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事例紹介

2016.02.01

シリーズ着地型観光考

女性に人気のカフェスタイルの道の駅が、着地型観光の拠点に

ケース2 道の駅「花の駅・千曲川」(長野県飯山市)

 
 

遠くに山々、その手前を流れる千曲川。電柱も看板もない。
国道117号沿いのこの絶好のロケーションに建つ長野県飯山市の道の駅「花の駅・千曲川」が、昨年末、女性誌の「通いたくなる『道の駅』ランキング」の第3位に選ばれた。2012年4月にリニューアル。1年を待たずリピーターを獲得。
2014年には北陸新幹線の飯山駅開業を控え、駅と連携しながら複合的な観光情報の拠点へと進化し続ける「花の駅・千曲川」の人気の秘密を探った。

信州いいやま観光局の木村さん(左)と、「花の駅・千曲川」の岡本支配人。改築費用は観光局と行政が負担。「観光局が直営する理由も含めて地域の中での合意形成のための調整がけっこう大変でした」(木村さん)

 
▼女性おひとりさまがふらりと寄れる道の駅のカフェ 

窓際のカウンターに陣取り、雄大な外の景色を眺めながら、まったりとコーヒーをいただき読書する。そんな30~40代の女性おひとりさまの姿が見られるのが、「花の駅 千曲川」の「cafe里わ」だ。昼時ともなればランチ客でにぎわう。飯山産素材を使った週替わりメニュー、長野産素材を使った月替わりメニューのほか、特産であるきのこをふんだんに使ったグラタンやドリア(冬季メニュー)など、盛り付けも美しく、味のレベルも高い。東京でカレー屋を営んでいたシェフのセンスに脱帽である。

入口を入ってすぐに目につくのは、土産物コーナー隣の明るいスイーツショーケース。飯山市内外の17店舗の和洋菓子屋の商品が並んでいる。上杉謙信の城下町飯山市には、敵から城を守るために堀のように配された多くの寺と共に生きてきた江戸時代から続く和菓子屋も多い。だが、旅人がふらっと立ち寄れる雰囲気の店は少なく、そこを橋渡しするのが、このショーケース。1個単位から購入でき、好きな飲み物と一緒にカフェでイートインも可能。選んで、試して、買うことができるのである。

何より、箱にかしこまっておさまっていた地味な色合いの和菓子たちが、一緒にディスプレイされることで、まるでひとつひとつが全く別の新しいお菓子のように感じるから不思議だ。思わず、ひとつ、ふたつと試してみたくなる。
「実際、ここでコーヒーと一緒に食べて美味しかったからと買って帰られるお客さまが増えました」とは、「花の駅・千曲川」の岡本恵子支配人。

「花の駅・千曲川」には主に、県内、関東地方、中越からの来訪が多い。

「里わ」の名称は、唱歌『おぼろ月夜』の2番の歌詞から。里わ=里のあたり、まわり、輪、環、和の意味を込めている。7時30分からの朝食も好評。地域の50~60代の1人暮らしと思われる男性がほぼ毎日通っているのだという。

▼スタッフ全員で各地のカフェを体験し、徹底追求

「『道の駅=農産物直売所』という構図から脱却したかったんです」
と、一般社団法人信州いいやま観光局事務局次長兼営業企画課長の木村宏さんは言う。同局は、2010年に飯山市観光協会が飯山市振興公社を吸収して誕生した、着地型観光に取り組む観光地域づくりプラットフォームだ。(関連記事はこちら)

「道の駅の大型直売所が地域に経済効果をもたらすのも、農家と観光客が触れ合う接点になっているのも結構なこと。ただ、もう少し別の『顔』があってもいいのではないかと思ったんです。」
コンセプトは、「単なる物販施設ではなく、地域の情報発信基地であり、地域住民が買い物を楽しむ場所であり、地域の特産品開発を先導する機能を持った施設」。確信的に、地域食材を使った現代的なカフェをつくることで、道の駅をもう一度、地域商品や地域を発信する拠点として捉え直すことにしたのである。
※道の駅とは、国の定義によれば、「休憩」、「情報発信」、「地域の連携」という3つの機能を持った施設。

道の駅の前身の「桜広場交流施設・千曲川」が国道117号線沿いにできたのが2002年。当時からゆくゆくは道の駅にする構想があり、施設には、JAに運営委託する小さな農産物直売所もあった。
道の駅に認定された2005年、さらに2009年とJAは相次いで直売所を増設。ようやく出荷生産者の収入増につながり始めたところで、施設からテナントの食堂が撤退。「食べるところがほしい」との来訪者からの要望もあり、2012年にリニューアルとなった。

「定食屋も悪くはないけれども、改築するならば、もう少し地域食材を使うなど地域色が出る飲食店にできないか。やるからには、流行る店にしなければならない。素材にこだわり特化した蕎麦屋、惣菜屋(デリ)などの案も出ましたが、今はカフェだろうと。」(木村さん)
出張先では必ずカフェを訪れ、特に、東京のカフェは「山ほど見た」という。岡本支配人やスタッフも各人が各地のカフェを体験・偵察、「cafe里わ」ができるまでは職場の飲み会なども長野市内のカフェで行う徹底ぶりだった。

そうして完成したのが「cafe里わ」。これまで風除室などに遮られてクローズドで入りづらかった空間に窓を増やして光を取り入れ、見違えるほど明るくなった。
「以前はこんな平日の昼間に人は入っていなかった。特に冬は」。その結果、スキーの常連客たちが「花の駅・千曲川」に寄ることを楽しみにしてくれるようになり、彼らの滞在時間が伸びた。また、直売所に買い物に来たついでにカフェでお茶を飲んでいく人たちも増えてきた。「それで、14時以降の喫茶の需要が出てきたんです」

▼ここは、スイーツ事業の集大成兼アンテナショップ

食材は毎朝直売所から。「cafe里わ」は貯蔵する冷蔵施設が狭いこともあり、直売所が食品庫代わりなのである。
また、厨房も、スイーツを自作するまでの規模がなく、ならば、市内外17店舗もの和洋菓子屋の商品を、地域食としてカフェでプレゼンしない手はない。
信州いいやま観光局は、スイーツをまちあるきの重要アイテムだと捉え、3年前からスイーツ巡りの仕組みづくりに取り組んできた。市内14店舗の和洋菓子屋が一堂に会するスイーツビュッフェイベントを仕掛けたところ、これが大盛況。当初、他店と一緒に商品を持ち寄ることに事業者は抵抗があるのではとの心配もあったが、意外にも菓子組合の反応は「おもしろい!」。2年間実施し、大きな自信につながった。

道の駅リニューアルの際も、カフェの食材の目玉にしたいと菓子組合に相談し、賛同を得てのスタート。とはいえ、前述したように、各菓子店は、地元需要で十分経営が成り立っているところに店主らの高齢化も手伝い、「最初は『道の駅に置いてもらう必要はない、置かなくていいから』というスタンスのお店もあって、説得が大変でした」(岡本支配人)
それが、「花の駅・千曲川」に出すことで多少なりとも小遣い稼ぎになることがわかってくると、少しずつ状況は変わっていった。
スタート時の14店舗から、現在では17店舗全ての商品を置くに至っている。

いわばカフェは、飯山スイーツ巡り事業の集大成であり、アンテナショップ。
飯山市では、今も法事など行事のたびに、市民は地元の菓子店からお菓子を買い、お仕えものやお茶に使う。寺町のお茶の文化が生活の中に確かに息づいている飯山市独特の価値に別の角度から光を当て、「花の駅 千曲川」を拠点に、各菓子屋の店舗へと回遊する人の流れをつくるのも、カフェ設置の目的の1つだ。
カフェの全テーブルには市内菓子店の「スイーツマップ」が置かれている。実際、「本店が休みでもここで買えるからありがたい」、「ここで買っておいしかったから、本店で箱買いした」という声も聞こえてきている。

スイーツのショーケース。和菓子が多いので、地味な色になるかと思いきや、意外とカラフル。

大ヒット商品「肉球マシュマロ」。「見本を触ると、たいていの女の子は好きになって、買ってくださいます」(岡本支配人)。通常は通販でしか買えない。

▼観光客+αで集客増のために、地元需要を伸ばす

ターゲットは、ズバリ女性だ。「それも主婦層です」と、木村さん。
なぜか?「観光客にプラスして新たな顧客層を獲得するには、地域の人が頻繁に来る施設にすることです。ちょうど、この近くのJAのスーパーに来るのが、子育て層から団塊世代ぐらいまでの地元の女性たちでしたから」
なかでも狙ったのは30~40代の主婦。
「保育園に子どもを送った帰りやお迎えに行く前に、ママ友がグループで来店して、野菜を買ったり、お茶を飲んだりしていただくことを考えました」(岡本さん)
そして、このターゲット設定は見事当たった。
「ホントに30~40代の女性の利用客が増え、中にはおひとりでランチに来たり、お茶を飲んで1~2時間読書をして帰られたりする方も。うれしいですね」

▼トイレは、女性にとって再訪動機の重要ポイント

女性に選ばれる道の駅には、女性ならではの工夫がある。トイレだ。
設備はいたって普通の道の駅のトイレ。入ってすぐに気づくのが、何ともさわやかでナチュラルな癒される香り。岡本支配人が、ある高速道路でトイレ休憩した時に気に入り、すぐにメーカーを調べて仕入れた商品である。
「うちは申し訳ないようなコンパクトな道の駅です。だからこそ我が家のようにしたいと思ったんです。私がうちで最初に掃除をするのがトイレと玄関。だからとにかくそこを大事にしようと」
女性にとってトイレの美しさは、その施設を利用する重要なポイント。中には、「会社帰りにここのトイレに寄って、ホッとする」という市民もいるほど。
昨年から観光バスのルートになり、トイレ休憩利用が増えた。「たまに、運転手さんやガイドさんにお話をお聞きすると、『ここはトイレがきれいだから』と言ってくださるんですよ。彼らのクチコミもあるのかもと思います」

▼女性目線の品揃えとディスプレイで売上30%増に

施設のリニューアルと共に一新したスタッフは、学生バイトまで入れて15人。うち男性は2人。ここでも主力は女性たちだ。大事にしたのは、「あらゆる場面で『みんなでつくる』を意識付け、従業員全員が参画するようにしたこと」(木村さん)。スタッフは担当別に、「スーベニア(おみやげ)チーム」、「カフェホールチーム」、「カフェキッチンチーム」、「情報発信チーム」に分かれ、それぞれがコンセプトに合った「花の駅・千曲川」にふさわしい設えや商品構成に知恵を絞った。

たとえば、お土産コーナーは、地場産品の「飯山謹製堂」の隣に近隣市町村の特産品が並ぶ。中でも飯山市民に好評なのが全国の道の駅交流による各地の特産品だ。全て、女性スタッフが、自身がお土産に持って行きたいもの、食べたいものを各自リサーチして持ち寄り、取捨選択して決めた。だから、スタッフのイチオシ商品ばかり。ここにも、女性目線が生きている。

もちろん、地域の事業者の商品を扱えば、原価率は上がる。
「ナショナルブランドの信州限定お菓子の原価率に比べると、地元からの仕入率は低い。商品の原価率10%程度では、なかなか商売になりません。結果的に、数多く売らなければならなくなっているのも確かです」(木村さん)

ただ、複合的なしかけの相乗効果は、確実に出てきている。
リニューアル後、お土産コーナーの売上は30%増加。女性目線の商品構成、プライスカードのゆがみまで徹底的にチェックして力を入れてきた買いたくなる売り場づくり、地元の人たちが買い物を楽しめるよう、北から南まで全国のさまざまな逸品を取りそろえるなどの手間と努力の賜物である。

▼地域の若者たちのチャレンジの場としての活用提案

今年度から新たに力を入れていきたいのが、地元の若者たちなどの商品開発のテストマーケティングやプレゼンの場としての道の駅の活用だ。彼らの情熱を自己満足で終わらせることなく、ここで発表して来店者の反応や売れ行きを見ながら着実に商品化していってもらえればと、お土産コーナーの一画を、新規商品の挑戦コーナーにする予定だそうだ。
年4回シーズン毎に発行されている「花の駅・千曲川」のA3のチラシ「MUST MAP」(4つ折りにすれば、パンフレットとしても使用可能)にも、地元の新規商品やそのつくり手たちの情報などを掲載していくという。

周辺市町村特産品コーナー前で、スーベニアチームの岡田里恵さん。売れ筋は、500~800円の商品。やはり、中身が見えて、ネーミングなどから味の想像がつくものが売れるのだという。

情報コーナー。壁面右の飯山市地図には市内の各スポットがプロットされており、左のコルクボードには「食べる」、「遊び」など目的別にスポットの簡単な紹介とスタッフからのおススメコメントが。それら各スポットの番号と、手前の、穴の中に筒状に立てられたパンフレットの番号とが同期。位置や目的に応じて、行きたい場所のパンフレットが簡単に見つかり取り出せるようになっている。

▼着地型商品の新たな市場と道の駅の主要顧客が一致

再来年の新幹線駅開業を前に、飯山市では、本格的な受け入れ体制整備が急ピッチで進んでいる。これまで同市は、スキー観光地の新たな活路としてのグリーン・ツーリズムや森林セラピーなどに取り組んできた。だが、いつも課題は販路。小さな宿や事業者を多く抱える地であるがゆえ、エージェント頼みだけでは、地域全体に経済効果をもたらすことができない。そのため、自ら商品の販売を手掛けようと、2007年6月に法人化し、旅行業第3種を取得。2010年には信州いいやま観光局を設立し、旅行業第2種も登録。翌年から、着地型旅行商品「飯山旅々。」の企画・販売を開始している。

旅行者は、広範囲に動く。スキー場毎にある観光協会が単独でプロモーションを行うのはすでに限界だった。現在、信州いいやま観光局がカバーするのは、半径20kmの9市町村(車で0.5~1時間)。「花の駅・千曲川」の情報コーナーも、広域エリアの拠点として来訪者が周遊できるようリニューアルを検討中だ。車での来訪者のワンストップ窓口として、道の駅と新幹線駅の観光案内所とが緊密に連携し、情報発信を強化していきたいと木村さんは話す。

1997年オープンの体験型宿泊施設「なべくら高原・森の家」が積み重ねてきた体験プログラムのノウハウをベースに、森の家スタッフと各市町村の行政、観光協会、地域住民タッグを組んで6エリア合計300を超えるプログラム(通年)を開発した「飯山旅々。」。見えてきたのは、美・健康・食の要素が組み込まれた森林セラピーなどのヘルスプログラムに貪欲な、30代後半~40代前半の女性たちの需要だ。彼らは、自身が「良い」と思えば、SNSで情報を広げ、仲間を募る。情報発信力がある。まさに「花の駅・千曲川」のターゲット層である。地域の若い女性たちが好む要素のある施設=地域外の同年代の女性たちも支持・共感することの証左が、冒頭の女性誌の「通いたくなる道の駅ランキング第3位」にも現れている。

「花の駅・千曲川」は、これまでの飯山市のメインの顧客層(50~60代)に加え、新たな層を取り込み、そのニーズをキャッチし観光商品として具体化していく拠点でもある。誘蛾灯のように若い女性層を引き付け、彼女たちの心の琴線に触れる商品やサービスを提供していくことで、飯山市の着地型観光商品がブラッシュアップされていくのである。

 

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