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2018.12.14

【第19回】DMO先進事例に学ぶ
ケース15:公益社団法人ツーリズムおおいた
(地域連携DMO)


大分県全体をつなぎ、魅力ある観光を育て、発信の中核としての役割を果たす

写真左から、荒川孝二専務理事、阿南圭祐事務局次長・経営管理部長、山本宏司地域マネジメント部長、地域マネジメント部神ノ川裕輔氏。
(写真左から)荒川孝二専務理事、阿南圭祐事務局次長・経営管理部長、
山本宏司地域マネジメント部長、地域マネジメント部神ノ川裕輔氏

全国屈指の温泉地として、「おんせん県」を発信する大分県。その中で県域全体をまとめる地域連携DMOの(公社)ツーリズムおおいたは、キーコンテンツ「温泉」と、地域ごとの魅力を結び、ほかではできない観光の魅力を創出して発信する組織として活動しています。

●公益社団法人化をきっかけに、県全体の活動をサポートへ
 県全体の観光振興をまとめ上げるための変革は、2005年に旧大分県観光協会を改組し社団法人ツーリズムおおいたを立ち上げたことに始まりました。
 「名称を『ツーリズムおおいた』に変更したことに大きな意味があったのだと思います。それまでの観光協会は単発のイベントや事業を盛り上げる組織でしたが、この時から多様な役割を持ち、前向きに観光振興に取り組み、『ツーリズム』の世界に打って出たのだと思います」と荒川孝二専務理事は話します。
 行政の役割を補完するのではなく、自らが現状を把握し、事業展開していくためには、マーケティングの強化が必要と考えられ、そのための専門人材の育成・確保などの組織強化が必要となっていきました。
 その中で2015年には「組織のあり方検討会」が開催され、大分県という圏域の観光振興をミッションとするという、ツーリズムおおいたの役割が確認されたのです。
 さらに、2015年度の「おんせん県おおいたDC」、2016年の「熊本地震ふっこう関連事業」などを経験し機能強化の機運が高まり、2018年3月のDMO認定にいたりました。
 また、法人本部は以前別府市にありましたが、県全域の連携を事業の中核としたため、2017年に関係機関が集中する県都・大分市に移転したことも、変身への一つのきっかけになりました。

別府の町の至るところから立ち上がる湯けむり
別府の町の至るところから立ち上がる湯けむり

●プロパースタッフを得て、企画力ある組織に変身を
 ツーリズムおおいたの職員は現在19名。県全体をつなぐ組織であるため、自治体や地元民間企業からの出向者が多く、現在の内訳は大分県3名、地域市町村3名、民間企業3名に、一般契約社員9名とプロパー社員が1名という体制になっています。
 業務は幅広く、DMOを管轄する地域マネジメント部のほかに、国内外からの誘客事業などを行う誘致営業部と、経営管理部の3部からなっています。
 DMOの中核を担う地域マネジメント部は大手旅行会社出身で2017年度からプロパー職員となった山本宏司部長を中心に、専門家の視点で事業を行う体制をつくり上げてきました。
 「市町村はそれぞれ独自の事業を考え、振興策を展開します。しかし、個別の活動ではなかなか実現できないこともあります。ツーリズムおおいたは、それらをまとめて発信し、システム化することで、個々ではできない事業化をサポートする。そういうミッションが見えてきたのです」と山本部長は言います。
 地域の活動を長い目で見ながら必要に応じてサポートしようとするとき、個人の勘に頼ったのでは達成できません。自走できる地域をつくるにはマネジメント力が重要なのです。「地域の収入を増やす」ことを意識して、粘り強い交渉を重ねるための専門能力を持つ職員が必要であり、そのために山本部長が採用されたのです。

●ウェブサイト「テッパン!おおいた」を地域のプラットフォームに
 地域力を向上させるために取り組む事業の一つが「テッパン!おおいた」。ツーリズムおおいたのウェブサイト上に構築された旅情報コーナーです。
 昨年から運営を始めたもので、県内各地から希望のあった旅情報を掲載するとともに、旅行商品の販売や物販なども行います。ここではただ情報を紹介するだけでなく、決済システムを導入して、地域発の旅プランの申し込みが直接できたり、物産を購入したりすることもできるのです。
 サイト上で販売を実現するには、その場で支払いができる決済システムの導入が必要となり、カード会社との提携など多くの壁がありました。そのため、ウェブサイトでPRはしても、それを旅行商品化し、直接販売することは、地域の自治体単独ではなかなか難しかったのです。それをこの「テッパン!おおいた」に集めることで、商品化できるようになりました。
しかも「大分」をキーワードとして、集約的に広範囲のお客様に伝えられるようになったのです。
「昨年はシステムづくりや立ち上げの時期で、仕様の決定などが大変でした。その後は多くの地域の方たちと商品の売り方を研究し、圏域全体のプラットフォームとして確立していく道を探っています」と、マーケティング部の専門人材・神ノ川裕輔さんは語ってくれました。

テッパン!おおいたのサイト 「きものdeゆふいん満喫プラン」では、由布岳を望む露天風呂も楽しめる
テッパン!おおいたのサイト
「きものdeゆふいん満喫プラン」では、
由布岳を望む露天風呂も楽しめる

●地域に眠るこれからの観光主題を探る事業づくり
 多くの地域に「何かを始めたいけれど、何をしたらいいか分からない」という実情があります。温泉があったり、昔からの特産品があるような地域はそれらを利用して、比較的早い時期から取り組みを始めていますが、そういう土地ばかりではないのです。ツーリズムおおいたはそういう地域へのサポートも開始しました。
 「今年はじめに県内各市町村を全てヒアリングした結果いくつかの課題が見えてきました。そこで県内18市町村の中から3市町をモデル地区として、地域の弱みを補い、強みをつくる取り組みを開始しました」と山本部長は言います。
 例えば、農業中心の地域では農業の中に観光に活かせる素材を見つけ出し、「農業観光」づくりを積極的にサポートする、そんな事業です。
 これまでは各地域の「やりたい」を側面からサポートし、組織同士をつないで効果を高めるなどの活動が多かったのですが、この事業は組織として「積極的にサポートする」取り組みです。対象地区には経過報告をしてもらい、地域全体で共有していきたいと考えています。

豊後大野市で開催された野菜ソムリエランチプランでの収穫体験 豊後大野市で開催された野菜ソムリエランチプランでの収穫体験
豊後大野市で開催された
野菜ソムリエランチプランでの収穫体験
 

野菜ソムリエが美味しい食べ方やドレッシング作りを伝授
野菜ソムリエが美味しい食べ方やドレッシング作りを伝授

●マーケティングを通して県全体の観光づくりに新しい流れをつくる
 「今年もう一つ力を入れていきたいのが『観光マーケティング』です。マーケティング部門では、『市町村カルテ』の作成を進めているところで、まだ完成していませんが、県の統計調査をベースとして、市町村別に分析し、地域の現状や課題を抽出し市町村の観光戦略に活用できるものにしたいと思っています」と阿南圭祐事務局次長・経営管理部長は話してくれました。
 その他にも、いくつかの交通拠点において訪日外国人調査を開始しており、その動向を把握することにも努めています。
 観光客の動向や分析データは観光産業や地域にとってますます重要度の高い情報となっていきます。将来的にはマネジメント事業として調査や分析を行い、そこで得た分析情報や、そこから発展する提案などを、有料化したコンテンツとして事業化していきたいと考えています。
 大分県が行う観光事業に関しても、新年度予算編成前に企画提案を行い、積極的に事業獲得を図っています。もともと県の観光協会を基盤としていたこともあり、ここでの受託事業獲得は、組織の財源の一部としても重要な存在なのです。

観光マーケティング会議の様子
観光マーケティング会議の様子

●大分県全体を見渡した観光ネットワークづくり
 また、誘致営業部ではMICEの誘致を積極的に展開しています。大分県は別府国際コンベンションセンター(ビーコンプラザ)で大型MICEの受け入れが可能であり、別府温泉宿泊とセットでの開催に人気があり、数年先までの予約が入っているとのことでした。
 九州新幹線の開通に続き、東九州自動車道も開通し、観光の流れも大きく変わろうとしています。外国人観光客の増加により、夜の観光ニーズが高まるなど、さまざまな変化も見て取れます。キャッシュレスなども含め、観光客目線での新しいニーズに着目した観光ネットワークづくりが求められており、圏域全体を見渡してサポートするツーリズムおおいたの役割は増していきそうです。

(DMO推進室から一言)
 大分県には豊の国千年ロマン観光圏、由布市まちづくり観光局(候補)など、地域・地域連携DMOなども存在し、DMO以外の先進事例地も多数あります。温泉という地域の宝を活かしながら、県全体をつなぐツーリズムおおいたの活動に期待がもたれます。
 >> ケース16:一般社団法人豊の国千年ロマン観光圏

(DMOプロフィール)
・設立 平成17年4月(25年4月公益社団法人化)
    平成30年3月DMO認定
・所在地 大分県大分市
・マネジメント区域 大分県全域
・CEO 幸重綱二(大分市観光協会会長)
・専務理事兼事務局長 荒川孝二
・職員 19人
・連携する主な事業者
(エリア内)県内DMO法人及び同候補法人・各地域観光協会・旅館組合・観光施設連絡協議会・NPO法人大分県グリーンツーリズム研究会・商工会議所・商工会・(公社)大分県物産協会・JR九州・各旅行会社・県内バス事業者・県内タクシー事業者・レンタカー事業者・大分航空ターミナル(株)・航空事業者・フェリー事業者・金融機関・県内調査事業者
(エリア外)他県DMO組織