公益社団法人 日本観光振興協会

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2018.08.09

【第18回】DMO先進事例に学ぶ
ケース14:一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会
(地域DMO)


中川幸雄代表理事(右)と、高御堂和華事務局長(左) かやぶきの里の景観
中川幸雄代表理事(右)と、
高御堂和華事務局長(左)
かやぶきの里の景観

●『自然』そのものを地域の魅力に育てる
 京都府中部の中山間地にある南丹市美山町は古くから屋根の高い茅葺民家が多くあり、平成5(1993)年には北集落にある「かやぶきの里」が国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されたほどの美しい景観をつくり出しています。
 林業が盛況だった時代にはその経済力を背景に料理旅館なども多くあり、昭和30(1955)年ころ人口は10,000人を超えていました。しかし林業の衰退とともに経済は活力を失い、現在は人口も4,000人を切るようになりました。そんな状況を乗り越えるため、町は昭和53(1978)年から長期のまちづくり計画を進めてきました。
 地域経済力の低下は一端歯止めがかかり観光客の年間入り込み数減少は回復し、平成15(2003)年には年間71.6万人にまで拡大しましたが、そこから10年間は再び低下がはじまりました。それでも平成24(2012)年の58万人を下止まりとして平成28(2016)年時点では89.6万人まで増加しています。
 その1つのきっかけが、台湾などを中心とした海外からの観光客の増加にありました。その効果を高めるため協会は海外での誘致活動を開始し、それが一般の観光客だけでなく農山村教育民泊という、主に中高校生向け教育民泊プログラムにつながっています。
 中川幸雄代表理事は「美山の魅力は何かといえば『自然』そのものです。近年は海外にもその良さが伝わり、新しい傾向を捉えることができました。ちょうど国内向けの農山村教育民泊が軌道に乗った時期で、同様のプログラムで台湾の子供たちを受け入れてもらえないかという話があり、それが今大きな事業に育ちつつあるのです」と話します。

●「観光まちづくり」を地域づくりの突破口に
 美山町は新しい観光まちづくり組織の設立にあたり、既存の美山町観光協会、南丹市美山エコツーリズム推進協議会を新組織内に統合し、「地域DMO」を選択しました。
 中川代表理事は「人口が減少し、地域社会の規模が小さくなったときに、組織が拡散していては力を結集できません。地域の特色を明確にし、そこに集中的に取り組むには地域DMOという組織が一番適していると判断したのです」と言います。
 「歴史、自然と文化が融合した風致と、共助の仕組みやコミュニティが息づく地域特性を生かした観光づくりを行う」を組織のテーマに掲げ、美山町での観光スタイルを「暮らすように旅をする」と定義しました。実績あるエコツーリズムの手法を生かし、地域の宝(人、自然、文化、歴史など)を守り生かしながら、地域経済が循環できるまちづくりを目指しています。今後の目標として、延べ宿泊者数を平成29(2017)年度2万2,735泊から、平成33(2021)年度までに4万泊へ、訪日外国人観光宿泊客数を同4,649泊から1万泊へと伸ばすことを掲げました。

●新しい宿泊の形を探る事業づくり
「農山村教育民泊」を新しい宿泊事業の核に
 今本協会が期待をかけて取り組んでいるのが教育民泊です。この事業は平成27(2015)年に京都府などが支援する京都丹波「食と森の交流の都」プロジェクト事業(〈一社〉京都丹波・食と森の交流協議会)の受け入れから始まりました。
雪を楽しみにやってくる観光客も多い
雪を楽しみにやってくる観光客も多い

 教育民泊は「宿泊業」とは異なり、京都府や保健所とともにルールを作り、子どもたちを受け入れるものです。そこでは教育活動として子どもたちに農村の生活体験を提供することと、共同調理を行うことが条件となっています。一般の農家などが自宅を使って行うもので、最初は尻込みしていた家庭も、受け入れが始まると子どもたちとの触れ合いや、生活文化の伝承などの交流が楽しい時間の創出となり、大きな喜びへとつながるようになりました。
家族との共同調理が、子どもたちと家庭を近づける
家族との共同調理が、子どもたちと家庭を近づける

訪日外国人の増加が新しい取り組みを後押し
 近年、この事業に海外からの受け入れが加わり、大きなウエイトを占めつつあります。その口火をきったのが台湾でした。台湾からの観光客は6年くらい前から増えはじめ、南丹市美山エコツーリズム推進協議会などのPR活動もあって順調に伸び、それが教育民泊にも発展したのです。現在はさらに発展し「宿泊業」としての農家民宿開業者の増加にもつながっています。海外からの観光客増加と、それに後押しされた民泊や民宿による収入増は、これからの地域経済の新しい核になると期待されているのです。
 「自然の魅力を『観光』として定着させたい。それには農山村教育民泊はうってつけです。現在は海外からの受け入れが伸びているので、もっとこの分野を開拓したい。小さな町が生き残るには、他人の後ろを着いて行くのでは勝てません。先行投資をして、他がやっていないことに取り組まなければなりません。今後は欧米やオーストラリアなどにも展開をめざします。今年はフランスでもPR活動を予定しています」と中川代表理事は話します。
海外からの子どもたちを見送る 東京で開催されるトラベルマートの商談会に毎年参加
海外からの子どもたちを見送る
東京で開催されるトラベルマートの商談会に
毎年参加

問題意識の変化
 美山にとって観光とは「地域の観光資源(光)を観せる」ことです。そうすれば人が動き、物が動き、お金も動くはずと考えたのです。しかし、現実には消費単価の低迷は続き、十分収益を上げることができませんでした。
そこでDMO設立にあたり、問題意識そのものを「旅行振興」から「観光地域づくり」へと変革したのです。
 本年度は「観光地域づくり」をめざして表1の5つの課題をかかげています。
表1 「観光地域づくり」の5つの課題
1 人材・財源の有効活用
2 権限・責任・役割の共通理解
3 消費単価の低迷(克服)
4 稼げる・儲かる観光産業の育成
5 中間支援組織としての役割

稼げる商品をつくるマーケティング
 観光で収入を得るためにはさまざまな商品をつくり、売っていかなければなりません。
 そのためにマーケティングを行い、本年度の「行動指針」も策定されました。
 「まずは分析をし、計画は立てましたが、実際にはこれから行動が始まるところです。この地域では過去にもワーキンググループ活動等に積極的取り組んできましたが、現実に成果を上げた事業は少ないものです。それをどう商品化させていくか、それがこれからの本当の課題なのです。DMO設立の動きもこの活動の先にあるものだと思っています」と、高御堂和華(たかみどう・わか)事務局長は話します。
 そのために、2017年度には、より正確に観光の動向を把握するために町内全ての宿泊施設に対し毎月1度の宿泊者数調査を始めました。平成30(2018)年度の行動目標には、国内外のプロモーション活動や、商品造成・販売などとあわせて、写真コンテストの開催、小型モビリティー(電気自動車)や自転車などのレンタル事業など、12の新しい事業や取り組みが掲げられています。
表2 南丹市美山町の観光マーケティング(2017年度)
管理マーケティングの流れ 内容  
市場調査 Research 経営環境・顧客ニーズの調査 社会情勢・これからの市場の行方
STP 市場細分化
Segmentation
顧客の集まりである市場をニーズで分割 地理的・属性区分
分野による区分等
ターゲティング
Targeting
顧客のターゲットを決める それぞれの商品、部所、会社として誰をターゲットに
ポジショニング
Positioning
選択した市場で競合他社との違った高価値をつける 競合他社・同業他社との違い。優位性は?
4P
MM
商品 Product 機能・品質・デザイン
パッケージ
商品そのものの価値・質
魅力・統一性等
価格 Price 標準価格・値引き・取引条件 利益を生む価格設定
流通 Place 販売経路・在庫管理・店舗立地 自社で、委託で、買取で、
ネット販売
販促 Promotion 広告宣伝 だれにどんな媒体で告知・宣伝するが効果的か?
実行 Implementation 4Pの計画を市場で展開 実行してみる
統制 Control 実行した結果に基づく見直し 検証・修正のための通過点

●マーケティング ──数字が示す増客の指針
 DMO設立から約2年、その間マーケティングを元に課題を明確化し、協会はさまざまな取り組みを始めています。平成30年度に掲げた課題は表3の通りです。
 地域資源を商品化するものとしては、昨年度にエコツーリズムなどで行った各種モニターツアーの恒常的プログラム化があります。かやぶきの里周辺を通る鯖街道を使った「美山語り部ウォーク」などが好評でした。
 また、マーケティングに関しては、これまで行えなかったウェブマーケティングに取り組むことも考えています。旅行者がどのようなキーワードで「美山」を探してくるのか、それらを分析的に知ることが商品造成に関わってくるのです。
 「DMOの発足から2年。スタッフ5名はIターンなど地域外からの採用者もおり、まだ基礎固めの時期にあると思います。積み上がった課題はたくさんあり、それをどう実現させていくか、それが私たちの仕事だと思っています」と高御堂事務局長は語ってくれました。
表3 マーケティングにおける平成30年度の課題
1 宿泊者数が10年間で半減したのはなぜか(2003年:36,591人→2013年:17,368人)
→宿泊者の変化:団体旅行中心の観光形態が徐々に個人旅行へシフトしていく中で顧客ニーズに合った商品造成が不足していた
 →FIT向けの体験メニュー、ツアー造成中
2 消費単価の低迷はなぜか
→京都市内での消費単価は19,669円(2015年)といわれるが、美山町はここ数年1,000円前後に
3 観光入込客数は増加
→平成24年の年間58万人を下止まりに増加傾向に、平成28年は89,6万人まで増加
 →この変化をどう捉え、活かしていくか
4 今後のマーケティングに求める数値目標
宿泊施設の宿泊者数と属性(性別・年齢・居住地等)/インバウンド国籍・宿泊人数・来町人数/レストランでの売上額/土産物・商店での売上額/旅客運送事業での売上額/体験ツアーの種類と売上額・年間実施本数/よく使うアクセス方法(市営バス・観光バス・レンタカー・自家用車等)/広告宣伝効果的な媒体/満足度/顧客のニーズ把握/リピーター率 等々

概要
・設立 平成28年7月1日
・所在地 京都府南丹市
・マネジメント区域 京都府南丹市美山町
・京都府知事登録旅行業 地域-687 
・代表理事 中川幸雄
・事務局長 高御堂和華
・職員 5人
・連携する主な事業者
(エリア内)
美山町地域振興連絡協議会、美山まちづくり委員会、南丹市美山支所、京都丹波高原国定公園ビジターセンター運営協議会、美山ふるさと(株)
(エリア外)
南丹市農林商工部商工観光課、京都府・南丹広域振興局、放送大学京都学習センター、(一社)京都丹波・食と森の交流協議会、(一社)森の京都地域振興社 ほか

(DMO推進室から一言)
 美山町は平成18年に合併により南丹市美山町となりましたが、現在も独自の地域づくりを進め、エコツーリズムなど「自然の素晴らしさ」を中心とする方向性も見えています。ただ、積極的な取り組みにもかかわらず、なかなか思い通りの成果は得られないのが実情だそうです。しかしDMOのスタッフも新鮮なメンバーがそろい、若手の高御堂さんが事務局長に就任しました。農家民泊など、地域の方たちと一緒に新しい「稼げるDMO」づくりに向かおうとする意気込みを感じました。

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