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2018.03.20

【第15回】DMO先進事例に学ぶ
ケース11:一般社団法人みなかみ町観光協会(地域DMO)


●観光振興を町の最優先課題とし、さまざまな関係者が関わる組織を構築
 一般社団法人みなかみ町観光協会を母体とした「みなかみ版DMO」は平成28年10月にスタートしました。同町では、観光振興を担う組織として、多様な関係者による「みなかみ観光会議」を平成27年に設立した後、スピード感を持って意志決定ができるよう組織体制が強化してきました。こうした背景のもと登録されたみなかみ版DMOは、国内外の交流人口を拡大し、地域を活性化する原動力として動き始めています。

日本百名山の一つ、谷川岳。ロープウェイで15分の天神平スキー場も人気 写真提供:みなかみ町観光協会
日本百名山の一つ、谷川岳。ロープウェイで15分の天神平スキー場も人気
写真提供:みなかみ町観光協会

● 群馬県最北部に位置するみなかみ町は、「首都圏3,000万人の水がめ」と言われる利根川源流地域で、豊かな自然と温泉に恵まれた風光明媚な町です。
 町内には水上高原スキーリゾートや宝台樹スキー場などの9つのスキー場があり、東京から上越新幹線で最短66分のアクセスの良さから、冬には多くのスキー・スノーボード客が訪れます。夏は、キャニオニングやラフティング、バンジージャンプなどのアウトドアが盛んで、若者や家族連れ、外国人観光客にも人気のエリアになっています。
 温泉も多く、水上温泉や宝川温泉など町内に18の温泉があります。これら「みなかみ18湯」は温泉総選挙2016のリフレッシュ部門で第1位に輝くなど自然と温泉の調和が高く評価されており、テレビCMや映画『テルマエ・ロマエⅡ』の撮影にも使用されました。

利根川を大型ボートに乗って自分でパドルを操りながら下っていくラフティング。町内のアウトドア事業者数は30にも及ぶ 写真提供:みなかみ町観光協会
利根川を大型ボートに乗って自分でパドルを操りながら下っていくラフティング。
町内のアウトドア事業者数は30にも及ぶ
写真提供:みなかみ町観光協会

みなかみ18湯の一つ、宝川温泉。18の温泉地を巡れるのもみなかみ町の特色 写真提供:みなかみ町観光協会
みなかみ18湯の一つ、宝川温泉。18の温泉地を巡れるのもみなかみ町の特色
写真提供:みなかみ町観光協会

●これまで関わっていなかった人にも声をかけ新しい組織をつくる
 2町1村が合併し、みなかみ町が誕生したのは平成17年のこと。その後合併から10年を迎えるにあたり、町の将来戦略を立てるべく、町長の諮問機関として「まちづくりビジョン策定委員会」が組織されました。15カ月に及ぶ議論の末、平成27年3月に出された答申では、町最大の産業である観光の復興が最優先課題であり、その促進にはその問題点を解決するための組織が必要という方針が示されました。

 この答申を受け、町では同年7月に町内の観光関係者23名による「みなかみ観光会議」を設立しました。
 「みなかみ観光会議が従来の組織と最も異なる点は、これまで観光振興に携わっていなかった方々を中心に組織したことです。新しい考え方を取り込むため、宿泊業の方だけでなく、町内の若手や女性、飲食やアウトドアの事業者にも参画してもらいました」とみなかみ町観光協会の小野和明事務局長は振り返ります。

みなかみ町観光協会の小野和明事務局長
みなかみ町観光協会の小野和明事務局長

  みなかみ観光会議で毎月話し合う中で、共通の意見として出ていたのが、観光協会の組織強化でした。ちょうどそのころ、観光庁より日本版DMOの登録制度が発表され、みなかみ観光会議と観光協会理事会総意のもと、観光協会母体の日本版DMOとして申請し、平成28年2月に日本版DMO候補法人として登録されました。
  その後、みなかみ版DMOの設立準備会を設け、新組織の理念や目的、役割とともに、職員の雇用条件や組織体制などを決定していきました。こうした準備を経て、同年9月に承認を受け、10月1日にみなかみ版DMOがスタートしました。

●事務局体制も変え、職員を観光のスペシャリストに育成
  組織強化を念頭に置き新しく作られた組織では、スピーディーに物事を進めるため、理事の人数を23名から9名に減らしました。事務局体制も変え、以前は臨時職員が多数を占めていましたが、現在は全職員が正規職員となっています。
  「事務局は観光協会を母体としているため、従来の仕事もこなす必要があります。そのため、地域課と観光振興課に分け、従来の仕事は地域課で担当し、DMOの新しい仕事は観光戦略課で担当する二課体制をとっています。正規職員であることで職員の自覚も強まっていると思います」と小野事務局長。スペシャリストを育てる方針のもと、職員は積極的に研修やセミナーなどに出席しています。
 
新体制では理事を9名に絞り、事務局職員は全て正規職員に。DMOの仕事は観光戦略課で担当
新体制では理事を9名に絞り、事務局職員は全て正規職員に。DMOの仕事は観光戦略課で担当

●入湯税の80%が補助金に。明確な目標設定が職員のやりがいを生む
   事業費で特筆されるのが、町の補助金として入湯税の80%が収入になっている点です。これまで町の補助金は5種類あり合計で約8000万円ありましたが、補助金ごとに用途が決まっているため、自由に使えないことがネックになっていました。
   観光協会が長期経営計画を実行するには、安定した財源が必要であり、そのためには補助金を一本化した方がいいとの考えにより、新組織がスタートする平成29年度からの5カ年は入湯税が町の補助金として予算にあてられることになりました。入湯税の収入は事務局のモチベーションにもつながっていると小野事務局長は語ります。
   「我々の活動により観光客数が増えれば活動費も増えますし、逆に観光客数が減れば活動費も減ります。もちろん消費額の増加など数値目標は他にもありますが、入湯税は我々の事業に直接関わってくるため、明確な目標になりますし、やりがいにつながっています」
   
安定財源確保のため補助金を一本化。平成29年度より入湯税の80%が補助金となる
安定財源確保のため補助金を一本化。平成29年度より入湯税の80%が補助金となる

●戦略会議の議論を基に5カ年マーケティング計画を作成
    事務局の下には、町民、宿泊業者、飲食店などさまざまな関係者が集まる戦略会議を設けました。現在は、ブランド、デジタルマーケティング、インバウンド、二次交通の4つの戦略会議が立ち上がっています。
    みなかみ版DMOでは、この戦略会議での分析や話し合いを基に、理念や目標、重要戦略を計画化した5カ年のマーケティング計画を作成し、平成29年4月から全体計画を実行しています。
   
平成29年4月より実行しているみなかみ版DMOマーケティング5カ年計画
平成29年4月より実行しているみなかみ版DMOマーケティング5カ年計画

 重要戦略では、ブランド作り、デジタルマーケティング、インバウンドの3つの戦略が立てられました。
 1つ目のブランド作りでは、水やフルーツ狩り、ユネスコエコパークにも登録された豊かな自然など、みなかみ町の強みでもある特色をメッセージとして打ち出し、認知度が低い20〜30代の女性に向けて発信し、検証していく予定です。
 2つ目のデジタルマーケティングでは、動画の作成のほか、ホームページの改善、会員向けの教育やSNSの強化などが必要活動に設定されました。2022年までのデジタルマーケティングの目標として、Youtubeでの動画視聴回数10万人、会員ホームページの8割に観光協会のバナーを設置することなどが定められています。

●台南市で圧倒的知名度を誇るみなかみ町
 3つ目のインバウンドでは、2016年に2万3000人だった外国人宿泊客数を2022年に8万人にする目標が立てられました。
 現在、最も多いのは台湾からの観光客で、特に台南市からの訪問が多いのが特徴です。この背景には、みなかみ町独自の戦略と売り込みがありました。

 「当初我々が台湾をターゲットにしたとき、まず台北に向かったのですが、すでに京都や大阪など大都市のプロモーションが盛んで、みなかみのようなマーケットが小さい町は相手にされませんでした。そこで町長から、あまりターゲットになっていない台南市に話してみたらどうかと提案され、中国語が話せる町職員を台南市に派遣し、地道に活動を続けてきました」と小野事務局長は振り返ります。
 ちょうど台南市の旅行会社もゴールデンルート以外の新しい目的地を探していたため、早速みなかみ町に呼んで案内したところ、東京からのアクセスの良さ、自然の素晴らしさが評価され、積極的に観光客が送られるようになりました。
 さらに、台南市とみなかみ町で友好協定を締結し、平成29年2月には台南市旅行商業同業公会とみなかみ町観光協会でも友好協定を結びました。「台南市でのみなかみ町の浸透はおそらく日本一」と小野事務局長は話します。
「当時の台南市長の頼清徳氏が現在は台湾の行政院長(首相に相当)に就任したこともあり、今後も積極的に台湾に関わっていきたいと思っています。数年が経つとリピーターの方にも飽きられてしまうため、これからも来ていただくための工夫も考えています」

 インバウンド重要戦略では、今後は台湾やタイ以外に、ウインタースポーツが盛んなオーストラリア、成長著しいインドネシア、アジア諸国の情報のハブであるシンガポールもターゲットにする予定です。
   
2022年の外国人宿泊客数を8万人にする目標を設定
2022年の外国人宿泊客数を8万人にする目標を設定

 みなかみ版DMOでは、DMOの登録を機に組織を強化し、さまざまな人が関わって戦略を作る体制を構築してきました。今後は各戦略会議で検討と改善を重ねながら、5カ年計画を遂行していく予定です。

一般社団法人みなかみ町観光協会 http://www.enjoy-minakami.jp/