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2019.05.30

【第23回】DMO先進事例に学ぶ
ケース19:一般社団法人長野県観光機構
(地域連携DMO)


DMO形成支援センターを設立し、長野県内のDMOを支援

 首都圏から近く、リゾート地としても人気が高い長野県。その面積は全国第4位の大きさで、市町村数77は北海道に次いで2番目の多さとなっています。日本有数の山岳高原を有し、スキー場や温泉地、中山道の宿場町や国宝史跡など観光要素が多く、地域ごとに特色が異なる長野県で、どのように効率的なマーケティングやマネジメントを行うか。平成29年11月に日本版DMOに登録された長野県観光機構では、こうした意識のもと、観光地域づくりへの取り組みを進めています。

長野県観光機構DMO形成支援センター小林弘幸副センター長(左)と松本翔主任 長野県観光機構DMO形成支援センター
小林弘幸副センター長(左)と松本翔主任


●将来的な経営への懸念とDMOへの期待
 長野県観光機構の歩みは、昭和35年の(社)長野県観光開発公社の設立から始まりました。長野県観光開発公社は、市町村の観光施設を整備するハード事業で収益を上げ、その財産をソフト事業に投入すべく(社)長野県観光連盟と統合し、平成13年に(社)長野県観光協会が発足。さらに同協会は平成16年に(社)信州・長野県観光協会に名称変更し、平成25年には一般社団法人に移行しました。
 平成28年に日本版DMO候補法人に登録されたのち、(一社)長野県観光機構に名称変更し、平成29年11月に日本版DMOに登録されました。公益社団法人ではなく一般社団法人を選択したのは、長野県観光開発公社時代から続く収益事業の割合が高く、その財産を公益目的で有効活用した方がよいと判断したことが背景にあるといいます。

 長野県は平成26年10月、信州ブランド戦略の一環として、アンテナショップや観光情報センター、イベントスペースを含む「銀座NAGANO」を東京・銀座5丁目にオープンしました。テストマーケティングの場でもあるこの拠点を長野県観光機構で運営する中で、今後どうやって稼いでいくかが強く意識されるようになってきました。
「公益目的で事業を展開し、元々あった財産が徐々に減っていく中で、将来的にどう経営していくかが問われるようになりました。そのタイミングで出てきたのが、日本版DMOの制度でした」と小林弘幸副センター長(長野県観光機構DMO形成支援センター)。
 実は長野県では、DMOに登録する数年前から、新しい体制にして県と信州・長野県観光協会で役割分担して事業を進めるべきだという議論が続いていました。
「それがDMO設立のきっかけというわけではありませんが、DMOとなったことで、結果的に、県と観光協会の役割分担という、目指してきた方向に進んできているのではないか」と高橋正俊担当係長(長野県観光部山岳高原観光課企画経理係)は話します。

2014年10月に銀座5丁目にオープンした「銀座NAGANO」 2014年10月に銀座5丁目にオープンした
「銀座NAGANO」
イベントスペースのある2階では、オープンキッチンを活用した料理教室なども開催できる イベントスペースのある2階では、
オープンキッチンを活用した料理教室なども
開催できる


●県と県DMOで業務をどう切り分けるか
 県と県DMOの業務の切り分けは、DMOの制度における難しい側面の一つです。現状の仕組みでは、県の施策の中にDMOの事業が落とし込まれる形になりますが、それにより企画・立案における行政の影響が強まり、観光地域づくりを行う舵取り役として県DMOが力を発揮できないというジレンマも指摘されています。また、県DMOの多くは、県の事業費で運営しているため、観光連盟や観光協会として県の事業を受けていたときとあまり実態が変わらないケースもみられています。その一方で、最近ではDMOが観光振興計画の企画・立案を担うケースも増えてきました。
 「長野県も企画立案は県、実践部隊はDMOという位置づけではありますが、DMOが長野県庁の中で、観光部と机を並べて情報を共有することで、県とDMOで意識をすり合わせられています。事業計画の予算編成に関しても、県観光部と打ち合わせしながら一緒に作るような態勢になっています。理念上では、DMOが主導することが理想かもしれないですが、実際は人件費などさまざまな課題があって難しいという地域が多いのではないでしょうか。その中で大切なことは、県DMOとしての取り組みがいかに県の施策にフィードバックされ、活かされるかという点だと思います。」(小林副センター長)
 「県の財政が厳しいと、県とDMOで一緒に描いた絵の一部にしか予算が充てられない状況もあります。ただ、最初に描いた大きな絵の中で、『この部分は県の政策上、外せないので県の予算を充てます』とか『県の予算上では切られてしまったが、この部分は観光機構の将来への投資にもなるので、機構独自の財源で実施します』などと、細かい調整が県とDMOの間でできています。これは常に意識共有とコミュニケーションが図れているからこそできることだと思います」(高橋担当係長)

●県観光戦略推進本部を立ち上げ、縦割りの組織に横串を通す
 長野県では、観光政策の戦略的推進を目的に、平成28年度に「長野県観光戦略推進本部」を立ち上げました。知事を本部長とし、副知事以下各部長や県観光機構で構成されています。ここでの議論を踏まえ、“稼ぐ”観光地域づくりに向けた県全体の取り組みの方向性を明確にするため、「信州の観光新時代を開く 長野県観光戦略2018」が策定されました。この策定により、縦割りの組織に横串を通す動きが生まれ、長野県観光機構も県全体の観光地域経営を行う舵取り役へと性格を強めています。
 その代表的な動きが、同機構に平成30年4月に設置された「DMO形成支援センター」です。専門家のほか、金融機関、旅行会社などからの出向者による外部専門人材を配置し、DMO法人やDMO候補法人、DMO設立予定法人のほか、観光地域づくりに取り組んでいる団体などから状況を聞き出し、課題などを県に報告・共有しています。訪問などによる支援活動の数は、平成30年4〜12月で約140回、延べ約300人となりました。
「DMO形成支援センターは、県観光戦略本部と地域をつなぐコーディネーター的な役割を果たしています。DMOが観光地域づくりの舵取り役として、地域に必要な施策を作り上げることで、県も集中的に予算を投入することができます」(小林副センター長)

●市町村を超えた広域型DMOの形成確立に向け支援
 DMO形成支援センターで特に力を入れているのが、市町村を越えた広域型DMOの形成確立への合意形成に向けた支援です。これまで、(株)南信州観光公社(南信州エリア)、(一社)信州いいやま観光局(信越自然郷エリア)が地域連携DMOとして登録され、(一社)長野伊那谷観光局(上伊那エリア)、(一社)HAKUBA VALLERY TOURISM(2019年4月設立予定、北アルプスエリア)が地域連携DMO候補法人として登録されています。そのほか諏訪エリアや千曲川ワインバレーエリアなどでも、DMO設立に向けた動きがみられています。
 県土が広く、地域ごとに特色がある長野県では、市町村単位よりも、観光素材が共通するエリアごとにまとまる方が、観光地域づくりには適していると考えています。
「長野県は、小さい単位での町や村が多いため、例えば観光客が駅に降りてぐるりと見渡した範囲に幾つもの行政区分があるなんてこともあります。しかし、観光客から見れば、それは一つのつながった地域。それぞれの市町村で基盤整備をしたり、プロモーションをしたりするよりも、広域的に対策した方が観光客の利便性は上がりますし、地域にとっても合理的で、効果的に魅力を高められると思います。地域では、愛着心もあって市町村単位での活動が多く見受けられますが、市町村の気持ちもしっかり受け止めつつ、県と地域の意識のギャップを埋めてくれているのがDMO形成支援センターで、とても貴重な存在です」(高橋担当係長)

受入環境整備支援でインバウンドおもてなしセミナーを開催 受入環境整備支援でインバウンド
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●長野県全体のDMO化を目指す
 長野県観光機構は平成31年2月に、インバウンド受け入れに積極的な事業者や団体で構成する「インバウンド推進協議会」を設立しました。この協議会は、民間主導によるオールNAGANOでのプロモーションや受入環境整備を強化するための組織で、すでに約300の会員が集まりました。市町村や観光協会だけでなく、民間事業者も多く参画しているそうです。
 「インバウンド事業に関しては、市町村から長野県観光機構に声がかかることが増えています。こうした地域との連携を今後も深めていきたいと思います」(小林副センター長)
 アンケート調査やインバウンド動向調査などのマーケティングでも、エリアごとに行うのが有効だと小林副センター長は話します。効果的、効率的な観光地域づくりのためにも、市町村を越えた広域型のDMOが動き出し、長野県全体のDMO化が進むことが求められています。

(DMO推進室より一言)
一般社団法人長野県観光機構様は多くの県と県のDMOが苦慮されている役割分担をお互い良いコミュニケーションを図ることで乗り越えておられます。県の観光方針と合致するものは密に連携を行い、DMOとして必要な政策があれば自らの予算で施策を実行されています。このような取り組みが他県の皆様の良い参考事例となっていくことが期待されます。

〈DMOプロフィ-ル〉
・設立 昭和35年12月 社団法人長野県観光開発公社設立
    昭和44年12月 社団法人長野県観光連盟設立
    平成13年4月  社団法人長野県観光協会発足
       (長野県観光開発公社と長野県観光連盟とを統合)
    平成16年8月 社団法人信州・長野県観光協会に名称変更
    平成25年4月 一般社団法人信州・長野県観光協会に移行設立
    平成28年2月 日本版DMO候補法人登録(地域連携DMO)
    平成28年7月 一般社団法人長野県観光機構に名称変更
    平成29年11月 日本版DMO登録(地域連携DMO)
・所在地 長野県長野市南長野幅下692番地2
・マネジメント区域 長野県全域
・代表者 野原莞爾
・職員 62人
・連携する主な事業者等
 市町村 市町村観光協会 地域連携DMO 地域DMO
 JR各社、しなの鉄道他県内交通事業者
 県内に支店等を有する大手旅行会社
 県旅館ホテル組合会会員等の宿泊施設
 アクティビティ事業者
 県内メディア 金融機関 広告代理店 ウェブ関連事業者
 特産品製造事業者 他