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2017.08.15

海外DMO事例を紹介Vol.1
オーストリアチロル州にみる地域DMO先進事例
※国土交通省観光庁『平成28年度DMOを担う人材育成プログラム策定・研修事業』報告書より抜粋


(1)チロル州観光局(Tirol Werbung GmbH)

 チロル州は面積12,640km²と日本の47都道府県の中で5番目に大きい新潟県と同じくらいの大きさであるが、人口は739,002人と人口密度がとても低い地域である。観光では、2015年の延べ宿泊数は約4,500万人泊(1,100万人の来訪、平均滞在日数は約4.2泊)とオーストリアで最も多くの観光客が訪れる地域である。
 また、観光客による消費額は州の総生産額の17.5%を占めており、観光産業は地域の最重要産業として位置づけられている。

オーストリアの州別延べ宿泊数(2015年) チロル州観光動向推移
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    オーストリアの州別延べ宿泊数(2015年)      チロル州観光動向推移

 また、チロル州への来訪者の5割以上はドイツ人であり、国内からの来訪はわずか8.6%に過ぎず、インバウンドの受入がとても活発な地域でもある。
チロル州への来訪者内訳
オーストリアの州別延べ宿泊数(2015年)

①財源確保
 チロル州観光局は、自主財源の確保のため、義務加入会費と任意会員会費、州からの助成金でなる「チロル州観光振興基金」を設けている。義務加入会費については、チロル州にあるすべての事業者が対象で、事業所の売上が地区の観光とどの程度関連があるかを等級化し、業種毎に異なる税率を設けたものである。
 チロル州観光局の観光財源の主な流れとしては、2万2千の宿泊施設から徴収できた滞在税(宿泊税)の99%は34の観光協会の財源として活用されることになっている。つまり、34の観光協会はそれぞれの地域に所在する宿泊施設から徴収できた滞在税(宿泊税)の99%が自主財源として得られることになっている。そのため、自主財源をよりしっかり確保するためにも延べ宿泊者数を維持・増加させることが重要であり、平均滞在日数とともに、重要なKPI(Key Performance Indicator)指標として位置づけられている。
 次に宿泊税の残り1%はチロル州の観交局の財源として、活用されるが、主にチロル州を代表として行うプロモーションのための費用として活用されている。
チロル州観光財源の流れ(出典:チロル州観光局)
チロル州観光財源の流れ(出典:チロル州観光局)

②主な事業内容及び役割
 チロル州観光局は独自で行っているイベントは全くなく、プロモーションに特化している組織でもある。その理由としては、各事業はそれぞれの地域の観光協会が行い、チロル州観光局は宣伝及び広告などのプロモーション活動を全面に行うと役割分担しているためである。

 また、チロル州観光局は独自に来訪者調査を行い、実態とニーズを細かく分析しており、さらに来訪者の消費額による経済波及効果も算出しており、その結果を州内の事業所への報告を行っている。そのため、観光と関連性の低い業種にとっても、チロル州にとって観光の重要性を理解しやすくしており、チロル州観光局はチロル州における観光の重要性を周知という面で非常に重要な役割を果たしている。

③マーケティング戦略及び目標設定
 チロル州観光局の主な事業であるプロモーションを行うに当たり、自然や健康など、テーマを細かく設定しており、テーマを設定するに当たっては、来訪者のニーズをしっかり把握した上で、「現状の来訪者層、今後期待される層、潜在需要層」に分けて、設定している。
 また、目標設定においては、「延べ宿泊者数」、「平均宿泊日数」、「ベッド回転率」3点をKPI指標として設定しており、長期目標としては、2030年までに「アルプス山脈のリーダーになること」としている。それの判断基準としては、チロル州がインターネット閲覧数でTOPレベルになることや宿泊予約件数がTOPレベルになることとしている。


(2)セルデン観光協会(原語名称)
 セルデンは日本の南魚沼と姉妹都市であり、面積が466.9km²と大きい地域ではあるが、人口はわずか4千人と人口密度がとても低い町である。しかし、観光の面では、チロル州の中で最も多くの観光客を受け入れている地域で、2015年は約246万人泊の延べ宿泊者数を受け入れている。地域内には1,546の宿泊施設があり、そのうち1,008施設と65%を超える施設が民宿となっている地域であり、宿泊施設の稼働率も高く、年間を通して、平均的に8割を維持している。

①財源確保
 セルデン観光協会の財源は滞在税(宿泊税)が約5割で、企業からの賛助金、イベント等の自主事業収入で構成されるが、インターネットによる宿泊の予約者には10%の手数料を徴収し、さらに自主財源の確保に取り組んでいる。
 滞在税(宿泊税)については、1人1泊当たり、平均2.1ユーロ(チロル全体平均1ユーロ)徴収している。年間予算の執行状況については、マーケティング部門が44%、インフラ整備が35%、人件費が21%とマーケティングのための予算が多く執行されている。

②主な事業内容及び役割
 セルデン観光協会は地域内の宿泊施設から宿泊税を徴収していることもあり、各宿泊施設に対するサービスの充実を常に図っており、その代表的なサービスとして、全宿泊施設から宿泊者情報をすべて収集し、データの入力も観光協会で代行し行っている。さらに、規模の大きい宿泊施設を中心に、宿泊者情報入力システムを提供し、各種分析のためのデータを収集している。
 また、収集したデータをもとに分析した結果を各宿泊施設へフィードバックしている。

③マーケティング戦略及び目標設定
 各宿泊施設から得られた宿泊者情報を基に、従来と将来の市場需要の分析や予測、属性の詳細やニーズ等を夏と冬に分けて、季節特性をしっかり踏まえて上で分析を行っている。
 
 
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夏・冬の観光動向レポート

(3)サンアントン観光協会(原語名称)
 サンアントンは日本の野沢温泉と姉妹都市であり、面積は466.9km²、人口は約2,600人とセルデンよりは規模が小さい町ではあるが、スキーの聖地として世界的にも有名な町で、年間114万人泊の宿泊者を受け入れている地域である。チロル州中では6番目に多くの宿泊者を受け入れている。

①財源確保
 サンアントン観光協会も財源確保において、セルデン観光協会同様、滞在税(宿泊税)からの財源が約51%とその比重が大きくなっている。その他としては地域独自で設けている企業からの目的税(税率1.48%)と賛助金、イベント等の自主事業収入で構成されている。
 このようにチロル州全体として、自主財源に占める滞在税(宿泊税)の比重が最も大きくなっているが、それだけではなく、セルデン観光協会ではインターネットによる宿泊の予約者には10%の手数料を徴収したり、サンアントン観光協会では地域独自の企業の目的税を設けたり、地域全体として話し合い合意形成し、地域の観光振興に取り組むための自主財源確保のための努力をしている。

②主な事業内容及び役割
 サンアントン観光協会もセルデン観光協会同様、地域内の宿泊施設に対するサービスを強化しており、現在の宿泊予約状況を集め、観光協会の建物の壁面に設置している電光板にて来訪者に案内を行っている。これには地域内の95%の宿泊施設が協力をしている。


 さらに、もう一つのサービスとして、専属のスタッフが毎日、町中を歩き回り各施設に訪れ、宿泊施設のHPやWEB上の予約システムに関するアドバイスや技術的な支援も行っている。
 また、町役場と協会がそれぞれ50%出資し、有限会社を立ち上げ、ゴンドラ、リフト、スキーやトレッキングコースなどのインフラ整備を全面的に行っている。

③マーケティング戦略及び目標設定
 サンアントン観光協会においても、各宿泊施設からの協力の基、マーケティングデータの収集し、細かい分析を行っている。さらに、宿泊者データ以外に2年置きに来訪者調査も実施している。
 また、来訪者の利便性を高めることを主な目的に来訪者向けの「ウェルカムプレミアムカード」を提供及び販売している。本カードではゴンドラ、リフト、バス、自転車など町中の全ての交通システムが利用できるようになっている。
 さらに、すべての着地型観光プログラムに参加できるものとしており、各事業所がそれぞれ販売していたものを集約でき、収益率も上げることに貢献できている。
 本カードは3日券、5日券、7日券と3種類あるが、宿泊者全員には初日は無料で使えるカードを配布している。
 
ウェルカムプレミアムカード

カードの販売料金

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