏季だけでなく春・秋も可能な商品となり、今や町に大きな経済効果をもたらす商品となっています。

木下氏は、元広告マン。全国公募でニセコリゾート観光協会事務局長に転身し、旅行業第2種の資格も取って着地型旅行商品を造成・販売するも思うように売れず、現実の厳しさを実感します。しかし、平成19年から4年間兼務したNACにて本領発揮。NACの活かされていなかった顧客データ(ローデータ)を分析・加工して、①ニセコ(ニセコの近隣町村)、②札幌圏を中心とした道内、③道外、④海外の4エリアに分け、「年間」と「直近」の2つの考え方で戦略を立てて広告宣伝に活用し成果を上げてきました。

5年程前に誕生した会員が出資する「ニセコプロモーションボード」をニセコエリアのプラットフォームとしての機能を持たせていこうという動きがあるそうです。

木下 裕三
㈱ヤマト代表取締役。東京で広告会社勤務を経て、平成14年、全国公募でニセコ町の観光協会事務局長に着任。翌年、全国初の観光協会の株式会社化となる㈱ニセコリゾート観光協会を設立。その後、エリアマネージメント会社㈱ヤマトを設立。平成19年から4年間、観光カリスマであるロス・フィンドレー氏が経営するアドベンチャー会社㈱NAC(ナック)のゼネラルマネージャーを兼務。現在はニセコのネットワークを活かし、エリアのコーディネート事業に取り組んでいる。

 

『着地型商品のマーケティング&プロモーションを成功させる鍵』 田村孝次 氏 

1998年から富士山の麓の川口湖畔にて自然資源を活用した観光振興事業を行い、経常利益47.6%という実績を上げているエコビジョンブレインズ。同社の主な事業は40種類ほどの野外活動プログラム(カヌー、バギー、マウンテンバイクなど)の提供です。年間の利用者数は3万人。従業員9名(うち実働5名)で1億円を売り上げています。驚いたことに、同社の広告予算はほぼゼロ。徹底的にムダを排除した結果、2年に1度作成するパンフレット3000部の予算30万円のみ(2年間で)、営業担当も置いていません。

成功の鍵は、「話題性」です。典型的な例として、同社の「犬と一緒に乗るカヌー」という大ヒット商品を紹介。ペット需要の増加を背景に、珍しいプログラムとして愛犬家専門のメディア(約20社)がこぞって取材・掲載。それが15年間続いており、首都圏を中心に、確実に売りたい相手に情報を届けることができていると言います。

田村氏は、また、媒体ツール制作の際には、企画段階から売る相手を絞り(配布・設置先も考慮)、対象ごとに内容・表現を変えることの重要性を指摘しました。

田村 孝次
㈱エコビジョンブレインズ代表取締役。イギリスでの自動車関連会社経営から一転、「自然の中で仕事がしたい」と1年間、カヌーを中心とした野外での体験学習の候補地を探し続け出会ったのが、富士山麓の河口湖。1988年に会社を設立、観光や教育旅行で訪れる年間3万人に野外プログラムを提供、安全な野外活動事業の普及に努めるとともに、エコツーリズムの安全対策のコンサルティングや地域の自然資源を活用した観光振興等の支援やコンサルティングを展開している。

 

【パネル討議】着地型商品のマーケティングとプロモーションを考え


パネル討論では、先の講師3名に加え、函館観光コンシェルジュセンター事業部長の小林氏もパネリストとして登壇。大社充PF推進機構代表理事(NPO法人グローバルキャンパス理事長)のコーディネートのもと、前段の問題提起や事例を踏まえ、議論を深めました。

小林 功
㈱函館観光コンシェルジュセンター事業部長、Area Tourism Agency はことれ代表。1991年函館にて旅行会社を設立、海外旅行におけるランドオペレーションの手法を学ぶ。2003年、「地域資源を磨いて観光資源へ」を理念に、はこだてトレジャーアイランド(はことれ)にて個人旅行対象者に「地域の達人」をフィーチャリングした「オプショナルプラン」を企画実施。2011年㈱函館観光コンシェルジュセンター設立。地域プラットフォーム形成および商品化のサポート、広域の観光商品流通ネットワーク形成し、着地型商品を宿泊施設で販売するネットワークづくりを進めている。

 

≪都市部からアクセスが悪い辺鄙な地域で着地型商品を販売・集客するには?≫
●たとえば、公共交通機関の不便な群馬県の猿ヶ京温泉は、向こう1年間予約で埋まっている。やはり商品の魅力につきるのではないか(田村)。
●ニセコで夏が盛り上がってきたのは、“冬のニセコ”という下支えがあったから。遠隔地の田舎でまったくの新しい商品をしかけるのはリスク大。下支えのある事業に乗せるほうがいい。また、急激なブームはいずれ去るので、中長期的に見ていくことが必要(木下)。
●たとえ辺鄙な場所でも、時間はかかるが、方向性が間違っていなければ売れる商品をつくることは可能(林)。

 

≪常に新しいニーズをどうやって探していっているのか?≫
●顧客にアンケートを取るなど声を収集しそれを分析、商品化している(林、田村)。
●客観的データも必要だが、商品に最後に命を吹き込むのは「人」。ある程度思い込みもあっていいと思う。常にお客さまに接しているガイドや営業から声、要望を聞くことも大切(木下)。


≪地域のマーケティング&プロモーションをどう進めていくか?≫
●日本で最もすぐれた集客装置はTDR(東京ディズニーリゾート)。この組織が当たり前に行っているマネジメント、マーケティング&プロモーションといった機能が、地域の中には圧倒的に欠けている。そこからプラットフォーム(DMO)の議論が出てきた。行政準拠型の日本の観光の仕組みを再編し、マーケット志向型に変え、顧客を向いたプラットフォームをつくらなくてはならない(大社)。
●まさしく、函館ではその仕組みづくりを進めている。ようやく広域プラットフォームとして旅行業の免許を取得した。やる気ある地域を見つけ、そこを中核にプラットフォームを形成し、行政も支援していく仕組みをつくりつつある(小林)。
●ニセコのプロモーションボードは、関係市町村の利害など「壁」も多く、現在合意形成の途上だ(木下)。
●北海道ランドオペレーター協議会も、広域プラットフォームを目指して活動している(林)。
●たとえば、地域の各宿のオーナーたちは自分の顧客を知っている。だが、それが「地域」になったとたん、顧客が誰なのかわからなくなる。「地域」という括りでもデータをとり、カテゴリーを分けて顧客を知ることだ。今後は、商圏や入込数を分析して、資源や商品の価値を高め、観光戦略を立案していくことが必須となる(大社)。

質疑も活発に行われました。ディスカッションで出た、主な質問は次の通りです。

「ニセコ、河口湖での環境保全への取組み・維持について。地元自治体との関係は?」
●環境に関しては、ニセコ町では取水や土地の開発など、かなり厳しくコントロールしている。景観法、まちづくり条例もある。かつて観光事業者は山側、非観光事業者は街場と分かれていたが、ある時から融和し、今では良好な関係だ。移住人口も多い(木下)。
●河口湖は、箱根、富士山国立公園であるため開発は厳しく制限されている。また、もともとアンチ開発の風土があった。民間の有志の間には横のつながりもあり、自らガイドラインをつくるなど意識も高い。問題は新規参入事業者だ(田村)。

「カヌー犬養成講座について。営利目的で動物を扱うことに、何か資格が要るのか。また保健所が立ち合うようなこともあるのか?」
●まったくない。動物愛護法は販売店だとか飼育者が対象(田村)。

「エコビジョンブレインズは、地域の宿泊施設、地域とはどのような連携をしているのか?」
●1件のホテルで行っている夕食後のエコちびイベント(40分間)が好評。1ヵ月30万円を売上げている。食事をしてお風呂に入るまでの1時間に何かできないかとのホテル側の依頼に応えたもの。宿へのアプローチは何度も失敗してきたが、これが成功したのは短時間の軽いプログラムであったことだと思う(田村)。

「近年、教育旅行に農業体験+αのニーズが高い。ありがたいが、受け入れ側の農家の数が学校側の数に合わずに断ることも。農業体験プログラムの年間実績はどのぐらいか?」
●農業体験プログラムは、意外と簡単そうで大変。うちには自慢できる実績はない。いろいろと取組んではみたが、やっても収益は見込んでいない(田村)。
●ニセコには農業、漁業、酪農体験で年間6千人を受け入れている「野外活動マルベリー」という団体がある。修学旅行生を主な対象に4月~11月まで受け入れ、収穫だけに限らず、農家の労働に合わせてさまざまな作業をさせている。地域内の数十件の農家と契約しており、1回に400人の受入が可能。漁協とも契約して、漁船への乗船体験、ホタテ剥き作業なども行っており、教育旅行にひっぱりだこだ(木下)。

コーディネーター・大社PF推進機構代表理事のコメント
≪これからの観光には地域のマーケティングとプロモーションが必須≫



地域のマーケティングの目的は、客観的事実に基づき現状を把握することだ。これまでは顧客を十把一絡げにしてきたが、たとえば20万人の顧客がいれば20万人全て違う顧客だと理解すること。まずは、「地域として」きちんとお客さまのことを知ることが第一歩である。

売れる着地型商品をつくるためには、地域資源を顧客のカテゴリーごとに編集が必要。実は、我々(NPO法人グローバルキャンパス)の滞在型野外プログラムで全国的に評価の高いアウトドア事業者にガイドをお願いしたところ、ものすごく評判が悪かった。子ども対象の商品のみ扱う事業者であったため、我々の顧客であるアクティブシニアには、言葉使い、服装、コース、資料、全てが合わなかった。顧客が違えば商品を変えなければならないことを示す例である。

資源の価値を高めて、適切なマーケットに対して訴求し、その先に地域の未来を考える。それはマーケットにおもねることではない。自分たちにとって意味のある顧客は誰なのかを考え戦略を立てることである。

そこで生み出したい成果は次の4つ。①新しい客を増やす、②リピーターの育成、③来訪者の滞在時間を延ばす(=滞在時間増加による消費額を増やす)、④滞在時間あたりの消費単価を増やす。つまり、来訪者の消費行動を動機付けて地域におカネが落ちる仕組みをつくること。また、地域内で提供する商品の地域内調達率を高め、地元調達率の高い商品の売上を増やし、地域の中でお金を回していく。さらに、来訪者の情報を地域に還元し、新たな商品開発につなげていくことが必要となる。

これらが最低限やるべきこと。そのために必要な調査は外部発注するまでもなく、おカネをかけずに土日で可能だ。自分たちで調査・分析・評価・共有して具体的取組みに向けてプロジェクトを立ち上げる。マーケティングに基づく=客観的・科学的な根拠のあるデータを取って共有することで、地域の合意形成も格段にラクになるはずである。