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DMO研究講演録

2014.05.15

第5回DMO研究会

観光地の安全管理マネジメント。

昨今は地元、例えば観光協会やNPO等による着地型商品販売も盛んになっていますが、旅行者の安全の確保はどうなっているのでしょうか。また、事故が発生すると観光地への客足が遠のき、回復に時間がかかるといった地域全体へ悪影響を及ぼす例も指摘されています。こういった中で、一事業者にとどまらず、地域として安全対策を検討する必要性が高まってきています。
第5回研究会では、自然体験プログラムのリスクマネージメントについて、(株)エコビジョンブレインズ代表取締役の田村孝次氏にお話を伺いました。田村氏は河口湖でカヌーやバギーなどの野外体験事業を展開しておられ、過去16年間の緊急搬送率0%、賠償責任保障に発展したケースもナシという、安心安全の商品を提供されています。現場での経験に基づいたプレゼンに、会場からは具体的かつ専門的な質問が投げかけられました。

※資料等も含めた会議録のダウンロード(PDFファイル)

研究会レジュメ

 
▼現代社会における事業者の責任と安全対策の重要性

今、観光地を支えているのは専門職だけに限らず、地域住民、有志、ボランティアなど、いろいろな方がいらっしゃいます。皆さん「保険に入っているから大丈夫」とよくおっしゃいます。ところが、これは安全の仕組みではなく、専門職の視点として体系的な安全対策と仕組みが受入体制側に浸透しているとは言えません。
実際このような事例がありました。例えば八丈島のファインダイバー見失い死亡事件です。業務上過失致死罪略式起訴です。利根川の「デスロック」ラフティング衝突事件、死亡事故が起きている野外活動ではありますが、業務上過失致死罪執行猶予付きの禁固刑です。屋久島の沢登、これも亡くなられた方がいらっしゃる。業務上過失致死罪、旅行業法違反で起訴され、禁固刑、執行猶予5年。
これらは、アウトドアということでなく、今日、全国で展開されている着地型旅行商品、それも自然の中で体験したり業務をされている方がお客さんを連れて歩いたり、という体験プログラム全般に対して言えることです。

では観光地の事業者にはどのような責任があるのでしょうか。まず刑事責任、それから民事的、経済的責任、行政上の責任、海難審判庁が介入したり食品衛生等に関わる行政の関与もあります。また人道的な責任、道徳、道義、倫理的責任なども、観光事業者には付きまとっています。社会通念上の責任などもあるでしょう。ちなみに最近レンタル自転車は非常に人気ではございますが、昨今自転車に関わる保険は大変入りにくくなっています。自転車を貸しているだけでも実はPL法、製造者責任に引っ掛かったりするのです。
つまり、律令国家日本で事業をしている以上、知らなかったでは済まされない、責任回避はできないのです。この状況でどうするかが重要です。

▼一事業者の事故が観光地全体へと波及

事故とはさまざまな小さな因子が複雑に絡み合って偶然の積み重ねで発生するものです。事故は起きるものです。もしも事故が起きてしまったらどうなるか。いろいろな意味の損害が発生します。
まず観光客に及ぶ損害として、事故の頻度や原因であったり、けがの度合いや治療期間、痛みの度合いや後遺症の度合い、精神的苦痛、心的外傷(PTSD)。運営側として、機材等の損害や対処のための時間的・経済的損失。
そして、観光地ではこれが重要ではないかと思いますが、類似業種への経営的悪影響やメディアへの露出の結果、地域に汚名をつけてしまい地域の宿泊や観光施設に副次的に悪影響が波及する、といったことが顕著に表れています。天竜川の船下りの事故は静岡側で起きたものですが、県境を挟んで長野県でも同じネーミングであったため、長野のほうに誰もお客さんが行かなかったという期間がありました。このように、一事業者の事故にとどまらなくなってきていると言えるのではないかと思います。

▼事故の損害を減らすため、安全の仕組みづくりが必要

では損害を減らすとために何をしなければならないか。安全の仕組みの構築や、安全もしくは危険、事故等々に関する理解、安全確保のための対策が必要ではないでしょうか。
皆さんよくこんなことをおっしゃいます。「大丈夫、大丈夫。うちは誓約書つけているから」。ところがこの誓約書は今の日本の法律では役に立ちません。誓約書がまかり通る時代ではなくなりました。
神奈川県でダイビングをした女子大生が、ガイドのミスで海底から上がってきませんでした。最終的に脳に重度の障害を負ってしまい、被害者がダイビングショップとインストラクターを相手に損害賠償を求めていた民事裁判の一審判決では、1億8,000万円の損害賠償請求に対して、1億6,000万円の支払いを命じる、というものでした。1億8,000万請求されたら大体9,000万とか1億ぐらいで収まるのですが、満額に近い請求が司法の場でも判断され、実質的にダイビングショップ側の完全な敗訴です。これの大きな理由に、「伝家の宝刀」とも言える「免責同意書」を盾にダイビングショップ側は「責任はない」と主張したということが、司法の場で逆手に取られた結果なのです。つまり、事業者自体が責任逃れのためにこの免責同意書を盾に戦おうとしても、もう通じませんよということです。
では、誓約書の意味はどういうことか。これは、事業者側の損害をいかに軽減するかというところに重きを置くべきだと考えています。この方法論もいろいろありますがしっかり見せる工夫も具体的に必要ではないかと思っています。
それから、ボランティア、アルバイト、見習いだから罪はない、上(会社)の責任だ、という社会的な通念は全くの間違いです。業務でやっているからすべて会社の責任かと言ったらそうではありません。報酬の有無、経験の有無、正社員かアルバイトかに関わらず、実際にお客さんの身近にいてお客さんと接してその管理下で事故等が発生した場合、業務上の責任を必ず負うことになります。

(左)講師の説明に熱心に聞き入る参加者              (右)講師の田村氏



▼地域の損害を減らすには?

ではどうしたらいいか。要は地域のステークホルダー(利害関係者)すべてが、その地域全体の観光振興を思っているとするならば、皆さんで安全の話をするのが理想ではないでしょうか。さらに、コンセンサス(合意形成)を得ながら仕組みを作っていく。
山梨の青木ケ原樹海を例にとると、行政さんも事業者も皆で守っていこうという、科学的に根拠を示して定めた青木ケ原樹海ガイドラインというのがございまして、それを僕らは運用しています。観光客や参加者が中心の仕組みが重要です。事故やけが、事象、その他安全に関わる問題をなんでも可視化するのがいいかもしれません。その地域、その事業の中から、危険因子の洗い出しというのをしてみるということです。

▼安全の仕組みは安全管理と安全対策

安全の仕組みには二つの枠組みがあります。安全管理と安全対策です。では、その二つの違いをご存じでしょうか。
安全管理とはリスクコントロールです。要は直接的に何かをすることです。応急手当ての技術であったりレスキューの技術であったり、避難誘導とか消火活動の、実際の行動のことを言います。消防の2時間の講習会を受けてライセンス持っているから大丈夫とおっしゃっている方が多分9割以上いらっしゃるけれど、実際お客様が倒れてできるでしょうか。万が一の時に手をさしのべることのできる態勢を整えることが「真のおもてなし」につながるのではないでしょうか。
二つの枠組みのもう一つ、安全対策が俗に言うリスクマネージメントで、安全上の重要な問題が起きないよう、もしくは、被害を最小限に抑えるために事前に策を講じておくことです。どこで応急手当てを発動するか、手当をするのか、指導するかのルール決めが安全対策です。また安全マニュアルや緊急フローチャートの作成、保険の加入、スタッフ教育も安全対策です。

▼安全対策の視点-危険因子の洗い出しとフェイルセーフの思想

安全対策は、一人で、もしくは非常に狭い世界の中で考えるのではなく、社会的な判断等々も含めて事業者、企業内部、関係者間で徹底的に討論し、危険因子を洗い出しましょう。「何かあるのではないの?」と思った時点で予見可能性というのが生まれてきます。その予見可能性の対策をしなければ訴訟問題発生時に非常に不利になります。
平成10年、ニセコでガイドに引率されたスノーシューツアーが雪崩に遭い、2人の女性のうち1人が死んでしまいました。もう1人が6日間入院。判決は、予想される危険から保護すべく万全の備えをし細心の注意を払わなければならないのはガイドとして当然であると。雪崩発生の予見が不十分、限られた情報、経験のみに頼った軽率な判断だという、判決結果が出ています。ガイドさんが、「もしかすると今日、昨日雪が降って気温が高かったからさらさらの雪が雪崩起こすかもな。でも降った量が少ないからいいや」と思ったとしたら、それはもうその時点で予見可能性があって、裁判の場ではこういったような判決が出るということなのです。これは執行猶予付きの禁固刑です。非常に乱暴な言葉ではありますが、無知は免責の理由にならないのです。

ここで重要なのが、「フェイルセーフ」と「予備計画」というものです。「フェイルセーフ」とは、安全をより確実にするためミスや不具合をあらかじめ想定し、その影響や損害を最小限に抑えるために設計する、という思想です。そしてこうなったらこうしようという予備計画が非常に必要になってきます。
フェイルセーフを妨げる最も大きな原因に「正常化の偏見」というものがあります。富士山でまた死亡事故が起きましたが、この道40年のベテラン山岳ガイドが富士山に登り、連れて行った方を1人亡くしてしまいました。自分は7合目まで自力で下りてきて救助されました。明らかな「正常化の偏見」です。素人が相手でしたら絶対登らないのは分かりますが、ちょっとした経験者を相手に頂上を目指して事故が起きたのです。要は自分のスケールで測ってしまった結果、思い切り「正常化の偏見」をしてしまいました。予見可能性はたくさんあったはずなのです。

▼「安全対策」をうまく機能させるには「人(スタッフ)」の教育が必須

以上のことを踏まえ「安全の仕組み」の設計をします。ポイントは、徹底的に指導者や運営側の過失をなくすことです。「安全対策」はいわばさまざま損害を軽減するための「ソフト」なので、それを動かす「OS」が必要で、やはり「OS」は「人」なのではないか。「スタッフ教育」とか「人材育成」みたいなもの、これは必須であると思います。
また、先ほどの「保険に入っているから大丈夫」ですが、保険とは経済的なリスクをカバーするためのものであって、罪を逃れるためではありません。ですので、保険も安全対策の一つとしてカバーしておくのがいいですが、使い方によっては無駄なお金になってしまいます。保険にもたっぷり種類があって、傷害保険と賠償責任保険の違いは何か、役割は何かといったことを今一度考えられたほうがいいかもしれません。
傷害保険は、活動中に発生した偶然・急激・外来の障害事故にしか使えません。富士山一周120キロをウォーキングして、参加者が「膝が痛い」と言っても保険は下りません。掛ける側、お金を払う側が、いかに賢くこの保険を使い分けるかということになります。
賠償責任保険は、法の場で、「おまえ駄目だよ」と言われたときにどうやって賠償するかです。身近に自賠責と言われているものがございますが、施設所有者、管理者賠償というのがあったり、対人賠償、スポーツ賠償、産物賠償、動産とかそういったものに掛けたりとか、保管者(受託者)賠償とか家人賠償みたいなものがこの観光の業界では関係してくるのではないでしょうか。

▼日頃からの対策が損害の軽減につながる。事故後の対策も必要

今日では、行政とか中間支援組織・事業者等々、観光地ではさまざまなファクターが存在して着地型旅行商品を積極的に取扱い、販売しています。主催・共催・旅行の募集、あっせんなど、商品を売るために誰もが消費者とさまざまな関わりを持っているという事実がございます。そこに消費者基本法、消費者契約法というのが関わってきます。危険情報の開示、致死性の認知の隠ぺいなども非常に重要になってきますし、「特別の危険性の警告」、正常化の偏見の排除なども非常に力を入れてやっていかなければならないということなのです。説明義務責任に基づく情報提供、商品の品質保証責任というのが実際かけられているということです。

行政・中間支援組織・DMCといった「責任ファクター」としてのリスクヘッジとして、資格商品の品質保証責任を考えると、売る商品の基準のようなものを皆で作っていくというが重要なのではないかなと思います。要はマル適です。
次に損害の軽減として、事故は起きるものなので、最悪は公の場で裁かれる。量刑は?ということになります。事故が起きた場合にも対策というのが必要で、ちょっとした事故でありながらどういうわけか10日から2週間の事故になった場合は刑事責任を問われるということがあります。死亡してもいない、緊急搬送されたわけでもない、まあいいやと言っているとひどい目になります。なので事故後の安全対策も必要になってきます。
あとは危機管理の必要性としてクライシス・マネージネントという言い方をしますが、どこへ行っても地震と向き合っていかなければならないので、何ができるかを地域で考えていきましょう。
観光地におけるご自分たちの立場というのをまずはっきりして、事業者さんとどう付き合うか。行政のPR活動にどう介入していくか、参加していくか。イベントをどうやって、どの立場として盛り上げていくか、そういったようなものが必要になってくるのではないかなと思います。

 

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