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2016.04.01

【第3回】日本版DMOと新型交付金について


●地域からの問い合わせが多く、関心が高い「新型交付金」

従来の観光の枠組みを超え、多彩なプレイヤーの連携による地域を挙げた魅力づくりをめざす取り組みのなかで、 中心的役割を果たす組織、それが日本版DMO(Destination Management / Marketing Organization)です。
 平成27年11月に「日本版DMO候補法人」の登録制度が創設され、平成28年2月には第1弾として、24の候補法人が登録されました(詳細は連載第2回参照)。
第2弾については、観光庁に3月10日までに申請のあったもののうち、登録要件を満たしていると認められるものを、4月中に登録を行い、公表するとのことです。


登録に関心のある地域の団体や自治体からは、観光庁や地方運輸局にいろいろな問い合わせが寄せられています。 中でも多いのは、平成28年度に申請受付がスタートする「新型交付金(地方創生推進交付金)」との関係です。


観光庁の観光地域振興課によると「日本版DMOに登録したら、新型交付金を受けられるのか?」「いつまでに登録すれば、新型交付金を受けられるのか?」 といった質問が多いそうです。
 これに対しては、「日本版DMO候補法人としての登録は、新型交付金の交付を受けるに当たっての必須要件ではない一方で、 交付決定の審査において一定の評価を受けることが可能と思われる」とのことでした。
 なお、「新型交付金の申請〆切を過ぎても日本版DMOの登録は可能か?」という質問も多いそうですが、これに対しては 「日本版DMOの登録自体が可能であり、まったく問題ない」とのことでした。


現時点で申請スケジュールなどが未定で、詳細な制度設計も明らかになっていない部分がありますが、新型交付金とはどういうものなのか、 日本版DMOとはどういう関わりがあるのか、基本的な概念についてご説明しましょう。


●これまでの流れ~「地方創生先行型交付金」から「地方創生加速化交付金」へ

新型交付金の交付に至るまでのプロセスは、大きく3つのステップに分かれていると言えます。 最初のステップにあたるのが、平成26年度の補正予算に盛り込まれた総額1700億円の「地方創生先行型交付金」です(下記図表の緑部分)。

地方創生加速化交付金の概要

(元資料:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/tihousousei_setumeikai
/h27-12-18-siryou2-3.pdf
)

地方創生先行型交付金の概要
http://www.maff.go.jp/j/kanbo/saisei/zenkoku_kyogikai/pdf/siryo3_2sousei_kaigi.pdf


この交付金は「地方版総合戦略」(注)に基づき、地方の活性化に対する各自治体の自主的・主体的な取り組みの支援を目的としています。 1700億円のうち1400億円は基礎交付として分配され、300億円は「上乗せ交付」として、他の地方公共団体に参考となる先駆的事業に対して交付される形となりました。 上乗せ交付の内容は、後の項目で詳しく説明します。

(注)「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に沿って、地方公共団体に対して国が策定を推進する政策目標・施策。地方は2015~2019年度まで5か年に渡り、 自立につながるよう自ら考えた戦略を推進し、国は情報・人的・財政支援を切れ目なく展開する。

 続いて2番目のステップにあたるのが、平成27年度の補正予算で1000億円が計上された「地方創生加速化交付金」です。
 この交付金は国から都道府県・市町村に対して10/10を助成するもので、「地方創生先行型交付金」に引き続き、地方版総合戦略に 基づく各自治体の自主的・主体的な取り組みを支援し、さらに「加速化を図る」ことを目的としています。
 地方創生加速化交付金については、既に平成28年2月で自治体からの申請を締め切っており、3月18日に交付対象事業が決定しました。

地方創生加速化交付金の概要
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/tihousousei_setumeikai/h27-12-18-siryou2-3.pdf

地方創生加速化交付金 交付対象事業の決定
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/pdf/h27-kasokuka.pdf


●1/2助成の「新型交付金」は5年間以内、複数年度の交付も可能

そして3番目のステップに位置づけられるのが、平成28年度から交付が予定される新型交付金です。平成26年度からベース作りを進めてきた地方創生事業の本格実施に向けたもので、 国から都道府県・市町村に対して事業費の1/2を助成し、地方自治体が1/2を拠出します。

 平成28年度の概算要求額は1000億円、事業費ベースで2000億円程度が見込まれ、都道府県は1事業あたり国費2億円(事業費ベースで4億円)、市区町村は1事業あたり国費1億円(事業費べースで2億円)が助成の目安となります。
 計画認定期間は5カ年度以内とされ、安定・継続的に事業が行えるよう、複数年度に渡る交付も可能とされているのが特徴です。

支援対象である先導的な事業は、以下の3タイプとされます。

・「先駆タイプ」   官民協働、地域間連携、政策間連携などの先駆的要素が含まれている事業
・「横展開タイプ」  先駆的・優良事例の横展開を図る事業
・「隘路打開タイプ」 既存事業の隘路を発見し、打開する事業


想定される支援対象としては、1)しごと創生、2)地方への人の流れ、3)働き方改革、4)まちづくりの4項目が列記されており、1)の具体例の一つとして、日本版DMOの設立が挙げられています。
 また、各事業ごとに具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定し、PDCAサイクルを整備すること、外部有識者や議会の関与なども含めて効果検証を行い、その結果について公表するとともに、国への報告を行うことが求められています。
新型交付金の取扱い(案)について(2016年1月14日発表)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/meeting/tihousousei_setumeikai/h28-01-14-siryou3-2.pdf


●「上乗せ交付」対象事業は観光分野が事業数・交付額ともに最多

平成27年11月10日、地方創生先行型交付金の上乗せ交付分300億円の対象事業が決定しました。
 事業は2種類に分かれ、このうち一団体当たり都道府県3~5億円、市区町村3~5000万円を目安とする「タイプI」は、 他の地方公共団体の参考となる先駆的事業を対象としています。対象事業は自治体が応募した事業の中から、先駆性を 認められるものが15人の有識者から構成される評定委員によって選定されました。

地方創生加速化交付金「上乗せ交付分タイプI」の対象事業
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/pdf/h27-11-10-uwanose-type1.pdf

 日本版DMOが新型交付金の中でどのように位置づけられているのかを見る上で注目したいのが、この上乗せ交付分の対象事業です。
 新型交付金の「先駆タイプ」の事業構築については、上乗せ交付「タイプI」の特徴的な取り組み事例を参考として活用してほしいという一文が「新型交付金の取扱い(案)について」に明記されています。
 具体的にはどのような事業が選ばれているのか、観光分野や日本版DMOに関連する事業について、注目して見てみましょう。

 「タイプI」の上乗せ交付対象となった事業数は709件、合計交付額は236億円となりました。その中で、観光分野の事業数は全体の27%にあたる188件、 交付額は交付総額の29%にあたる69億円で、分野別に見ると件数・交付額ともに最も大きなシェアを占めています。

 また、日本版 DMO の立ち上げに向けた44事業(12道県90市町村)が交付対象事業となっており、観光分野の事業数の中で約4分の1を占める形になります。
 取り組み事例として、第一弾の日本版DMO候補法人で広域連携DMOに登録した一般社団法人せとうち観光推進機構の設立準備 (詳細は連載第2回参照)、 北海道の洞爺湖・豊浦・壮瞥の3町によるDMO設立準備、鳥取・島根の2県による山陰のDMO設立準備の3事業が、 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/pdf/h27-11-10-uwanose-type1.pdf の最後に掲載されています。

 これらのデータなどから、地方創生に対して観光が果たす役割への期待はかなり大きく、それを支える先駆的取り組みとして日本版DMOが重視されていることを読み取ることができます。


●新型交付金は地方が自立して稼ぐための「初期投資」

平成26年度からスタートした新型交付金に至るまでの一連の交付金施策の目的は、地域の自主的な「稼ぐ力」の養成と言えます。
 日本版DMOについては、KPI(重要業績評価指標)を設定し、PDCA サイクルを整備して客観的な視点を取り入れることなど、事業の推進方法にも新型交付金の対象事業と共通点が多く見られます。

 日本版DMOを設立する場合、必須となるマーケティングの人材育成など、初期段階にはさまざまな手間やお金がかかります。そうした事業のキックオフに必要な支出を支援するツールとして、 新型交付金は有効な原資として活用し得ると言えます。

 ただし当然ながら、対象事業は自立に向けて態勢を整えていくことが求められ、交付予定の5年間という期間は、組織が自立するための準備期間と言うことができます。

 日本版DMOの設立を検討する地域が、新型交付金を初期投資としてうまく活用するには、5年後の自立をきちんと見据え、実効性のある事業計画を生み出すことが最も肝要と言えるでしょう。

 日本版DMOの登録申請に関する問い合わせは、観光庁の観光地域振興課で受け付けているほか、観光地域づくりの取り組みについて気軽に相談できる場として各エリアの運輸局観光部観光地域振興課に 「観光地域づくり相談窓口」が設けられており、個別の問い合わせに応じています。ぜひ、積極的にご活用ください。

各エリアの相談窓口連絡先