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2018.08.09

【第17回】DMO先進事例に学ぶ
ケース13:さまざまなマーケティングを生かして
認知度向上からまちの盛り上がりへ
(一般社団法人秋田犬ツーリズム)


印象的な法人のネーミングは、観光地としては知られていなかった地域の認知度向上のため。マーケティングに力を入れて成果を出し、受け入れ体制整備へと取り組みを進めています。

●認知度向上のため「エッジの効いた」動画
 秋田県大館市は「忠犬ハチ公のふるさと」としても有名な秋田犬の産地で、農業や林業がさかんです。しかし人口減少などに直面し、「地域外からの外貨を求めていかなければなりません」と大館市観光課課長補佐兼専務理事の阿部拓巳さんは話します。2015年12月から周辺の市町村をまわってDMO設立の構想を話し、賛同した北秋田市、小坂町とともに、ともに、2016年4月に法人を設立しました。同年6月には上小阿仁村も参加しました。

左から阿部さん、大須賀さん
左から阿部さん、大須賀さん

 ただ「秋田犬ツーリズム」という名前に最初から同意を得られたわけではありません。秋田犬に縁があるのは大館市が中心。それでも選んだのは、エリアの認知度向上が喫緊の課題だと考えていたからです。東北周遊のツアーもこの地域を訪れることは少なく「全く知られていない状態」の中、秋田犬の認知度が高いことは分かっていました。ネームバリューのあるものにすべきだと阿部さんらが話し、理解を求めました。

大館駅前「秋田犬ふれあい処」では秋田犬と触れ合える(定休日あり)
大館駅前「秋田犬ふれあい処」では秋田犬と触れ合える(定休日あり)

 当時は自治体制作の動画が話題になっており、秋田犬ツーリズムでも動画を使うことにしました。ターゲットは台湾の人です。広告代理店から提案されたのは、ハチ公から今に通じる「待つ」という真摯な気持ちを描いたものと、秋田犬が擬人化されてアイドルになるという「エッジの効いた」もの。どちらもいいけれどインパクトがあるほうが響くはずだと、阿部さんらは後者を選びました。完成した動画を大館市長に見せると「絶句」。市長が記者会見をして発表しましたが、記者も「しーんとしていました」。しかし公開すると、10日で100万ビューを達成。「周りがほめると、地元の人もそうかなと思い始めるのです」

秋田犬がアイドルになる動画「Waiting4U~モフモフさせてあげる~」は台湾を中心に大きな反響を呼んだ
秋田犬がアイドルになる動画
「Waiting4U~モフモフさせてあげる~」は台湾を中心に大きな反響を呼んだん

 動画の広告効果は7億円と推定されており、「PRアワード・アジア2017」の2部門で受賞しました。2014年と2017年を比較すると、エリアの観光入込客数は303万人から339万人へと12%アップ。日本人宿泊数も10%アップして36万5千人に。そして外国人宿泊数は4,300人から9,300人へと2.2倍近い伸びを見せました。
 実はこのエリアは桜と弘前城で有名な青森県弘前市まで車で40分、武家屋敷群の角館市や奥入瀬渓流など自然豊かな八甲田山までも1~2時間。認知度向上により、東北を周遊する途中に訪れる人や団体の増加につながったようです。

明治43年建築の芝居小屋「康楽館」(小坂町)には台湾を中心とする外国人観光客が大幅に増えた
明治43年建築の芝居小屋「康楽館」(小坂町)には
台湾を中心とする外国人観光客が大幅に増えた

 またこの数年、観光施設で秋田犬を飼うことが増え、観光客が触れ合えるようになりました。さらに住民にも秋田犬を飼う人が増えており、地域の人も「散歩する姿をよく見るようになった」と話します。秋田犬を地域の誇りとして大切にする思いが広がっているのです。

●ソーシャルメディアを分析
 ペルソナマーケティング

 今、最も力を入れてPRしている地域資源はやはり「秋田犬」。ロシアのフィギュアスケート選手、アリーナ・ザギトワ選手への秋田犬贈呈もあり「風が吹いている」と阿部さん。
 これを生かすために、秋田犬ツーリズムでは「秋田犬」に興味を持つ方はどこのどんな人なのか、何に興味があるかなどを分析し、その対象に向けて直接情報発信をする「ペルソナマーケティング」に取り組んでいます。ここでのペルソナとは「マーケティング上重要で代表的なユーザーの架空の人物像」のことです。具体的には、ソーシャルメディア分析ツール「NETBASE」をスタッフ自らが使って、ソーシャルメディア上の秋田犬に関する言及を解析。発した人の属性や、その発言に含まれる感情など、定量的、定性的なデータを収集、分析して次のようなペルソナ像を得ました。
 英語を話すアメリカ人白人女性35歳。ニューヨーク在住。アパレル系企業の営業をしている。アートや音楽が好きで、ペットも大好き。友人とのコミュニケーションツールはインスタグラムが中心。

ソーシャルメディア分析ツール「NETBASE」を用いた、「秋田犬」に対する興味・関心度の分布調査結果
ソーシャルメディア分析ツール「NETBASE」を用いた、
「秋田犬」に対する興味・関心度の分布調査結果

 今年5月、阿部さんやCMO兼事務局長の大須賀信さんらはニューヨークでこのペルソナ像に近い8人にインタビューを行いました。高収入で年数回は海外旅行に出かけ、体験やストーリー性のある旅を好むことなどが分かってきました。
 こうした分析をもとに、秋田犬ツーリズムでは第2弾の動画を制作しています。第1弾とは違い、ペルソナに響くような、落ち着いたトーンのものになる予定です。
 また、NETBASEを用いた調査結果を見たある観光協会から、その協会向けの分析を受注しました。阿部さんはこうした分析を収益事業としたいと考えています。

●地域の外国語観光ガイドの活用とともに
「やさしい日本語」で外国人観光客をもてなす

 「これまでの2年間は認知度向上と地域の盛り上がりを目指し、ある程度クリアしました。次は受け入れ体制整備です」と阿部さんは話します。
 秋田犬以外の地域資源は「いっぱいあります」と阿部さん。きりたんぽなどの食、リンゴの花摘み、まちなかの温泉など「地元の人が普段見ているものが、外の人にとってはいいものに見えているのです」。ただ二次交通が発達していないため、車のない個人客は巡りづらい状況です。また、連携した情報発信も足りていません。

きりたんぽ
きりたんぽ

打当温泉「マタギの湯」
打当温泉「マタギの湯」

 そこで今考えているのが、タクシーを用いたガイドツアーです。ガイドがさまざまな地域資源の中からピックアップしてコースをつくり、ともに巡ります。秋田犬ツーリズムでガイドを養成し、旅行業登録をしている会社に派遣したいと考えています。
 また、秋田犬ツーリズムには世界各国から問い合わせがあります。今後はコンシェルジュデスクの機能も持たせて対応し、地域資源を紹介していきます。さらに、ホームページから体験予約ができるシステムを、他のDMOと連携して開発したいと考えています。
 また地域の人が外国人観光客に応対する力を磨くため、取り組みを始めようとしているのが「やさしい日本語」です。外国人にもわかりやすい日本語のことで、災害時に有効な言葉として考案されましたが、観光での活用も全国で少しずつ進んでいます。
 日本語教育能力検定試験合格者でもある大須賀さんは「訪日外国人観光客には日本語を勉強してきて、話したい人は多いです。受け入れ側も、日本語であれば外国人をもてなすハードルが下がります」と話します。

●地域へ波及する効果を
 法人のスタッフは現在7人。2人は大館市観光課との兼務、5人は正職員で、中にはアメリカ人も。マーケティングの専門家はおらず、スタッフが自ら勉強して方針を立て、分析しています。
 今後はコンシェルジュを育成したいと考えています。ガイドをするだけでなく、現在検討中の、古民家を改修した宿のスタッフとしても必要なのです。
 古民家は大きな商家だったもので、5棟を1棟1室として貸し出したいと考えています。ターゲットは富裕層で、1泊10万円程度を考えています。
 「この宿によって、ここで働きたい、ここにうちの野菜を出したいと思ってもらえるような波及効果が出てくると思います。それがつながっていけば、地元に残る若い人が増えるのではないかと思います」と大須賀さんは話します。
 目指すのは、まち全体を盛り上げること。「チャンスが与えられているのでチャレンジしたい。10年後には『10年前、ここは観光地じゃなかったよね』と言われたい」と阿部さん。そして大須賀さんは「将来はDMOに就職したいという若い人が出てきてほしい」と話します。

(DMO推進室から一言)
 新たな発想によるチャレンジを行い、また近隣市町村の合意形成を図りながら、マーケティングに特化することで、訪問者の増加という直接的な結果が出ています。これにより自信をつけて、さらなる試みにもまずは挑戦することを大切にしているようです。

(DMOプロフィール)
一般社団法人秋田犬ツーリズム
・設立 平成28年4月1日
・所在地 秋田県大館市
・マネジメント区域 秋田県大館市、北秋田市、小坂町、上小阿仁村
・CEO 中田直文(大館商工会議所)
・専務理事 阿部拓巳
・事務局長 大須賀信
・職員数 7人
・連携する主な事業者
(エリア内)
大館市観光協会・大館商工会議所・大館北秋商工会・北秋田市商工会・北秋田市観光物産協会・かづの商工会・大館市まるごと体験推進協議会・大館市物産協会・(有)ナチュラル・ファーマーズ(着地型旅行商品、体験型商品開発、地域ブランディング、商品開発) 秋北バス株式会社・JR 東日本秋田支社・NEXCO東日本十和田管理事務所・大館能代空港利用促進協議会(アクセス改善)
秋田銀行・北都銀行(情報提供、事業支援など)
秋北航空サービス(株)・秋田内陸縦貫鉄道(株)(商品造成、販売)
北鹿新聞社(情報収集、発信など)
(エリア外)
(株)電通・全日本空輸(株)(調査、マーケティング、プロモーション、体制整備)

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