公益社団法人 日本観光振興協会

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2020.01.28

【第26回】DMO先進事例に学ぶ
ケース22:一般社団法人佐渡観光交流機構(地域DMO)

毎年9月に佐渡全域で開催される佐渡国際トライアスロン大会
毎年9月に佐渡全域で開催される佐渡国際トライアスロン大会


佐渡には歴史、文化、産業、レジャーなど多種多様な資源があります。その資源を生かし、長期滞在型日本リゾートとして地域をつくり上げようとしているのが地域DMOの佐渡観光交流機構です。2004年に全島10市町村が合併して「佐渡市」一市体制がスタートし、2018年に本DMOが発足しました。島全体を一つの「佐渡國」として、資源を生かした観光まちづくりを展開し始めています。
●佐渡のダイバーシティを生かす地域づくり
 佐渡市は新潟県沖にある佐渡島すべてを市域とする、人口約5万5000人の島です。日本の縮図といわれるほど多様な地域資源を持ち、近年は佐渡金銀山の世界文化遺産登録への期待も高まっています。しかし、これまでその資源を効果的に生かす観光施策が打ち出せないでいました。観光入込客数も1991年の120万人をピークに、近年はほぼ50万人で推移しています。
 そうした中、地域経済の活性化、産業強化に結び付けるため、2018年4月にDMO(一社)佐渡観光交流機構が発足しました。
 ここへ2018年6月に専務理事兼マーケティング部門責任者として就任したのが清永治慶(きよながはるのぶ)さんです。全国各地のスキー場の立て直しで発揮したマーケティングの手腕と指導力を、佐渡でも生かすことが期待されています。
「私の仕事は業務執行の流れをつくることと、ここにある資源を掘り起こし、コンバイン(統合して一体化)することです。CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント=顧客関係管理)を行い、顧客の隠れたニーズを見つけ出し、つなぐことで新しい価値を持たせたいと考えています」
 佐渡が世界中の観光客を惹きつけ、世界の一流リゾート地と競えるようになるため、清永さんたちは過去の観光施策を見直し、観光関連産業の集積と投資誘導などを図る観光視点からのマスタープランを作成しました。観光人口を2025年には70万人に、関係人口を2030年に100万人にすることを目標にしています。

専務理事兼マーケティング部門責任者の清永治慶さん
専務理事兼マーケティング部門責任者の清永治慶さん

●マスタープランで地域の強みとエリアの目指す方向性を規定
 マスタープランの表紙には、「日本の良さがここにある Japan in One Place長期滞在型日本リゾート 佐渡國」と銘打たれています。佐渡島を1つの国と考え、統一的なコンセプトと地域の一体的な取り組みであることを前面に出しています。
 佐渡島全体は文化的に特徴のある4つの地域に分かれています。2004年に全島挙げて1市に合併したことを契機に、島全体が1つという意識が強まりましたが、4つの地域の特徴も生かすことにしました。
 マスタープランによると、佐渡の強みは「多様な地域資源」「ちょうどいい利便性」「島ならではのおもてなし」「ゆったりとした島時間」です。「ちょうどいい利便性」とは、離島であるが適度に便利さと不自由さが調和し、日常からの解放とくつろぎを感じられること。「ゆったりとした島時間」とは、ゆっくりと流れる佐渡の島時間の中に身を置き、ストレスから解放されること。「ゆとり」を求める顧客層に向けたコンセプトが盛り込まれています。
 旅行商品企画のターゲット層は「口コミ力があり、海外旅行に行くことができるゆとりある層」と設定しています。①佐渡の歴史や自然、文化などに興味を持つ「富裕層」、②歴史や文化に意識が高く、アーティスティックな感性を持つ「意識の高い若年層」、③現在のアクティブ旅行者の中核をなす「団塊シニア」が主なターゲット層となっています。
 また、佐渡のコンテンツは歴史や自然、食、酒と多彩で外国人富裕層の興味も引くと考えています。
 さらに4つのエリアの特徴に沿って、それぞれの特色を生かした方向性が考えられています。
「佐渡には多様な資源と時間がゆっくり流れるゆとりがあります。これらによって『暮らすように旅する』ツーリズムが実現できるようにしたい」と清永さんは語ります。

4つのエリア

●「さどまる倶楽部」で個人ネットワークを広げる
 佐渡市には以前から「さどまる倶楽部」という準市民会員組織がありました。会員数は約1万8000人で、この種の組織としては全国最大規模といわれています。現在、その運営を佐渡観光交流機構が行っており、2025年までに10万人に増やそうと取り組んでいます。
 これまで佐渡市では、高校卒業を機に島外に出る人が数多くいました。島外に出た人も昔は正月やお盆に家族を連れて帰省していましたが、近年はその数が急速に減っていることがCRM調査で分かりました。
 佐渡観光交流機構では、ここにマーケットが存在すると捉えており、元島民たちを通して個人旅行者数を増やし、商品販売の拡大につなげたいと考えています。実際に「さどまる倶楽部」の会員には都市部に移住した元島民が非常に多く、元島民の縁から広がって加入した人も増えています。こうした少人数のマーケットではマスコミによる広告宣伝よりも口コミの方が効果が高いのです。高額な商品を購入する際には、多くの人が品質の高さの保証を求めるからです。
 以前ほど帰省できなくなった島外の家族・親戚たちにもう一度佐渡を思い出して佐渡の良さをPRしてもらい、信頼性の高い情報拡散システムが成立すれば、価格の高い旅行商品も販売できる可能性があります。佐渡に縁のある人が仲立ちとなる「さどまる倶楽部」はまさに少人数のマーケットに最適の組織といえます。

箱庭のような景勝地の矢島・経島
箱庭のような景勝地の矢島・経島


島開きの4月15日には約40の集落で鬼太鼓が登場
島開きの4月15日には約40の集落で鬼太鼓が登場


現在も約460枚の棚田が残る岩首昇竜棚田
現在も約460枚の棚田が残る岩首昇竜棚田


トキの国内最後の生息地として知られる佐渡
トキの国内最後の生息地として知られる佐渡

●二次交通とナイトツーリズム
 新潟市から佐渡島の両津港へは、約2時間30分かかるカーフェリーが1日5往復、約65分のジェットフォイルが1日7往復出ています。アクセスはよくなりましたが、島内の二次交通には多くの問題が残されています。島民の足は主に自家用車で、人口減少や少子高齢化の影響で路線バスの本数は減少が続いています。
 そこで個人観光客の足として考えられているのがグリーンスローモビリティの導入です。これは、時速20km未満で公道を走ることができる4人乗り以上の電動モビリティと規定される車で、ゴルフ場の電動カートのようなものから、10人以上が乗れるものまであります。この車を高齢者と観光客向けの交通整備に活用できないかと構想しています。
 また、自動運転の実証実験やクリーンエナジーバスの導入なども進めています。自動車自動運転実証実験はミニバンとSUVの2車種で同時実施が予定されており、金銀山の世界遺産登録を念頭に置き、2019年を実証実験期、2020年を事業準備期、2021年以降を運用準備期としました。
「二次交通の整備は地域の大きな問題です。例えば世界文化遺産への登録を目指す佐渡金銀山周辺でも、旅行客が急増した時の渋滞対策や環境整備がまだできていません。過去には対応の遅れから遺産地区周辺の空地がほとんど青空駐車場になって、総合的な地域環境整備ができなくなり、結果として数年で観光客が激減するという事態がありました。今まさに、総合的な二次交通環境整備を行わなければならない時期だと考えています」と清永さんは警鐘を鳴らします。
 その他にもシェア自転車や佐渡版Uber の導入なども進めています。
 また、夜間観光へのニーズが高まる中、「ようま観光」と名付けたナイトツーリズムにも取り組み始めました。「ようま」は佐渡の方言で「夜」を意味します。佐渡に1200ほどある民話や伝承のゆかりの地を巡り、地産の食材やお酒、最先端の映像や演出を味わえる観光です。提灯を持って夜の棚田で撮る写真はとても“インスタ映え”すると清永さんは話します。

●CRMを活用し、地域アイデンティティを育てる
 佐渡観光交流機構は現在、総務部、マーケティング事業部、旅行事業部の3部門からなり、総勢22名が勤務しています。
 地域の資源を掘り起こし、お客さまのニーズを分析し、島外から新しい視点や人材を取り込む一連の流れを目指し、現在、佐渡観光交流機構ではマスタープラン作成をはじめとしたすべての活動がCRMデータに基づき、考えられています。データを分析し、つなげることで新しいニーズに合致した商品をつくり出すのがスタッフの大きな仕事となっています。
「DMOは外部からのさまざまな協力を必要とします。しかし、マーケティングとマネジメントができていなければ、自分たちの地域を説明できません。これが説明できていないところに、事業協力や資金投入をしてくれる民間企業はありません。裏返せば、それがきちんとできれば、信用が得られるということです」と清永さんは語ります。

風景

●これからの人材づくりと稼ぐ仕組みづくり
 これからの課題の一つは、行政に頼らない経済基盤の確保です。佐渡観光交流機構の運営経費は年間約4000万円。この分を利益として自力で確保することを目標に、旅行事業、シェア自転車、富裕層向け宿泊施設運営、地域通貨、さどまる倶楽部会員への通販事業などを展開しています。さらに、2025年を目途に、薄く広く、1人あたり50円程度の入島税の導入も検討しています。
 人材づくりにおいては、観光産業でもU・Iターン者を地域で独立できる起業家に育てていくことも重視しています。「稼ぐ企業」を育てるために、佐渡観光交流機構では、行政との連携の下、DMOの傘下にDMC(企業支援・地域支援会社)を置く予定にしています。DMCの中で具体的な体験を積ませ、独立できる企業に育つまで支援するのが目的です。地域づくりの可能性を引き出すことが、佐渡観光交流機構の役割の一つになっています。

(DMO推進担当から一言)
 佐渡には素晴らしい歴史や高度な文化が根付いており、これを十分に生かすことが重要だと清永治慶さんは語っていました。壊して新しいものをつくる必要はない。しかし、良いものに気づき、引き出してくれるのは島外の人だ、とも言います。「佐渡國」から見れば、本島の人も海外の人も同じ「島外」の人。島の内と外をつなぐ人材が、今後ますます重要な役割を担っていくと話してくれました。

〈DMOプロフィ-ル〉
地域DMO
一般社団法人佐渡観光交流機構

・設立 2018年4月
・所在地 新潟県佐渡市
・マネジメント区域 新潟県佐渡市
・代表者 本間雅博(理事長/佐渡連合商工会会長)
     清永治慶 専務理事
・連携する主な事業者
佐渡市産業観光部観光振興課、世界遺産課、地域振興課、交通政策課
・連携する主な地方公共団体事業者等
【島内】宿泊事業者、交通事業者、観光関連事業者、農業関連団体、商工関連団体、観光地域づくり団体などで構成する機構会員(約370団体)。
佐渡観光地域づくり推進協議会(佐渡農業協同組合、佐渡漁業協同組合、森林組合、商工会、青年会議所、文化芸能団体、ジオパークガイド協会、トレッキング協議会等で組織)の運営に関わる中で各団体との連携について検討を進める。
【島外】新潟市、上越市、長岡市等と連携して誘客・宣伝活動に取り組む。新潟県観光協会や新潟・佐渡観光推進機構株式会社と外国人誘客等に取り組む。

※DMO(Destination Management/Marketing Organization)とは、地域の「稼ぐ力」を高めるため、観光のマーケティングや商品開発などを一体的に進める組織。観光庁は日本版DMOの設立を推進している。

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