公益社団法人 日本観光振興協会

DMOなび - 観光地域づくりの新しい潮流に学ぶ -

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2018.01.17

【第13回】DMO先進事例に学ぶ
ケース9:一般社団法人高千穂町観光協会(地域DMO)


● オール高千穂で地域観光の未来を捉える

 宮崎県高千穂町は天岩戸開きや天孫降臨の伝説が残り、高千穂峡などの美しい自然もある歴史と景観の町です。この町で今、高千穂町観光協会を中心に日本版DMOへの取り組みが進んでいます。
 その高千穂町も少し前まではこの豊かな観光資源を積極的に活かしきれていませんでした。町内に有力な温泉が無いことや、都市部から離れている立地条件など、いくつかの要因は考えられました。しかし、本当の要因は違うところにあったようです。2016年の熊本地震という体験を経て、地域全体が一つにまとまって誘致活動を行うことの重要性に気付いたのです。
 DMOに取り組んでからの躍進は驚異的です。その変身の原点と活動の状況について、会長の佐藤哲章(たかあき)氏と、おもてなし課観光地域づくり係長の佐藤康子氏にお話をうかがいました。

佐藤哲章会長(右)と佐藤康子係長
佐藤哲章会長(右)と佐藤康子係長

● 高千穂の観光資源をしっかりと活かしたい

 高千穂町には天孫降臨にまつわるたくさんの観光スポットがあります。天岩戸を祀る天岩戸神社(あまのいわとじんじゃ)、天照大神が岩戸に隠れた際に神々が相談したといわれる天安河原(あまのやすがわら)、神話ゆかりの神社、神話の世界を「神楽」として毎夜上演している高千穂神社など、数え上げればきりがありません。そして誰もが一度はポスターなどで目にしたことのある真名井の滝が流れ落ちる神秘的な高千穂峡。まさに他の地域から見れば垂涎の環境といえるでしょう。
 しかし、少し前まではそれらはそれぞれ単独で活動をしていました。地域全体をまとめ上げる包括的な体制がなく、統計資料も一般的なものだけで、それを観光という地域産業に活かしきるところまでは到達していませんでした。
 「すでに数年前から観光協会の改革に取り組んでいたため、日本版DMOが動き始めたとき、これこそこの地域が必要としているものだと感じました。2016年12月に登録申請を行い、認定されて正式にスタートしたのは2017年1月と、まだ実績は浅いのです」と佐藤哲章会長は言います。
 高千穂町は町内に宿泊施設はありますが、温泉が出ないため、お客様の多くは近くの黒川温泉や湯布院温泉に泊まり、日中に観光に来ることが当たり前となっていました。高千穂町単体で考えると「日帰り」観光になることが多く、思ったほど地域内で観光消費行動が起きていないのが悩みの種でした。

天岩戸神社にある天安河原遥拝所(ようはいじょ)
天岩戸神社にある天安河原遥拝所(ようはいじょ)

高千穂神社で毎夜行われる夜神楽
高千穂神社で毎夜行われる夜神楽

高千穂神社で毎夜行われる夜神楽
高千穂神社で毎夜行われる夜神楽

● 数字がはっきりと状況を見せてくれる

 DMOの基本はマーケティングにあります。お客様の観光行動をデータとして集め、その声をしっかりと聞いて記録に残し、分析します。高千穂町観光協会もそこに注目して活動に取り組んでいます。DMOに取り組む以前は、お客様の満足度や宿泊の実数などについてほとんど把握していませんでした。しかし、さまざまなことが数字で正確に分かるようになると、現実的な戦略が作れるようになっていきました。
 「マーケティングに取り組むと、年間を通して、どの時期にどんなお客様に来ていただいているか、各観光スポットへの訪問者数、国内からと外国からとの割合、時間帯による変動など、さまざまなことがはっきりと見えてきます。そうすると、より喜んでもらうための道筋や、閑散期にどうすればお客様を呼べるか、そんなヒントがたくさん見えてくるのです。将来のあるべき姿も見えてきました」と佐藤会長はDMOの効果を語ってくれました。
 最初に高千穂峡の貸しボートで来客情報を得て、それを分析するようにしました。ボートは船舶扱いとなり、名前と住所を必ず記入してもらえるからです。それをデータ化することで、お客様の動向分析が出来ました。
 町への入り込み人数の何割がボートに乗ったか、それらの人たちがどこから来ているか、得られたデータを分析し、観光行動の流れを読み取ることが出来るようになりました。外国人客のデータも同様に分析し、宿泊者に関しては旅館組合と連携してお客様アンケートを行い、それらも有力なデータとなっています。変動する推移をグラフなどで見ることで、どのタイミングで、どこにてこ入れすればどんな効果が見込めるか、どんどん見えてくるようになったそうです。
 2016年の熊本地震直後は周辺道路が寸断されたため、この高千穂も大きな影響を受けました。数字で分ったのは、観光関連事業だけでなく、道の駅、地元商店街、飲食店などみんなに影響が出ていたことでした。このときに、地域をあげて観光誘致をしないと町の全産業が影響を受けることが分かり、「みんなつながっている」ことを共有したのです。
 このときは道路状況の情報を集めて円滑な迂回路情報を発信し、集客回復に活かすことができました。

真名井の滝が神秘的な魅力を高める高千穂峡
真名井の滝が神秘的な魅力を高める高千穂峡

道の駅 高千穂
道の駅 高千穂

● オール高千穂で観光まちづくり

 高千穂町観光協会は一般社団法人として独立した組織で運営を行っています。町は行政的分野とメディア対応を担当し、協会はプロモーションと観光地内の施設管理を担当することで役割分担しています。
 観光協会がDMO登録申請に動きはじめたころ、このシステムはまだ地域の中で認知されていませんでした。しかし、観光関係者だけでなく、農林業や商店街、旅館など、地域全体で組織することで効果が地域に波及することを説明すると、これならオール高千穂で取り組めるとすぐに受け入れられたのです。震災の経験が地域の一体化に大きな力となりました。観光協会では数年前から新しい組織づくりに取り組んでいたため、短期間で組織としての対応は進みました。
 地域との連携では、すでに開催5回を数える自転車のヒルクライム大会の存在もありました。
 6年ほど前、町の建設業組合長から自転車のヒルクライムイベントを始めたいという要望があり、観光協会と商工会の3者で自転車協議会を立ち上げたのです。大会は年々大きくなり、町の大イベントに育ちました。地域みんなが一緒にやればなんでも出来る、という意識がすでにあったのです。

● 収入は次への投資のために

 高千穂町観光協会はいくつかの事業を行っていますが、主な収入源は高千穂峡の貸しボートと高千穂神社の夜神楽です。観光客の増加に合わせ、これらの利用客が増え、収入も増加しています。
「この収入は協会運営のために囲い込んではいけません。さらにお客様を増やすための投資とするのです。数字でいろいろなことが見えるようになったので、本当に必要なところに確実に投資出来ます。宿泊稼働率を高め、組織の見直しを図りながらまた地域に還元する。人材育成や体験学習の場づくりなどが必要で、収益はそういう活動の財源にしていきたい」と佐藤会長は言います。

高千穂峡入り口の土産物店
高千穂峡入り口の土産物店

国見ヶ丘展望台から見る日の出
国見ヶ丘展望台から見る日の出

● 組織づくりこそがこれからの課題

 観光協会は一般社団法人化してまだ8年、組織の形は整ってきましたが、やるべきことはまだたくさんあります。組織を支える人材育成について、現在はまだ組織スタッフのスキルアップの時期と佐藤会長は考えています。協会職員や、4つの調査部会など、直接関わる人材のステップアップが必要な時期なのだと言います。
 オール高千穂でスタートした「4つの調査部会」では、若手からベテランまで、さまざまな立場の人が集まり、異なったテーマで地域を考えています。部会の4つのテーマは「観光客のニーズ」「高千穂の宝発見」「観光品質向上」「女性」で、11月15日には初の半期の全体報告会が行われ、具体的な行動方針も見えてきました。部会は月に1回程度開催し、年に1回は全体報告会を行い、常に交流しながら地域の向上をみんなで考え、実践する組織を目指しています。
 DMOの特色はマーケティングやマネジメントにあり、職員一人一人に深い知識の獲得が求められます。現在は日本観光振興協会や国、県などの研修に参加して内部の人間が専門知識を高め、資格取得なども含めて個々人がスキルアップしているところです。組織としてのレベルを向上させるために、可能であればマーケティングのプロを数年採用し、実践で本格的知識の蓄積していくことも考えたいとのことでした。
 現在、観光地巡りの有料観光ガイド事業も始まり好評を得ています。町が設定した資格試験をクリアしたメンバーが予約制でご案内するもので、時間と人数など、お客様の希望に合わせて多様な対応をしています。
 「ガイドさんにはいろいろな特技があって、プロカメラマンなどもいます。ガイド手当てはとても少ないですが、それでもやりたいと、町外から来る人もいるほどです。私もガイド資格を取得し、マイクロバスの運転免許も取得しました。任意なのですが、協会職員の多くが私と同様に勉強してガイド資格を取得しています」と協会の佐藤康子係長は言います。
 現在はDMO組織として発足しまだ約8か月。人材育成にあたってはまだまだ個人レベルの努力が先行する部分もあり、地域全体での人材育成はこれからの重要な課題といえるでしょう。

4つの調査部会合同で行われた中間報告会
4つの調査部会合同で行われた中間報告会

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